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鉛筆デッサンを学ぶ:高校受験の話

前回の記事に続き、私がなぜ「工業高校」を選択したのか。
また高校受験に対し、早めに対策に取り掛かる重要性や、
私が行った実技試験への備えなども語っていきたい。



当時、受検を来年に控える、中学二年生当時の私いたたまん少年は、
たいそうゲームにご執心であり、
「将来はゲームクリエイターになってやる」と思ってしまったのだ。

ただ、キャラクターデザインや背景などにはそれほど興味はなく、
タイトルロゴやパッケージのデザイン、説明書、メニューレイアウト、フォント、販促ポスター、什器に魅かれてしまうという、「内なる変態」が顔を出したのである。

「いけない、、、このままでは計算しかできない人になってしまう、、、」

そう思った少年いたたまんは、これまでの既定路線「商業高校」から、工業高校では珍しい「デザイン学科」を目指すのである。

ただこの学校、筆記試験と面接に加え、
鉛筆デッサンの実技試験もあるのだ。

そのことを知った私は、担任や進路指導の先生と相談し、放課後、週に2度ほど美術講師からマンツーマンレッスンを受けさせてもらえることになった。

レッスン初日、テーブルの上にティッシュ箱が置かれ、
画用紙・画版・鉛筆数本を渡され、
「画力を見たいから、思うように書いてみて」と言われ、そのまま職員室に戻っていった。

私は緊張しながらも、初めての鉛筆デッサンに挑戦したのである。

ちゃんと立体感が出るように三面の色を明るさ順でマットに塗り分け、
しっかり境界が分かるよう太い輪郭線を描き込んで箱を表現している。

また、白テーブルに落ちるティッシュ箱の「影」は、6B鉛筆で何度も何度も重ねることで、鉛のような金属的光沢を放っており、画用紙の凹凸すら感じさせない程の艶やかな仕上がりだ。


鉛筆デッサンを知っている方は、上記テキストに違和感しか感じないと思うが、その認識、正解である。


「よし!上手くかけたぞ!」と息巻く、少年いたたまん。
職員室に乗り込み、美術教師の先生に手渡した。

私は、、、その時の美術教師の顔を忘れることはないだろう。

学校でも大人気なほど美人な先生が、大きく目を見開き、数秒止まったかと思えば、私を見てまた画版に目を戻す。
的確に例えるならそう、ギャグマンガ日和に登場する「うさみちゃん」である。

他の教師陣も近くを通るたび、フリーズしている。
どうやら職員室内部に、時を止める何かが存在しているらしい。


「あ、、、、うん、、、そうよね、、、形はいいわ、形は。」
凄く動揺しながらも、沈黙の中ようやく声を出し動き出すことができたようだ。


鉛筆デッサンをしたことがない、知らない方向けに少し補足すると、

鉛筆デッサンでは主に「ハッチング」という技法を使い、クロスした線を組み合わせたり、同じ方向でかけ合わせたり、鉛筆の濃淡・角度・線の太さで立体感や質感を表現する。
また「練り消しごむ」を使って明るい部分を表現したり、場合によっては描いたところを摩ってボカシを入れることもあるのだ。


13歳の私でも、流石に今の状況に気付いてしまった。

学校のヴィーナスと謳われる先生の顔を、キュビズムのような顔まで崩壊させ、更には生徒に向かって明らかに社交辞令のようなコメントを絞り出させてしまったのである。

それからというもの美術教師は、職員室という退避場所に逃げることもなく、みっちりマンツーマンでデッサンの基礎を教えていただき、私は技量を上げ、無事高校入試でも実技試験で無事合格したのである。


この場をお借りして、当時の美術教師へ感謝の言葉を述べたい。
「先生のあの時の顔、忘れない。」


#創作大賞2023
#エッセイ部門

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