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国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会、日本で調査 求められる日本における国内人権機関の設置 ジャニーズ問題以外の人権状況も調査

 国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が4日、東京都内で記者会見を開き、12日間にわたる日本での調査の結果を報告。

  調査の終了に伴い、公表された声明では、メディアやエンターテインメント業界の性暴力問題に加え、障害者やLGBTQ、移民労働者へ人権侵害にリスクにさらされやすいグループ(集団)をめぐる課題を指摘。

 そして、改めて政府から独立した人権救済機関の設置を求めた。

  作業部会のオラウィ議長は、会見で、

 「人権侵害があったという告発があった時は、どのようなものであれ真剣にとらえて、指導原則にのっとった形で適切な調査を行うことが重要だ。その際には、調査は透明性をもった正当なものでなければいけない。

 被害者に対しては謝罪であれ、金銭的な補償であれ、きちんと救済が提供されなければいけない。そしてすべてのステークホルダーがそのような救済へのアクセスを担保しなければいけない」

(1)

 とする。

  この中でいう「指導原則」とは、2011年に人権理事会により設立され、理事会で合意された「ビジネスと人権に関する指導原則」のこと。

  指導原則は、国家が人権を保護する義務と並んで、企業にも人権を尊重する責任があることを明文化したものだ。2011年に国連で承認された。

  一方、作業部会の委員が、日本政府に対し、透明な捜査の確保と被害者の救済の必要が指摘したことに対し、松野博一官房長官は7日の記者会見で、

「作業部会の見解は、国連や国連人権理事会としての見解ではなく、法的拘束力を有しない」

(2)

 と述べ、安定の“非人権後進国日本”の姿勢を世界に見せつけた。

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「ビジネスと人権」作業部会とは何か?

 

 今回調査にあたった「ビジネスと人権」作業部会は、先の「ビジネスと人権に関する指導原則」による、2011年の国連人権理事会の決議により設立された。

  その指針は、企業活動にともなう人権侵害を減らすために、国と企業とが人権を守る義務と責任があることを明確にし、被害者が適切に救済されることを目的とする。

  人権理事会は、世界の人権侵害を防ぎ、人権と基本的自由の保護と促進を担う国際機関。2006年に、従来に「人権委員会」に代わり、国連総会の下部組織として設立される。

  理事国は、国連総会の投票により選ばれた47国が務める(3)。本部はスイスのジュネーブにあり、国連のすべての加盟国の人権状況を、約4年半ごとに調べる、「普遍的定期審査」と呼ばれるものを行う(4)。

  今回の日本への調査では、この普遍的定期審査ではなく、特定の国やテーマに関して人権状況を調べて報告する、「特別手続き」という制度で行われている(5)。

 この特別手続きは、人権理事会から任命された個人の専門家、もしくは5人の専門家により構成される作業部会が担う。

  日本においては、人権理事会に任命された5人の人権専門家のうち、タイとナイジェリア出身の2人が調査を担当(6)。

 国連や政府から独立した立場で、故ジャニー喜多川氏による性加害問題のほか、日本政府や企業の人権状況についても、関係者から聞き取り調査を行っている。

  作業部会が日本を公式に訪問するのは、今回が初めてだった(7)。今後、作業部会は報告書を作成し、2024年6月に人権理事会に提出する予定。

 なお、報告書には日本政府に対する勧告が含まれる。法的な拘束力はないものの、しかし加盟国には適切な対応が求められる。

求められる国内人権機関の設置

 
 また作業部会は、国連から”繰り返し”勧告されてきた「国内人権機関」の設置について、改めて要望した(8)。国内人権機関とは、あらゆる人権機侵害からの救済と、人権保障を促進することを目的とした国の機関のこと。

  政府から独立した立場で、人々の人権が侵害された場合に調査を行い、救済する役割などを担う。作業部会は、日本に専門の国内人権機関がないことを、

「深く憂慮している」

(9)

 と述べ、「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に沿って独立した国内人権機関を設置するよう、改めて促す。

  パリ原則という、国連で採択された国内人権機関の地位に関する原則に適合した機関を持つ国は、世界で80以上、あるとされる。

 国内人権機関は、入管問題などの外国人差別の問題、性的マイノリティや子ども、障害者の権利の観点からも早急な設置が求められる。

  国内人権機関の設置の動きは、日本においてもまったくないわけではなかった(10)。

 とくに2002年3月の国会では、不十分な内容ながらも、人権委員会の設置を含めた人権擁護法案が提出されたものの、国会での成立はなされなかった。

 民主党政権時代の2012年2月には、当時の小川敏夫法相が衆院予算委員会で、人権救済機関設置法案の国会提出について触れたものの、自民党の柴山昌彦衆院議員(その後、2018年10月から2019年9月まで文部科学相に就任)は、

