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次は差し伸べてくれた手を掴むよ

7月28日。

先輩後1年卒論しません?

卒業してほしくないです


3年生になったばかりの春の日。
新しく始まった授業は、先輩達も何人か参加するグループ活動がメインのものだった。

同じグループには同期が3人と先輩が3人。
そのグループに居たのが彼だった。
彼は私が意見を言ってるときに言葉が詰まったら誰よりも先に「こういうことかな?」って私の足りない言葉を補ってくれる人だった。
彼が前に立って発表する時に目が合うとニコッと笑って緊張するって顔を赤くするような人だった。
毎週授業で会って、話して。でも、それ以上の距離感には中々ならなかった。
前期がそろそろ終わるって時に1人がせっかく仲良くなったから飲みに行こうよと初めて授業以外のところで会うことになった。

それまでは先輩のことで知ってるのは名前と学年とツボが浅いところと優しいところくらい。飲み会の席で近くになったけど中々話せなくて先輩は男子の後輩と一緒に話してて。
緊張してなのか意識しすぎてたのか全然先輩の方向を向けなかった。

1回目の飲み会はそんな感じで終わった。
それからこの集まりは定期的に開催されるようになった。

第2回目は冬だった。
忘年会といってLINEに通知がきてからすぐに日程が決まった。
この日私は先輩絶対話す!と決めて家を出た
先輩とは席が遠くなって、どうしようかと思ってたけど、段々お酒が入ってきてそれぞれが移動するようになったくらいのときに私は自分のグラスを持って彼の横に行った。
本当にくだらない話しを皆んながいるその空間で2人だけでしてた。誰かが話しをし出すと2人で目を合わせてその話しにツッコミを入れる。そして笑って。彼は世界史が好きで、行きたい国があるんだよねと言って私に大好きな国の話しをしてくれる。2人とも本を読むのが好きってことが分かって私がその時読んでいた本を紹介したら彼はその場で調べて買ってた笑

2次会に行く15分くらいの道を彼と私は隣で歩いた。
「先輩、最近何してるんですか?」
「本当に卒論やばいんだよね。俺さ本当に辛いことあるとふさぎ込んじゃうタイプなんだよね。」
「わかります。それ、誰とも話したくなくなるやつですよね?」
「そうそう。ダメなんだけどね。」
「私も最近悩みがあって、!」
2人の弱みを話し続けて最後はお互いに
「でもそうやって頑張ってるのがすごいよ」
「先輩だってこれから働き出して辛いことがあっても1人で抱え込んだらだめですよ!」
って言い合う。

2次会にいって男子がふざけだしたときに
私の名前が呼ばれる。
「何やってんのー」
って呆れ顔で言うと、笑顔で私の目を見る彼がいて、ドキッとする。
他の人とと話してて、もう今日は先輩と話せないなーって思ってたら先輩が私の前の席に座る。好きな漫画の話、もし、イタリアに行けたら何がしたいか(彼はアッピア街道を歩きたいと言ってた)本当はどんな卒論のテーマが良かったのか、お互いの第一印象、家族との話し、人生相談、これからどんなことしたいか、多分そんな話しを永遠にしてた。
ずっと笑ってて、たまにお腹痛くなるくらい笑ってた。楽しくて、うるさい居酒屋の中で先輩が少し大きな声で、お互いに笑いすぎてるのに私に「大丈夫ー?」って身を乗り出して言ってくれるのにドキッとした。

それからは何回かみんなで飲みににいったかな。


2月。
先輩の卒論発表会に顔を出すとスーツ姿で少し緊張気味の先輩がいた。
カッコよかった。緊張してるんよって言って誰よりも顔赤くして。先輩の周りにはたくさんの友達と後輩がいた。
ちらっとこっちを見てニコッとするその笑顔がたまらなく愛おしかった。

