いたばしさとし文学賞2019

「いたばしさとし文学賞2019」 この賞は一年に読んだものから、何となく面白かったものを選んで顕彰するものです。自分の単なる遊びであり、何の権威も有り難みもなく、誰にも何の利益もないと言う世間的にはどうでも良いものですが、まぁ自分が楽しいから良いのです。 それでは、受賞作品の発表です。

長編部門賞 藤井太洋「東京の子」

 極近未来の青春ストーリー。多文化化した東京に暮らす青年を主人公に、既存の日本観・日本人観の閉塞を爽快に覆し、説得力有る近未来を示した。背景に漂うディストピア感をものともせず、挫けること無く逞しく生きていく登場人物たちの姿に共感した。

短編部門賞 樋口恭介「一〇〇〇億の物語」

 仮想世界の圧縮過程で、ひとりの女性が置き去りにされ、恋人や家族、ふるさとの縮小を見守るほかなくなってしまった。その孤独と寂寥感を描く。文体の美しさがストーリーの物悲しさを増幅して、視覚的な美しい散文詩になっていた。

一般部門賞 Netflix配信「ラブ・デス&ロボット」

  優れた短編SFをそれぞれアニメ化した。各作品の作風にあわせてアニメ表現は大きくことなる。思弁的なものから楽しいスペオペまで、SFの面白さを集めた傑作選。どうして日本でもこうい番組がつくられないのだろう?

一般部門賞2 Netfix配信「かなたのアストラ」

 危機に直面した少年たちが、絶望と苦難に挫けそうになりながらも、勇気と知恵で乗り越え、人間的な成長を果たして見事な帰還を果たす。そのスト−リーに大いに胸が躍った。全ての世代が納得する娯楽作品の模範として、語り継がれるべき傑作だった。

企業部門賞 竹書房

  僅かな間にSFの良作を次々と出版し、読者を楽しませた。

人物賞 鈴木厚人 岩手県立大学学長

 SF大会におけるILC講演誘致と素粒子物理学の講演に感謝して

再読賞 津原泰水「ヒッキーヒッキーシェイク」

 ベストセラーとなった早川文庫版で再読した。世間とうまく折り合いのつかない引きこもりたちを或るプロジェクトで再起を図る。主人公たちはそれぞれ才能があり、決して落伍者ではない。人は誰だって異なる価値をそれぞれに持っているのだ。

ありがとう賞 横田順彌、 吾妻ひでお、 眉村卓、 シド・ミード

ごめんなさい賞 飛浩隆「零號琴」 、劉慈欣「三体」

 絶対おもしろいはずなんですが、いろいろ平行して読んでいるうちに取りこぼしてしまいました。つまり未読。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 発表は以上です。もちろん受賞を逃した作品、候補外の作品もどれも面白かった。今年は、傑作が多すぎて幸せのあまりにゾクゾクと震えを抑えることができませんでしたね。おかげでその傑作を未読状態にしてしまいました。マジな文学賞なら大問題だった。わはは。 でも、個人の遊びだから良いのだ。

 され現実生活の方はジワジワ悪化してます。世間も更に悪い方に向かっているらしい。正直押し潰されそう。耐えられているのは物語のおかげ。物語を読むことはそれ自体が現実への拒否を含みます。読者は現実に挫けがちな魂を物語を通して慰め、奮い立たせるのです。 皆さん、今年も有難う御座いました。

(2019年12月31日)

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