【#短編小説】石鹸の洗い方
石鹼が常に清潔であると信じるのは、とても、危険なことである。仮に、あなたが使うほんの少し前に、その石鹸を使った人の手が糞に塗れていたとしたら触れたくないと思うでしょう?
狐が嫁入りするのは、雨にあたりたくないからで。
向日葵が夏を好むのは、太陽の真似をしたいからで。
私が他人よりも重ね積み上げてきたことといえば、シャッター音を聞かされることとストロボに照らし明かされることくらいだろう。
モデル業。
自身を虚影としないために、私は努力ばかりをしてきた。努力の中身は、美しくあり続けるための肉体維持? それとも、表情を豊かにするための人生経験? いいや、全然、全くもって違うものです。
私の努力は写真に撮られ続ける努力、ただそれのみ。ナルシズムの行きつく先が自虐だとわかっていても、私はストロボの光を浴び続ける。この光がなくなれば、私のお先は真っ暗だから。
(眩しくても目を閉じないで)
そんな生き方をしているから私は、情熱が、人体のどこにあるのか、いまだによくわからない。まあ、恋愛の本質は身長差だということがわかっているだけ…………あの子よりも幾分かマシなのかもしれないけれど。
わかっている。わかっているの。飯を食うにも、繁殖するにも、快楽を伴ってしまう人間では――――天使にはなれません――――と。
狐が嫁入りするのは、雨にあたりたくないからで。
向日葵が夏を好むのは、太陽の真似をしたいからで。
私が光を浴び続けるのは、夜、眠るのが苦手だからで。
だから。
影なんて、私の後ろにだけできればいい。
石鹸の洗い方 おわり
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