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アラサー;就活おわったので、婚活はじめました。


※これは、

 あと3ヶ月で30歳をむかえるアラサー女が、

 山あり、谷あり、彼氏なし。

 リアルな婚活事情を描いていく。

 そんな物語である。


「新しい職場!」

 汗ばむ両手のひらを強く握りしめ、私は空にむけて伸びをした。
 空から降りそそぐ太陽の日差しはまさに夏の暑さで、じんわりとした背中の汗がワイシャツと私の背中をぺったりとくっつけた。
 さすがにびっちょりとまではいかないが、親指と人差し指でシャツをつまんで引きはがしてしまう。小学生のころから、ずっとそう。

 それにしても、暑い。
 新しい職場は森のなかにある。小さな縫製工場だ。実労9時間、給料14万。田舎の工場なんて、そんなものだ。
 それでもコロナにより、契約満了になったあと、何十件と面接を受けて、ようやく就いた職場。
 本当にね、仕事が決まらなくて1年もの時間を使った。働けるだけでありがたいから給料が安くても貯金が貯まるまでは我慢……!

 そうよ、私。我慢なの。

 正社員試験は高卒、アルバイト・契約社員経験しかない世界にはとても厳しい。
 そんななかで決まったから、お仕事あるだけで本当に尊いんだから!

 なんて思いを、汗ばむ右手に握って、もうひとつ。汗たっぷりの左手には、

 若い社員がいれば、その人と結婚。そして寿退社!

 ──な~んて、脳内は花畑の思いを握る。

 ちなみに、工場長は50代くらいの既婚者だったからノーマーク。

「……よし」

 ゴクッ、とツバを飲む。
 新しい職場のドアを開くとき、毎度、ツバを飲んでしまう。面接の際に一度、来ているというのに、ビビりというか、上がり症というか。
 まったく、困った性格を持っている。

 できることなら、開けたくないな。って思いながら、

 外開きのドアに手をかけて、私は工場の下足場へ踏みこんだ。
 背中から太陽の光が射しこんで、そこそこ広い下足場に私の黒い影が伸びた。

「お、おはようございます! 本日からお世話になります、よろしくお願い致します!」

 私の声がしんとした下足場にひびいた。声は少し反響したが、すぐに消えて、エアコンが回る音だけが静かに鳴っている。
 夏の外気を押しだすようなエアコンの冷たい風に、背中の汗がすこし冷たくなって、私はピンッと背筋を伸ばす。

 しばらくあって、

「あ~! イチゴちゃん、来た。あがって、あがって」

 ひとりの女性があらわれた。彼女はのちに私の上司で、教育係になる優しい社員さんだ。
 上司にみちびかれ、工場へ入ると、私の紹介をかねた朝礼が開かれた。

 そして、

「今日から入社するイチゴ餅です! 皆さん、どうぞよろしくお願い致します!」

 元気に頭をさげて、そして、私は顔をあげ、知る。


 職場、女の人しかいないっっ!!!


 夏の空気が瞬時に頭のなかを駆けめぐっていった。熱風が吹きあれて、脳内お花畑が枯れていく。

 そして、私は思った。

 婚活しよう──うん。

 これが私の7月1日。

 就活おわったので、婚活はじめました。

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