三島由紀夫『絹と明察』

全集で読了。旧かなで読むのはよい。文章から受ける印象が格段に違う。日本の父性について、シェイクスピアやセルバンテスのバロック的モチーフを、古典的形式の中に見事に鋳込んだ作品。
深刻な対立をスタンダール的な手法でサッサと処理しているのもよい。
日本的父親像の象徴である駒沢とハイデッガーの影響を受けた岡野、労働運動に身を投じる大槻らの父と息子のドラマと、弘子、房江、菊乃らの女性たちのドラマが、巧みに織り込まれている。
文体もあっさりとこってりの中庸をいき、効果的な調和がとれている。
「父性の運命」という、テーマの処理が瑕瑾なく描かれた、堅固で質の高い小説と言えるだろう。
秋山がいい。
要再読。

三島由紀夫を読んでいると、ところどころ、構成に、細部に、あっすっげえセンスいいな、これは三島独自だな、大人の小説読んでるな、という印象を受けるのだが、読み終わってみると、それをうまく言語化しにくい。
他人の感想を読んでもそれは一向にわからない不思議さ。
だから読んでいるというところもある。

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