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ベータという話

皆さんは『ベータ』という存在をご存知だろうか。
もちろんベータ版などの話ではない。
これはかつて存在したベータと呼ばれるものと、私の父の記録である。


ベータ、それはかつてSONYが販売したビデオテープレコーダー
「ベータマックス」である。

今の若い人は既にVHSすら見たことない人もいるかと思うが、
VHSと同時期に発売され、二大規格となっていた当初は、ご家庭によってVHSを採用した所と、ベータを採用した所で様々だったであろう。

ちなみに私に父は「ベータマックス」を購入している。
※以後ベータと記載


◆ちょっぴりベータマックスの仕様解説

使っていた方は分かると思うが、ベータは何を隠そう録画時間は1時間。
VHSは標準で2時間と映画にも配慮された仕様だった。

のちに、画質を犠牲にする形で長く記録できるモードなども出てくるのだが、この初期の設計で躓いていることは否めないだろう。

もしベータが覇権を取ってしまっていたら、レンタルビデオ屋は映画が上下巻に分かれてしまい、タイタニックに至ってはFF8並みの4巻セットとなってしまう。


話がそれてしまったが、そんなベータを購入した我が実家に暮らす、いたたまんに悲劇が襲う。

面白い番組を録画したからと、友人同士でビデオテープを回すことになり、いざ私の番に回ってきたのだ。
だがしかし、ビデオテープのサイズがどうにも違うようでビデオデッキに入れることができない。

いたたまん少年は、このときようやく「VHS」の存在に気付くのであった。


借りた手前、さすがに見ていないとは言えず、
当たり障りのない感想をビデオテープの主に話しながら次の人へ回していくのであった。


だが事件は続く。


友人「今度続きをいたたまん君の家で見ようぜー」

神のいたずらとはまさにこの事。
小学生ではあったが、その時に限っては尋常ではない冷や汗(脂汗)が噴出していただろう。

何とか当日の約束は回避し、週末に遊ぶ約束をとりつけたいたたまん少年。
だが先送りしただけで、まだ事件は解決していないのだ。


学校から帰宅後し、父が仕事から帰るのを待ち続け、玄関で正座する私。

帰宅するなり、まずは父の顔を見てから土下座し、
「お年玉使って良いのでビデオデッキを買わせてください!」
と営業顔負けの陳情方法で、小学生がビデオデッキ購入を催促するのであった。

尋常じゃないことを察してか、父はすぐにOKしてくれ
「明日仕事帰りに買ってくるよ」と約束してくれた。


そして訪れる翌日。
父の帰りを心待ちに待っているいたたまん少年。

車が自宅前に止まる音がし、急いで玄関に駆け寄ると、ビデオデッキを持って立っている父の姿。
その時の姿はとても凛々しく見えたであろう。

「これが欲しかったんだろー?」と父から箱を手渡され、いたたまん少年は笑顔で箱をのぞき込む。


「ED|Beta」


小学生の私でも、忌避の存在である「Beta」という文字は既に脳内に焼き付いており、英語が理解できずとも即座にこれが「ベータマックス」だと理解できた。

脳が理解できたと同時に、涙がこぼれてくる。
「これじゃないーちがうのー」と泣きながら父に懇願するが、
父としては言われたままビデオデッキを買ってきたわけで、なんのこっちゃである。

案の定、泣きじゃくる私に怒りの鉄拳が降り注いだのは言うまでもない。


その後、母の仲裁もあり、本当に欲しかったのは「VHS」の方だと理解してくれ、商品を返品したあと買いなおしてきてくれたのだった。

ありがとう父上様。。。


訪れた週末の友達との約束の日、
無事、新しいVHSのビデオデッキで視聴会を開催することができたのだが、私が最初のビデオテープを見てないことに気付いた友人が、最初の分も持ってきてくれていた。


やだ、ばれてんじゃん。


ビデオテープレコーダーの覇権争いには、メーカーだけじゃなく一般消費者にも悲しいストーリーがあることを知っていただきたい。



なお、父はニッチな物にひかれる性質があるのか、

「これからはMDだ!」

と高級MDコンポを購入しており、無事時代の流れとともにユーザーも消失していった。
今でも実家の私の部屋にあるが、MDとしては使用していないものの、iPhoneを挿して使う外部スピーカーとして活用されているようだ。



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