2019年時点のピンボールゲーム最高傑作 〜「Yoku's Island Express」評
良きゲームを祈る(ハヴ・ア・ナイス・ゲーム)。
(村上春樹「1973年のピンボール」より)
個人的なことで恐縮ですが、僕は昔から、ピンボールを題材にしたビデオゲーム(以下、ピンボールゲーム)が好きでした。
「カービィのピンボール(ゲームボーイ, 任天堂, 1993)」に始まり、「ポケモンピンボール ルビー&サファイア(ゲームボーイアドバンス, 任天堂, 2003)」、「Pinball FXシリーズ(XBOX 360, Zen Studios, 2007)」、そして唯一無二の異色作「大玉(ニンテンドーゲームキューブ, 任天堂, 2006)」など、ゲーム人生のどの時期においても、何かしらピンボールゲームを遊んでいました。
なので、「Yoku's Island Express」(以下、本作)の存在を知ってすぐに飛びついたのは、僕にとっては自然なことでした。
遊んでみてすぐに「これはピンボールゲームの傑作だ」と感じました。そしてその印象は、ストーリーをクリアしても消えることはありませんでした。
今回は、ピンボールゲームの歴史の中に本作を位置付けて、本作のどのような点を傑作だと感じたか説明します。
1. 本作の概要
本作は、スウェーデンのインディースタジオ「Villa Gorilla」の第1回作品で、2018年にリリースされました。僕がプレイしたNintendo Switch版の他に、PC(Steam)・PS4・XBOX Oneでリリースされています。
主人公は、フンコロガシのような虫「ヨク」です。南国の島「モクマナ島」を舞台に、ヨクは島の郵便屋さんとなって、郵便物を配達したり、住民の頼みごとを解決したり、さらには島の存亡がかかった危機を解決してゆきます。
本作の特徴は、手描き風の美しいアートワークと、ピンボール風のゲーム性です。
広大なモクマナ島には、陽光きらめくビーチから鬱蒼としたジャングル、怪しげな洞窟から雪山に至るまで様々なロケーションがあり、それらは緻密に描き込まれた美しい2次元グラフィックで表現されています。
また、島のあちこちにはピンボール台のような仕掛けが大量に用意されています。それらの仕掛けを解くために、ヨクが引きずっているフン(?)をピンボールの玉に見立てて、ピンボールをプレイすることになります。
このように、広大な島を舞台にピンボール風のアクションを遊ぶゲームなので、本作は、2Dオープンワールドピンボールアクションゲームと呼ばれることがあります。
2. ピンボールゲーム史における本作の位置付け
ピンボールゲームの歴史と、その歴史によって形作られたこのジャンルのセオリーに位置付けた時、本作はやや特異です。
ここでいうピンボールゲームのセオリーとは、「1. 基本的に現実のピンボール台を再現したものであること」と「2. 現実のピンボールが持つシビアなゲーム性を受け継いでいること」です。
ビデオゲームの歴史の黎明期から、ピンボールをコンピュータ上で再現する試みは続けられてきました。
初期の「Pinball Construction Set (Apple II, Electric Arts, 1983)」や、「ピンボール(ファミコン, 任天堂, 1984)」から、近年の「Pinball FXシリーズ (XBOX 360など, ZEN Studios, 2007〜)」「The Pinball Arcadeシリーズ (PCなど、FarSight Studios, 2012〜)」に至るまで、見た目やボールの挙動など、現実のピンボールをリアルに再現する取り組みが行われてきました。
(注:Pinball FXシリーズは、ビデオゲームならではの派手な演出も魅力の一つですが、主眼はあくまで「ピンボールをリアルに再現すること」に置かれています)
必然的に、これらピンボールゲームには、現実のピンボールが持つシビアなゲーム性もまた受け継がれています。
例えば、フリッパーの精密な操作が必要、少しでも気を抜くとボールは問答無用でアウトホール(下部の穴)に吸い込まれ、3回ボールをロストしたらゲームオーバー、などなど。
