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マインドフルネスストレス低減法を受けてみた

2024年1月から3月にかけての約2ヶ月半、マインドフルネスストレス低減法の8週間プログラムを受講しました。

放送大学で心理学を学んだ際に、解説されていたマインドフルネスストレス低減法。そもそも最近よく聞くマインドフルネスってなんだろう?
難治性の慢性疼痛を抱える、神経障害性疼痛患者が実際に体験した長いようであっという間に過ごした経験をまとめてみました。


マインドフルネスストレス低減法とは?

MBSR:Mindfulness Based Stress Reductionと略されるこの治療法は、1979年、米国マサチューセッツ大学医学部のJ.Kabat-Zinn博士が開発したマインドフルネスをベースとしています。初期は医学的治療が困難な慢性疼痛の対処法として効果をあげ、以降心身症的症状などに適用範囲を拡大させ、慢性ストレスの対処法として広く知られるところとなりました。

「しかしマインドフルネスストレス低減法が爆発的に心理療法の分野で知られるようになったのは、なんといっても認知療法の分野で著名なJ.D.Teasdaleらがこのプログラムを取り入れてうつの再発予防に効果があると検証したことである。」

マインドフルネスストレス低減法 J.カバットジン・春木 豊 訳/北大路書房


マインドフルネスは第4世代と呼ばれる心理療法です。仏教の教えである八正道(涅槃に至る8つの道)のうち「正念」に由来し、宗教的な要素を排し治療現場で用いられています。プログラムはボディスキャン、瞑想、ヨガで主に構成されており、中心となる定義は次のように記されています。

「あるがままの状況に対して、意図的に、今この瞬間に、評価せずに、注意を向けることで生じる気づき」

Williams, Teasdale, Segal, & Kabat-Zinn (2007)

そしてマインドフルネスそのものの意味でもある「注意集中力」を養うトレーニングを8週間に渡り続け、さらに習慣化を目指していきます。


MBSR8週間プログラムってどんなもの?

MBSRはプログラムが非常に厳格に設計され管理され、多くの科学的エビデンスに基づく治療プログラムです。

いずれも海外発祥の組織で日本国内での教育は始まったばかりのようですが、現在下記7ルートで養成教育を受けた講師がMBSRを開講しているようです。


1. マサチューセッツ大学マインドフルネスセンター
2. ブラウン大学
3. グローバル・マインドフルネス・コラボラティブ(GMC)
4. カリフォルニア大学サンディエゴ校マインドフルネス・センター
5. オックスフォードマインドフルネス財団
6.バンゴー大学マインドフルネスネットワーク
7. インスティテュート・フォー・マインドフルネスベースド・アプローチズ(IMA)

1はマインドフルネスの創設者であるJ.Kabat-Zinn博士が在籍し、長らく講師養成をおこなっていましたが、現在は行っていないようです。
2は2018年にマインドフルネスセンタを立ち上げ活発に活動しています。
3は1と2が開発したカリキュラムに沿って活動をしています。
4は二段階の講師トレーニングをおこなっています。
5はオックスフォード大学と連携しマインドフルネスの教育をおこなっています。
6は英国マインドフルネスベースアプローチ協会の基準にそって活動しています。
7は創設者が1を受講しドイツを拠点に欧州+日本(提携)で活動しています。

私は7と提携し6と7出身の講師が設立したインターナショナル・マインドフルネスセンター・ジャパン(IMCJ)の認定講師からMBSRを受講しました。

第1週  マインドフルネスを探索する
     ・ マインドフルネスをどのように生活に取り入れていくかを学ぶ
第2週  世界と自分自身をどのように感じ取るか
     ・ ものの見方が自身の物事への反応に影響を与えることを学ぶ
第3週  自分自身の身体とともにある
     ・ 日常生活へマインドフルネスの要素を組み込んでいくことを学ぶ
第4週  ストレスとは何か
     ・ 集中力と注意の範囲を広げていくことを学ぶ
第5週  自動的反応かマインドフルな対応か
     ・ マインドフルに具体的な困難やストレスに対応していくことを学ぶ
第6週  マインドフルなコミュニケーション リトリートデー
     ・ 内なる力を高めていくコーピングについて学ぶ
第7週  自分自身をいたわる
     ・ いかに日常生活にマインドフルネスを組み込んでいくかについて学ぶ
第8週  振り返り、前に進む
     ・ 学んだことを振り返り、今後どのように日常を送っていくか考える

週に1回のセッションの際にはその週の課題が提示され、その後次回セッションまでの1週間はその課題を毎日実践します。
これがマインドフルな体験の深化と習慣化につながります。


実際にセッションを受けてみた感想


MBSR第1週目
プログラム構成全体の理解とボディスキャン、レーズンテストを体験しました。
ボディスキャンはまだ難しいですが全8回のセッションを通じて体験を深めたいと思います。

ところでMindfulnessの意味を間違えていたかも...
Mind(心)のFullness(充実)と思っていましたが、Mindful+ness(注意・気づき)と理解しました。これが「注意集中力」といわれていることなんですね。

MBSR 第2週目
ボディスキャンもコツがわかってきて、概ねスキャンしたい場所に注意を向けられる様になりました。本来の趣旨(注意の集中)とは違うかもしれないのですが、痛みがある場所"以外"をスキャンし集中していると、その痛みを忘れられる感じがします。

例えば胸の疼痛が気になるけど、足の裏に注意を集中すると胸の痛みに気づかなくなる。でも気を抜くとまた痛みが...

