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【#短編小説】ユニットバスの恋人たち.jp

 狭いユニットバス。

 背の高いあなたが髪を洗うと、泡が私の顔に飛ぶ。あなたは私に背を向けるように言うけれど、私はその時間が大嫌い。あなたの帰りを、待っていた時のような気持ちになるから。

 アリスシリーズの新作が作られているという噂がある。

 当然、作者はルイス・キャロルではない。でも近々人類は、ルイス・キャロルに類似した人工知能を生み出すという。ソレにより書かれた新作を、正当な続編と認めるか認めないかは私次第なのだろう。

「なんてこった、俺は昨日娘にうさぎを買ってやったばかりだぞ! ちくしょう、初めてのペットなのに!」

 卑屈という言葉は理屈という言葉から産まれた…………なんていう嘘を思いついたのは、もう二ヶ月も前のこと。もしかすると、その嘘が、真実かもしれない可能性・・・を確かめることもなく、私は今日まで過ごしてきた。

「バベルを建てたから言葉をバラバラにされたわけじゃあない。言葉をバラバラにしてもらうために、建てたんだよあれは。人は神よりずる賢い。そもそも神には言葉という概念がないからね、僕たちの祖先の目論見を見抜くことはできなかったんだよ」

 戦争はビジネスだ。
 戦争はビジネスだ。
 戦争はビジネスなんだってば。

 そんなことを声高らかに主張する人もいるけれど、私は――絶対に――違うと思う。人の暴力は、そんなに整ったものではない。人の本質は、そんなにデジタルなものではない。そもそも、貨幣感覚が生まれる前からソンザイする暴力が、金のためだけにソンザイできるわけがないのだと、私は主張したい。

 おそろいの歯ブラシは、色だけが違い固さは同じ。でも、いつも私の歯ブラシのほうが早く傷んでしまう。私の生き方は、あなたにくらべると丁寧ではないから、そうなってしまうのだろう。

 人生に意味はある。
 愛に意味はある。
 人に意味はある。
 私に、意味なんてない。

※以上をって、私が無意味であることの証明とする

 ならば、私自身の存在は、あなただけが肯定できる。だから私は自分を否定しなくなって、猫の鳴きまねがとてもうまくなりました。

 愛しています。ありがとう。



ユニットバスの恋人たち.jp おわり


◆2024.2.7
朗読版(VOICEVOX:四国めたん/VOICEVOX:ずんだもん)を公開しました


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