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"クラフトマンシップ"が会社を救う=ワシオ株式会社さんの英断によせて

私の叔父が経営する会社に置かれた状況と近しい所があり、エールの意味でこの記事を書いています。

私の叔父の会社は、「ハミングバード(Hummingbird) 」という自社ブランドを展開するメーカーです。靴下がメインで、アパレル・帽子・靴なども手掛けています。家庭の事情のため、数年この会社にいました。

年商以上の借金はなかったですけど、年間粗利で考えると数倍の借金がありました。10年ぐらい前が一番ひどかった。

中国製造モデルの崩壊

10年前は女性向けのルームウェアやエプロンの製造卸をやっており、上代で1000円〜1500円程度の商材を扱っていました。

2011年の東日本大震災ぐらいから中国での製造コストの向上と円安の煽りを受けて仕入原価があがりました。でも上代は変わらない。他に同等の売上を立てる商材もないという、苦しい状態でした。

売上がなければ始まらないが、借金で会社を回すのでお金が残らない。ジレンマのど真ん中にいると、ジレンマの中で生き抜こうとする。それは最も、生存確率が低い。そこから抜け出さないと絶対にあかん。

2013年に、こんなタイトルの書類を作って、叔父を含めて3時間近く会社で話し合ったことを思い出しました。僕が30そこそこの時ですね。 

2013年にしゃちょーに進言した時の資料の表紙

青息吐息の日々が続く

2013年に進言した結果、上代をあげたことで仕入を減らしても同額の粗利が確保できたため、一時的に業績は回復しました。

一時的な業績回復がもたらしたものは、はっきり言えば時間稼ぎ。青息吐息には変わりがない。最も売上額の大きい商材が消えたことで、次の柱が無いという大問題が残っていた。

自社に製造体制がありませんので、出来ることは卸の拡大だけでした。

卸と言っても引き物は4〜5社ぐらいしかやっていなかったのですが、売る物がないので、取引先メーカーを増やしまくった。100社ぐらいに増えた。

メーカー送料負担で直送OKなら直送、送料満たない場合や直送NGの場合は顧客の注文をメーカー別に集計して、倉庫に入れて、集めた商品を梱包して出荷していました。自社に倉庫があるからできる芸当でした。

在庫リスクがなく右から左というメリットはありますが、デメリットもたくさんあります。

- 売値も仕入値も買えられないから利幅が薄く、出ていくお金が多い
- 欠品がメーカーにあったら売上にならない
- 引き物の受発注を管理するための事務作業が膨大になる
- 多種多様な商品が入ってくるので、出荷作業が大変

卸売なんかやるもんじゃないで

中間流通を担う卸は、とにかく顧客数が多いか、太い顧客を捕まえているかのどっちかじゃないと生き残れない。メーカーもやるメリットがない。

百社近い取引先になって、引き物だけで年間で億を叩けるようにはなったが出ていくお金も多かった。そういう時期が3〜4年近く続いた。

色んな出会いがあって、オリジナル商材を作ることになるんですけど、それで生きていくには時間がかかりました。

自社オリジナル製品との出会い

アクセ、エプロン、帽子など色々模索して、最終的に靴下になりました。

そのきっかけを作ったのは私。四国にある有名なメーカーが作った「あったかソックス」を試着して、自分が「これはすげええええ」って素で言った。靴下で感動した。マジで履いたことないからやってみてよ!って。

普通はそう簡単に作ってもらえないんですけど、そのメーカーさんとは付き合いが長いこともあり、全面的に協力して頂けました。これが靴下になった最初の一歩。

ものを作ろうとしても、生産体制が整わないことってめっちゃ多い。

職人がオリジナルでモノを作る体制は、一長一短にはできない。ワシオさんみたいに自社で生産体制があるのはすごく強みです。

そのメーカーさんのご厚意は圧倒的感謝ですが、引き物には変わりないわけでして。自社オリジナルの靴下を作ってくれる工場を探さないといけない。叔父は、全国を駆け回る日々を過ごします。安心して売れる商材=国内生産だと考え、営業で小売店を回りつつ、生産拠点を探しました。

目に止まった千葉県にある靴下工場にアポ無しでぶっこんで、出会ったのが、叔父の会社の看板でもある「ストレスフリーソックス」です。

ゴムを使ってないのにすげー伸びるのよー

元々は職人さんが自分が履きたいっていう想いだけで作った靴下で、どこも卸していませんでした。叔父は根気よく通い詰め、作ってもらえることに。そこからラインナップを広げ、ブランドを立ち上げた。

職人さんの手が入らないと出来ない商品は、作るのが面倒。面倒な商品は、制作時間もかかる、大量に作れない、手が入るから不良も出やすいと、工場さんに取ってやりにくい側面ばっかり。

そんな手のかかる商材を作って頂くには、並々ならぬ努力で信頼関係を構築しなければなりません。売るよりも作るほうが大変そうだなと傍から見て、感じました。

直営店というビックウェーブ

自社ブランドの粗利がぐんと増えたのは、直営店を出店できたことが大きかったです。アトレとか、そういうところに店を出せたので、消費者に売れるようになりました。これが大きかったです。下代で売るのと上代で売るのは全く違う。