「カービィのピンボール(ゲームボーイ, 任天堂, 1993)」や「ポケモンピンボール(ゲームボーイ, 任天堂, 1999)」といったキャラクターものでは、こういったシビアさは若干マイルドなのですが、それは、「ピンボールゲームとしては難易度が低い」というべきもので、他のジャンルのゲームと比較すると、依然シビアであることは変わりません。
一方、本作はやや特異で、これらピンボールゲームのセオリーには当てはまりません。
本作には「ピンボール台」はなく、現実のピンボールを再現したものではありません。また、本作では、これまでのピンボールゲームが持っていたシビアさがほとんど取り除かれています。
ボールをアウトホールに落としてもほぼノーペナルティ(ゲーム内通貨であるフルーツが若干減るだけ)、ミッションを途中で抜けて他のミッションに挑戦することも自由、メインストーリーをクリアするだけであればそれほど難しいテクニックは不要、といった具合に。
「現実のピンボール台を再現したものではない」という意味で本作に若干近いのは、「大玉(GC, 任天堂, 2006)」です。
このゲームでは、戦国時代の合戦場をピンボール台に見立てて、巨大な玉「大玉」をゴロゴロ転がすことで、合戦を勝ち抜いてゆきます。
ピンボールにはない要素(マイクを使って合戦場の兵士を声で誘導する、ステージクリアの条件は合戦場をゆっくりと進む巨大な鐘をゴールに到達させること etc.)もあり、現実のピンボールとは全く違うゲームです。
ただし、大玉は敵兵士・味方兵士関係なく押しつぶしてしまうので、合戦を有利に進めるためにはかなり精密なボールのコントロールを要求されます。なので「ピンボールゲームが持つシビアさ」はこの「大玉」もしっかり備えています。
このように、位置付けが近い「大玉」も本作と異なる点があって、本作はこれまでのピンボールゲームのセオリーから外れた特異なゲームであるということが分かります。
3. 本作を傑作だと感じる理由
僕が本作を傑作だと感じる理由は、上で挙げた「本作が他のピンボールゲームと異なっている点」と大きく関わっています。
それは、「カジュアルさとポップさの両方を兼ね備えていること」「初心者から上級者までを受け入れる幅の広さをもっていること」です。
本作は手描き風のグラフィックは美しく、また主人公のヨクが可愛いらしいため、ポップでとっつきやすい印象を与えてくれます。そして、メインストーリーをクリアするだけなら難易度が比較的低く、また、全ての仕掛けを解かなくても良いので、ピンボールゲームに慣れていない人でも楽しむことができます。
(注:ちなみに、「メインストーリーをクリアするだけなら全ての仕掛けが解けなくても大丈夫」という構造は「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド(Wii U / Nintendo Switch, 任天堂, 2017)」にも見られ、オープンワールドゲームの一つの利点だと思います)
一方で、ピンボールゲームに慣れている上級者は、難しいテクニックを要求されるサブミッションで存分にその腕を振るうことができます。
このように、初心者から上級者まで、これまでピンボールゲームに触れたことがない人でも楽しめるゲームに仕上がっていることが、僕が本作を傑作だと感じる理由です。
4. 総評
ここでは、ピンボールアクションゲーム「Yoku's Island Express」の評論をしました。
そして、このゲームがこれまでのピンボールゲームとは違って、とっつきやすく、初心者から上級者まで楽しめる傑作に仕上がっていることを示しました。
コアでマニアックなジャンルのゲームを、そのコアなゲーム性を損なわないままにポップに生まれ変わらせたという意味で、本作の立ち位置は「スプラトゥーン(Wii U, 任天堂, 2015)」を思い起こさせます。
スプラトゥーンがTPSというジャンルを再定義してみせたのと同じように、本作はピンボールゲームというジャンルを再定義していて、新たなファンを呼び込むきっかけとなる作品となると感じました。
(了)
2019.7.10 Itaru Otomaru
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