 「人権の解釈が多義的になっている以上、私は、極めて逆の危険性、つまり逆差別の危険性というものが出てくるのではないかということを強く申し上げたい」

(11)

 と述べている。

  要は、日本国内において、北朝鮮と中国同様、”反人権”を掲げる自民党政権が鎮座し続けるかぎり、国内人権機関の設置は夢のまた夢なのだ。

ジャニーズ問題以外の人権状況も調査 日本の裁判官の人権意識の”低さ”を指摘

 

 そもそも、作業部会は、ジャニーズ事務所をめぐる一連の騒動のためだけに来日したわけでもない。作業部会は、各省庁や企業、経済団体、労働組合の代表者や人権活動家らとも面会。

  そのうえで、声明において、企業や経済団体に対し、「UNGPs」と呼ばれる国連のビジネスと人権に関する指導原則の履行の進捗状況や課題をヒアリングしたと報告。

 結果、企業の関係者からは継続的な人権教育や職場レベルの苦情システムの策定といった

 「積極的な実践の報告があった」

(12)

 とする。一方で、

「移民労働者や技能実習生の取り扱い、過労死を生む残業文化、バリューチェーンの上流と下流で人権リスクを監視、削減する能力を含め、さまざまな問題で大きなギャップが残っていることも認めた」

(13)

 とし、とくに労働現場における人権問題について言及した。

  また作業部会は、今回の調査により、司法による救済へのアクセスが「特に懸念される」分野の一つとして、LGBTQの人権問題を取り上げる(14)。

  作業部会は、

「UNGPsやLGBTQI+の人々に関するものなど、事業活動の関連で生じる幅広い人権問題に対する裁判官の認識が低い」

(15)

 と日本の裁判官の人権意識の”低さ”を指摘。そのうえで、

 「裁判官や弁護士を対象に、UNGPsに関する研修を含む人権研修の実施を義務づけることを強く推奨する」

(16)

 と提言する。

  また、声明では、女性や性的マイノリティなど、人権侵害のリスクにさらされている複数の集団(グループ)を挙げて各課題を指摘(17)。

  とくに女性の分野については、男女に賃金格差が依然として大きいことや、非正規労働者全体の約7割を女性が占めていることを問題視し、

 「日本の労働力におけるジェンダーの不平等をよく物語っている」

(18)

 と強く非難する。そのうえで、女性が昇進を阻まれたり、性的ハラスメントを受けたりする事例が報告されていると強調した。


(1)渡辺志帆「国連「ビジネスと人権」調査団 日本に「課題残る」 元ジャニーズJr.らにも聞き取り」朝日新聞GLOBE+、2023年8月4日、https://globe.asahi.com/article/14973755

(2)望月衣塑子「「法的拘束力ない」と松野官房長官 ジャニー氏からの性被害を聴取した国連作業部会の指摘に」東京新聞、2023年8月7日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/268566

(3)加藤あず佐「ジャニーズ問題など調査 「ビジネスと人権」作業部会、どんな組織?」朝日新聞デジタル、2023年8月4日、https://digital.asahi.com/articles/ASR845WC9R84UHBI010.html?_requesturl=articles%2FASR845WC9R84UHBI010.html&pn=5

(4)加藤あず佐、2023年8月4日

(5)加藤あず佐、2023年8月4日

(6)加藤あず佐、2023年8月4日

(7)加藤あず佐、2023年8月4日

(8)國﨑万智「独立した人権機関なく「深く憂慮」国連の部会、LGBTQ差別や男女の賃金格差にも言及」HUFFPOST、2023年8月5日、https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_64cda188e4b0560dda033891

(9)國﨑万智、2023年8月5日

(10)安田菜津紀「国連が日本に創設を求める「人権機関」とは? なぜ法制化が進まないのか?」2022年11月7日

(11)安田菜津紀、2022年11月7日

(12)國﨑万智、2023年8月5日

(13)國﨑万智、2023年8月5日

(14)國﨑万智、2023年8月5日

(15)國﨑万智、2023年8月5日

(16)國﨑万智、2023年8月5日

(17)國﨑万智、2023年8月5日

(18)國﨑万智、2023年8月5日

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