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ゲーム評:エースコンバット7 スカイズ・アンノウン

1. 前置き

ここでは、2019年1月17日に発売されたゲーム「エースコンバット7 スカイズ・アンノウン」の評論をします。

本作は、2007年11月にXBOX 360向けに「エースコンバット6 解放への戦火」が発売されて以来、ナンバリングとしては実に12年ぶりのシリーズ最新作です。
(とは言え、外伝の「エースコンバット アサルト・ホライゾン」や基本プレイ無料の「エースコンバット インフィニティ」等があったり、アニメ映画「スカイ・クロラ」のゲーム版を本作のチームが手がけたりしていたので、10年以上全く音沙汰がなかったわけではないですが)

僕自身は、初代PlayStationで「エースコンバット2」を遊んで以来、第1作目を除くナンバリング作品は全て一通り遊んできました。音楽が素晴らしい「0」や、グラフィックがHD化されより美しくなった「6」は、大好きな作品です。

本作に対する僕の評の結論を先に述べると、以下の通りです。
「VRモードは文句なく素晴らしい。しかし、それ以外の部分に、要素が噛み合っていない(チグハグな)ところがあり、それによって本作の魅力を伝えることに若干失敗している。」

以下、順を追って説明してゆきたいと思います。

2. VRモードの素晴らしさ

まず、PlayStation VRで体験できる本作のVRモードは、文句なく素晴らしいです!
「戦闘機を操縦してみたい」というのは、全世界の男の子が一度は見る夢だと思うのですが、それが叶います。

眼前を飛ぶ敵機をキャノピー越しに捉え、自機を急旋回させる動きなど、本当に戦闘機に乗っているようでした。体にかかるGまで、幻覚してしまうほどでした。

本作のVRモードを体験する前まで、僕の「戦闘機パイロットなりきり体験」のベストワンは、かつて二子玉川に存在したテーマパーク「ナムコワンダーエッグ」(運営は奇しくも、本作の開発元と同じナムコ)のアトラクション「ファイターキャンプ」でした。

でも、本作のVRモードの臨場感は、当時の思い出で補正しても、ナムコワンダーエッグのアトラクションを余裕で超えたと思います。
こんな凄いものが家庭で体験できるなんて、いい時代になったものです 笑

このように、本作のVRモードは、フライトシューティングという本作のジャンルの未来を、十分に感じさせてくれるものだったと思います。

3. 要素が噛み合っていない(チグハグだ)と感じられるところ

一方で、本作のVRモード以外の部分には、いくつか、要素が噛み合っていない(チグハグだ)と感じられるところがありました。それが、本作の魅力をうまく伝えきれていない結果になっているように感じました。ここでは、2点指摘します。

第1は、レーティングが低い(全年齢対象)わりには、シリーズ経験者以外お断りになっている点です。

2017年のインタビューによると、本作のブランドプロデューサー河野一聡氏は、「初めて「エースコンバット」を触る方も、ずっと「エースコンバット」を楽しんでこられた方も、どちらも気持ちよく楽しめるバランスを目指します。」とお話しされていました。

そして、できるだけ間口を広げるためか、本作のレーティングはもっとも低い「A(全年齢対象)」に設定されました。

しかし実際には、シリーズ未経験者や現代の子どもが遊ぶための導入が不十分で、シリーズ経験者のみに開かれた作品になっていると感じました。
より具体的には、「プレイ感覚がPS2時代のままアップデートされておらず、古めかしい」点が挙げられます。

上記のIGN JAPANのレビューをはじめ、多くの人が指摘しているように、本作の難易度は高いです。

難しいミッションを乗り越えるために何度もリトライし、少しずつコツを掴み、そして、ついに乗り越えて、その時にプレイヤーに快感を感じてもらう、というバランス調整になっています。
場合によっては、そこまでの進行状況を諦めて、お金を稼いでより高性能な機体を手に入れるためにストーリーを最初からやり直すことも必要です。

このようなプレイ感覚は、2019年現在のゲームというよりはむしろ、PS1〜PS2の時代までのゲームのものです。
初めてエースコンバットに触れる人(現代の子どもや未経験者)からすると、かなり違和感が強いのではないかと思いました。

昨今のインディーズゲームシーンでは、難度が高さを売りにしてヒットしているゲームがいくつもあるので(CupHead・Celesteなど)、「難しいこと」それ自体はマイナスポイントとは思いません。

しかし、PS2時代の古めかしいプレイ感覚が、なんのリファインも、初心者へのフォローもされず、むき出しのまま提示されている本作は、やはり「初めてエースコンバットに触れる人でも楽しめる作品」とは言い難いと感じました。

第2は、写実的なグラフィックをウリにしているわりには、4K/HDR非対応である点です。

本作では、実在の戦闘機が多数登場し、精密なモデリングによって写実的に表現されています。また、実在感のある雲の表現や天候の表現など、空を飛んでいる時に飛行機に及ぼされる影響もリアルに表現されています。
このように、全体として本作は「写実的でリアリティのある美しいグラフィック」がウリになっている印象を受けます。

しかし一方で、4K解像度やHDR(High Dynamic Range)への対応はなく、PlayStation 4 ProやXBOX One Xといった上位機種を使用しても、特にグラフィック表現の底上げはありません。
2019年に発売されるゲームでグラフィックをウリにしているにも関わらず、4K/HDR非対応である、というのは、宣伝文句として若干弱くなってしまっていると思います。

(例外として、PC版は4K解像度に対応しています。ただし、PC版には本作最大のウリであるVRモードが搭載されていないため、これはこれで別の大きな問題を抱えていると考えます。)

これを読む方に誤解を抱かせないために書いておくと、4K解像度やHDRへの対応が無くとも、本作のグラフィックはかなりの水準を達成していると思います。
しかし、仮にHDRに対応していたら、青空や夜の都市の表現などがより美しくなったのではないかと思い、少し残念に感じられるのです。

4. 総評

本作「エースコンバット7 スカイズ・アンノウン」は、全体としては、素晴らしい出来のゲームだと思います。

かつてのエースコンバットシリーズが持っていた良さや面白さは、本作でも何一つ失われていません。
それだけでなく、VRモードによって「フライトシューティングゲームの未来」を提示してみせたという点で、本作は一定の価値を有すると思います。

ただし、「エースコンバットシリーズを未来へ繋げる」、つまりシリーズ未経験者を含むできるだけ多くの人々に手に取ってもらい(=売り上げを伸ばし)、続編を制作できるようにする、という観点から見ると、若干、本作はその魅力を伝え損なっているように感じました。

PS2時代そのままの古めかしいプレイ感覚は、シリーズ経験者以外の人を遠ざけてしまうと感じますし、4K/HDR非対応であることは、本作を遊んでくれるかもしれなかった「グラフィックにこだわるハードコアゲーマー」を逡巡させてしまう可能性があると思います。

しかしそれでも、本作の面白さは間違いのないものです。
僕は前半の方のミッションこそ、制限時間のわりに厳しいスコア制限に苦労し、何度もやり直し、だんだんプレイするのが嫌になったこともありました。
しかし、後半にいくにつれて、高性能な機体が手に入り、また、自分自身の技量もだんだんと向上してゆくので、エースパイロットの名に恥じない活躍ができるようになってきました。
その時に感じる快感は、ビデオゲームの根源的な面白さに通じていると感じました。

世界中の多くの人々に本作の魅力が伝わり、そして、エースコンバットシリーズの未来が光り輝いていることを願って、筆を置きたいと思います。

(了)

2019.2.3 Itaru Otomaru



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