卒業式のとき。
後輩から貰ったんだといって花束を持った先輩に写真を撮って欲しいとお願いした。
何回見返したかな。その写真。
友達と飲み会があるからと言って私たちが企画した宅飲みには絶対来るから!って言って途中で消えていった先輩。
宅飲みなんて初めてだったけど最後だからって参加することにしたし、ずっと待ってた。
深夜2時くらい。
インターホンが鳴る。私はすぐに立ち上がって人の家なのに勝手に返事して走って玄関に行ってドアを開けた。
笑顔で「帰ってきたよ」っていう先輩がいて私は多分満面の笑みで「待ってました。」っていった。それから後輩からって1人ずつ夜な夜な卒業式みたいなことした。プレゼントを渡して一言ずつ感謝の言葉を添えて。何故かわからないけど私にとってこの空間がすごく居心地の良いものでそれは先輩がいてくれたからでそれが今日で終わってしまうんだと思うと泣けてきた。途中から自分が何言ってるかわかんなくなって。皆んなが笑いながら「大丈夫かー!」って言ってくれるけど、先輩の顔を見たらもっと泣けてきた。
最後に先輩の目を見て、でも、先輩達に向けて「大好きです!また、帰ってきたら集まりましょう!」って伝えた。そしたら先輩は「そうしよう」って私の目を見て笑ってた。

最後にみんなで曲流してたくさん歌った。
座り込んでる私に先輩は
「ほら百いくよ」ってそばに来てくれる
「百!」って何回も名前を呼んでくれる
一緒になって笑ってくれて、くだらない話に付き合ってくれる。
誰にも言ってないことも、誰かに認められたかったことも話した。
「そうやって頑張れるところがすごいと思ってる」って笑って誤魔化す私に真剣に立ち止まって面と向かって言ってくれたのは彼だけだった
ずっとずっと、最高の先輩だよねって同期と話して、彼は私の中で"仲の良い先輩"で彼の中で私は可愛い後輩の1人だった。そのはずだった。

だけど、最後の最後で私が好きな曲が流れた時に座り込んでる私の前に立って、名前を呼んで、「ほら、行くよ」って初めて手を差し伸べてくれた。
私はその差し伸べられた手をみて、迷った何故か迷った。この手を掴んで良いのか。好きなわけではないじゃん。私からみた彼はただの"仲の良い先輩"。そして、彼からみた私は可愛い後輩の1人。そう心に言って彼の手を掴まなかった。

先輩の隣に座って、帰ったら先輩がこの街を出ることを知ってて名残惜しくて、何時まで、何時までって引き伸ばして別れを告げることを先延ばしにした。


朝になって、帰るってなって、
私は先輩に玄関まで見送ってもらった。

彼は私が「私がこの街にいる間に絶対また帰って来てくださいね」って言うと
「うんうん。また、泣きそうじゃん。大丈夫か」って最後まで笑顔で優しさを私に与えながら「頑張ってね。」と言ってくれた。
それは、私の夢も目標も悩みも知ってる先輩からの心からの応援だったと思う。
いつもみたいにおちゃらけて笑って私は答えた。「先輩もね!」。


家の扉を閉めた途端涙が止まらなかった。
なんで最後の最後にそんな言葉と優しさをかけてくるんだろう。
本当に泣いちゃったじゃん。って心の中で思った。その止まない雨が
あぁ、私って先輩のことがずっと好きだったんだってことに初めて気づかせた。

先輩のこと嫌いな人なんていないでしょ。
めちゃくちゃ面白いよね。話しやすいよね。
なんて言葉で"仲の良い先輩"なんだって一線を私が引いてた。少し後悔したけどもう前を向いて歩こうとしてる彼を止める気持ちになんてならなかった。



3月の朝5時の家までの帰り道はまだ暗くて。
本当にこの日と先輩がいた日々が終わったのが信じられなかった。

もう1回、あの2次会に戻りたいし

次は彼から差し伸べられた手を迷わずに掴みたい。







p.s.最初の2行はプレゼントした色紙に書いた言葉とその言葉に込めた本音で、さっき夏休みの集合の連絡が来たよ。






それではまた。

百。

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