知り合いの友人がアトレの関係者で催事やらせてもらった的な、そんな感じで始まった記憶。コロナの前なんで、2018年だと思う。叔父の次男がその年に入ってきて、インチキだったと思ってた親父の作ってる商品すげぇ、俺も直接エンドに売りたいから店やりたい、次男の友人ナイス〜みたいな流れ。たしかそんな感じ。

アトレ大井町の催事から始まって、品川と吉祥寺に常設店舗ができました。今年から京都にも出しました。

叔父が全国を回って自社ブランドの卸先を開拓、次男が中心にエンドへ販売のサイクルが回り始めた時に、叔父に対して口を揃えて「引き物はやめて、ハミングバード一本で行こう」と総攻撃。

ワシオさんは年商の20%の楽天、叔父の会社は20%ではなく、もっと多くの売上を捨てました。

卸をやっていると、各種メーカーの在庫問い合わせ・受発注管理などの事務処理が膨大になります。直接メーカーに聞けと言えませんので… とにかく、電話応対の時間が多かった。

自社ブランドを展開するにも、ブツ撮りからカタログの作成、Webサイトでの広報にネットショップの運営、直営店の運営(売上/在庫/採用等)、工場さんとの仕様詰めやサンプル作成に出来上がりの検品等、事務作業はついて回ります。両立が困難で、両立する意味をみんな感じなかった。どうせやるならオリジナルブランドを育てたい!みんなそう思った。

最悪の状況でも、売上を捨てないと変われませんでした。捨てたら倒産するわけじゃない、重い荷物も持ち続けるから状況が悪くなるとも言える。

卸売撤収については、叔父の気持ちが固まるまで2年程かかった。経営陣にとって薄利でも売上を手放すのは恐怖。でも、ジレンマの中にハマったら、確実に好転しません。悪くなるだけ。

ワシオさんの、楽天撤退及びクラフトマンシップ最重視経営になさるというご判断は、英断だと思います。

会社が回る限りチャンスは有る

売上捨てて借金返済どうなるのって話について、ちょっと補足。

金融機関等の借金は利息だけ払っていれば会社は回ります。元本が減らないので辛いけど、回らないよりマシ。会社が回る限りチャンスがあることを、学んだ。取引先への支払いも待って貰えることがあります。簡単ではないと思うけど、実際待って頂いたので。

そうはいっても、チャンスを掴んでリスタートして、好転する流れが見えるまでは、最低2年かかります。1年じゃ何も出来なかった。

想いが強く、嗜好性の強い商品は楽天市場に不向き

叔父の会社も、楽天市場に出店しました。初年度でやめました。

クラフトマンシップが強く、手に取らないと他社との違いが伝わらない商材は、楽天市場に向いていないと言えそうです。

樂天に限らず、モール出店は常に様々な同種商品の比較にさらされるので、他の商品と比べたことがない商品は比較対象に入りにくい。刺さらない。

尖った商品より、どこでもありそうで大きく価格帯も変わらない商材が強いように思います。価格もだいたい似たりよったりでないと、並べられた時点でおしまい。

楽天で買うメリットはポイントバックなので、楽天お買い物マラソンなどに最適化した商材を作ろうとすると、セール価格を打ち出すしかない。これが叔父の会社のポリシーと相反して、叔父が受け入れがたかった。

卸先の小売店にはセールをしないように伝えているのに、自分でやるわけにいかないというのも。ワシオさんもセールをしないポリシーだと書いてあるので、近しい事情がおありなのかと思います。

感覚的な価値でイメージのしにくい商材をやる以上、楽天SEOの最適化ではなく、ファン開拓を行うべきです。

この商品がいかに大切に作られているか、エモいクラフトマンシップを理解してもらう努力が必須。SNSであったり自社メディアや店舗/催事での販売を通して、自分たちの言葉で価値を伝える。そればかりやってる。

指名買いを楽天市場でやるのは不向きですが、結局それ以外の道を探さないとECは絶対に拡大しないので、どう広げていくか悩ましいです。

クラフトマンシップへのリスペクト

叔父の会社のコンセプトは、使う人を想うものづくりです。

そこにあるのは、良いものを良い職人が作り、安売りではなく適切な価格で世に送り出すという、クラフトマンシップ(職人魂)へのリスペクトです。

ワシオさんの防寒商材も、クラフトマンシップの賜物。

叔父の会社の看板であるストレスフリーソックスは、好みがはっきり分かれます。ゴムがないのでズレやすいのが主因です。これでなければダメって方もいるし、これはねぇよって方もいます。でも、ストレスフリーは嫌いでもハミングバードは好きって人がたくさんいます。

好きでも嫌いでもないのがこの種の商材で最もダメで、どっちに触れるかはわからないけど、絶対値が高いことが大事。

ワシオさんにも、同じことが言えるかもしれないです。

ワシオさんの英断を応援します!

長々と書いてしまいました。あんまり参考にならない部分も多いかも…

叔父がクラフトマンシップを信じて会社を立て直した経緯は、ワシオさんの英断の先にあるものだと思います。

会社が回る限り、チャンスはあります!Go for it!

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