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《迷走のループ》第5話 真実への転換点 【小説】


5-1 疑念の芽生え

 メイは恵子に対するインタビューを終え、礼を言って【愛の恵み占星館】を後にした。しかし、その胸には不安と疑念が渦巻いていた。恵子の言葉と態度には明らかな違和感があった。普段は、客観的な事実を頼りに取材するメイだったが、この時ばかりは、第六感ともいうべき勘が彼女を動かしていた。

「私の占いが彼女にとっての指針となっているのでしょう」

 メイは恵子の言葉を思い返し、独り言をつぶやいた。

 彩陽が恵子の占いを絶対のものと信じていること、そして「他人を救うことで自己を輝かせる」という彩陽の信念。それらの要素がどこかで繋がっているように思えたが、どのように繋がっているのかは、まだ見えていなかった。

 メイは【愛の恵み占星館】から出て、街の喧騒に身を任せながら恵子の言葉を振り返った。しかし、何度考えても納得できる答えが見つからなかった。

「どうして彩陽さんはあんなに信じているんだろう?それとも、信じるしかない理由があるのかしら?」

 メイは頭の中で繰り返し抱え続けた。

 しかし、今回の取材の中では篠原の行方についての手がかりも得られず、彩陽の貯金を持ち逃げした彼がどこに隠れているのかも分からないままだった。その無力感がメイの中で膨れ上がり、苛立ちを募らせていた。

「もっと情報を集めないと何も始まらない。恵子さんのことも、篠原のことも、すべての謎を解かなければ…」

 メイは決意を新たにし、次の行動を開始する決心を固めた。

5-2 過去を暴く

(やはりあの【占い士】が鍵になっているような気がする…)

 そう考えたメイは、恵子の過去を調査し始める。
 まず最初に、インターネットで彼女の名前について検索をかけた。すると、予想外の情報が画面に現れた。

『教祖山田昌子の現在』

 それは、インターネット上に多くある匿名掲示板のひとつだった。
その中には真偽が定かではない情報がいくらでも書かれている。そのような情報を真に受けて振り回されるほどメイもバカではない。少なくともジャーナリストやライターを名乗っている以上、ファクトチェックは最低限の責任である。

 しかし、その時見つけた掲示板の記事が、妙に心に引っかかり、メイにしては珍しく掲示板を読み進めていった。

「山田昌子…」

 メイは眉をひそめながら、掲示板の書き込みを読み進めた。彼女の過去についての情報が少しずつ明らかになっていく。

 山田昌子はかつて、小規模なスピリチュアル教団の教祖として知られ、その教団はトラブルの種をまき散らし、訴訟に巻き込まれたことがあった。更に、その教団の経営が破綻し、教団は多額の借金をしたまま解散となった過去があった。
 しかも教団は法人化していたわけではなかったため、その借金は、実質的には教団幹部の借金であり、教祖は幹部に借金を押し付けたまま雲隠れしていたのであった。

 その事件の後、洗脳が解けたものも多かったが、一部の信者は、まだ狂信的に教祖であった山田昌子の行方を探しているとのことだった。

 そして、その掲示板の最後に

「山田昌子は『山田恵子』という偽名を使い、G県K市に潜んでいる」

という書き込みがあったのだ。

「スピリチュアル教団の教祖…借金まで抱えていたなんて。これが恵子さんの過去なの?」

 メイは驚きと共に、何かを掴みかけた気がした。

 スピリチュアル教団のトラブルや借金は、恵子の言動の背後に隠された真実への糸口となりうると直感した。そして、恵子の言葉や行動には何か裏があるように感じられた。

「もしかしたら、彼女が言っていることは、彼女が犯した過去の罪と何か関係があるのかもしれない。だとすれば、必ず何かしら手がかりが隠されているはずだわ…」

 メイには、何故かそれが篠原の情報に繋がっているという確信があった。

 メイは決意を新たにし、恵子の過去に迫るべく、更に調査を進めることを決めた。

5-3 衝撃の事実

 山田恵子こと山田昌子の過去を探っていくのと並行して、メイは篠原の発表した記事の調査も進めていた。
 記事のテキスト解析に引き続き、記事と同時に発表されていた写真についても解析を行っていた。
 昔と違い、今は写真自体がデジタルデータである。加工や合成なども昔に比べれば容易になっているが、それでもどこかに違和感は出てくる。篠原の発表した写真は、意図的であるのか、あまり精緻な情報がわかるような写真は少なかったが、その中でも数枚、未知の原住民が写っているものがあった。
 被写体として人間が写っているものは違和感が出やすい偽写真の一つである。メイはそこに絞って解析をかけていたのだ。
 メイが睨んだ通り、これらの写真を解析したところ、偽画像である可能性、それもAIによって生成されたものである可能性が強いとの結果が出た。

「記事の証拠写真まで偽物だったのか…」

 メイは驚きと怒りの念を抱えながら、それを確認するために何度も情報源を確認した。

 画像解析の専門家に確認した話では、写真に写っていた原住民の目の反射光を解析した結果、フェイク画像であると判定したらしい。
 結論としては、AI学習によって生成された画像であり、本物の写真である可能性は極めて低いとのことだった。

 記事のテキスト解析による山石門土と篠原武大の同一性。そして、フェイク画像による記事自体の捏造の可能性。
 山石門土という存在が、篠原武大その人である可能性は、メイの中では、ますます高まった。

 だが、まだ決定的な証拠が欲しい。

 メイには、その鍵を握っているのは、間違いなく山田恵子だという確信があった。

「山石=篠原だということは、ほぼ間違いないはず。篠原、お前はどれだけの罪を犯してきたんだ?」

 メイは篠原への怒りを抱きながら、同時にその罪を追求するために、山田恵子の過去も探っていく決意を固めた。

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