MBSR 第3周目
その時の体調によりますが、他の場所に注意を集中するなど、ボディスキャンによる痛みの知覚コントロールがある程度出来るようになりました。

そしてヨガによる運動も始まりました。
痛みにより最近は歩行もつらくなり、リハビリで始めた太極拳も参加できない状況でした。ヨガでは型に注意するのではなく、体を動かしその反応に注意することが求められます。このため自信の状態に合わせた運動が可能であり、ヨガ特有のポーズもあり久々に痛みで無意識に緊張し固まっていた上半身が伸ばすことができ気持ち良かったです。

MBSR 第4週目
痛みなどのストレスに対する"自動思考"への気づきを体験するセクションです。
もう治らな回かもしれない…という慢性症状の悲観的に思える状況においても、マインドフルに生活する事で"価値のある人生"を実感できるという考え方に希望を感じました。

実際、ここまで3週間の体験(セッションと毎日の課題宿題)で、今までとは”痛みがある生活”に対する受け止め方や痛み自体への感じ方が変わってきました。

MBSR 第5週目
痛みなど、生活の中で繰り返し現れるストレスに対して、マインドフルな態度で改善していくことを学びます。
ストレスを避けるだけでなく、それによって起こる感覚や思考を注意深く興味を持って受け入れる事がQOL改善に繋がります...と言ってもそんなに簡単に体感はできませんでした。

しかし小さな事ですが、座禅を組み足が猛烈に痺れてきた時に、その痺れや痛みをじっと見つめ受け入れてみたら、痛みなどの感覚はいつの間にか和らぎ、45分間の座禅も徐々に組める様になってきました。たぶん「受け入れて、手放す」とはこの様な感覚なのだと思いました。

さらに呼吸の大切さへの実感が深まってきました。
実際、入眠や中途覚醒の改善といった効果や、瞑想中の意識の軸としての呼吸の役割、そして過去の痛みと呼吸のエピソードも思い出しました。

MBSR 第6周目リトリートデー
ストレスフルな生活に対するセルフコーピングについて学びます。
五感を通じて感じたこと、取り入れたことで何を感じたのか。それら”気づき”が自分自身をどのように変え、どのような助けとなるかについて体験を重ねました。

リトリートでは、従来のリモートセッションから実際に会場に赴き6時間の集中瞑想を体験しました。お寺の厳粛な環境の中で、会話がなくとも参加者同士が無意識に労わり合い支え合う感覚を覚え、"痛み"を含めた全てを静かに見つめ、受け入れる機会となりました。

MBSR 第7周目
今までの学びから瞑想やヨガを自分で組み合わせ、マインドフルな生活の習慣化とセルフケアを目指します。

自分自身に興味を持ち、もっと気にかけ、痛みや他の感覚なども自分の一部と受け入れ、固有の解釈に捉われずに自分をより良い方向へ導く。
自分自身を労わることの大切さと、その理由について今までの体験と、1週間の実践から実感を深めていきました。

MSBR第8週目
振り返りと今後に向けて考えます。ここまでで既に瞑想への慣れ、ボディスキャン、ヨガのアレンジなどはそれなりにだきるようになっています。そして習慣化についても不安を感じず、むしろ続けたいという意欲に駆られています。

実際、第2回目の時点でボディスキャンへの手応えと効果の片鱗を感じ、また瞑想の面白さ、ヨガの気持ちよさを深めていく中で、早い段階から生活への組み込みと講師を目指したいという気持ちが高まってきました。


MBSR8週間を終えて

MBSRのアプローチでは痛みという問題を根本的に解決するのではなく、痛みの感じ方や付き合い方を変え、痛みも共にしながら生きていくことの価値を見出すことに主眼が置かれていると感じました。

痛みがある自分と事実を受け入れるのは容易なことではありません。痛みが勝ると瞑想どころではなく、やはりどうしてもそれに捉われてしまいます。このため各種治療などで痛みを緩和させることを並行して行うことは必要だと思います。

以前のようには多分戻れない。しかしマインドフルに生活することで、痛みに対する恐れや不安感は確実に小さくなり、「新しい価値観」のもと、活動への意欲や人生への希望を再び持ち、充実した生活を取り戻せるようになる。

そんな希望を持てるようになりました。

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