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お客様から教わった仕事の意義

朝起きて、インスタを開いたら驚いた。昨日の投稿にかなりいいねがついていたからだ。


かなりとは言っても、私のアカウントはイタリア旅行に慣れている人やイタリア美術に興味がある人向けのすごくマニアックなものなので、数字としては小さい。それに昨日の投稿は社会的な内容だったので、そんなに興味を持つ人はいないだろうと思っていた。大体私の投稿に反応がある時は、すごくおいしそうな物の写真を載せた時が多いし。でも予想に反して、写真もそんなに映える物でもないにも関わらず、反響をいただきびっくりした。そしてありがたくも思った。


ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、一昨日、長年イタリアを騒がせてきたシチリアンマフィアの頭が昨日逮捕された。コーザ•ノストラ(我々の物)というシチリアを中心にアメリカや南米でも暗躍していたグループのボスだ。この一派は19世紀にから続いているそうだが、一説によると12世紀に遡るとも言われている。


いろいろな所で爆撃事件を起こしているし、裏切り者を酸で溶かすなど残虐きわまりない行為で有名で、多くの人が殺されている。だから長年イタリアの人たちを震撼させてきた。


フィレンツェでも彼らが起こした爆撃事件のために5人の方が犠牲になっている。見出しの写真はその事件直後の物。


1993年5月26日から27日の夜中にかけて、ウフィツィ美術館の裏にある農学学会の建物が爆破された。学会の管理人ご夫婦、彼らの二人の赤ちゃんと22才の学生が爆撃により亡くなっている。この事件は現場となった学会の名前を取りジェオルゴーフィリの悲劇と呼ばれ、長くフィレンツェで語り継がれてきた。私もフィレンツェに来たばかりの頃、授業で先生が教えてくれて衝撃を受けた事をよく覚えている。


この悲劇を忘れないため、建物を修復した時は爆撃で破壊された部分に亀裂の様な線を入れ、建物の前に平和のシンボル、オリーブの木を植えた。2021年にはフィレンツェの現代アーティストがオリーブの木をモチーフにしたブロンズ像も寄贈している。


20年の時を経て、主犯が捕まって本当に良かった。これで亡くなった方もご遺族の方も少しは報われるだろうか。観光とは関係ないけど、よかったらフィレンツェに来た時にこの事件の事を思い出して下さい、と言った感じで締めくくった。思い出してくれる人が多ければ、それだけ亡くなった人の供養にもなるし。



そしたら、関心を持って下さった方が多かったのだ。ちょっと前までトップは映える写真、文章は多く書かないこととSNSマーケターが言っていたが、改めて今はそうとは限らないと思った。もちろん私の投稿を見てくれる方達はイタリア好きが多いので、マフィアのボスが逮捕されたニュースに関心を持っていた人もいただろう。でもそうでない人もいた。

今回の経験を通して、パンデミックが起こってから観光業界の大御所達が口にしているこれからの観光、そして自分の仕事の意義がカチッと合った気がした。


訪問者と地域を繋げる。


これまでは有名所を見て終わり。フィレンツェなんて世界遺産の街で見所がたくさんあるのに、団体のお客さんには3時間しか見せられない。ウフィツィ美術館のような立派な美術館も、40分で説明しないといけない。総展示数が2500点あるというのに。まぁみんなが美術に関心がある訳じゃないし、日本のお客さんって飽きっぽい人が多いので分からなくもないのだが。でも訪問地の人と関わらないと、思い出にならないよね。


観光事業者や仕事の同僚と話していると、2019年までの、数をさばいてお金を書き入れるスタイルに戻したいと考える人が多い。でもお客さんも地域の人たちも決してそんなことを望んでいない。日頃SNSでお客さんと話したり、フィレンツェに住んでいたりしながらすごくそれを感じる。


これからは大量の人が「見散らかしていく」のでなく、地元の人に寄り添い、尊重する姿勢をお客さんと取っていく事が大事だと思った。訪れた後も地元の人と続く関係を築けるような。


正直今後は観光の仕事だけをしていくわけではないけど、他の仕事をする場合でも、これからの働き方を知る上で大きな収穫だった。


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