見出し画像

黄色い線の内側(ショートストーリー)

「電車が到着します、黄色い線の内側にお下がりください」

アナウンスがあると、右側に立っていた少女が私に話かけてきた。

「へんですよね。円や三角形には内側があるけど、線に内側はありません」
急に話しかけられて驚いたが、高校生らしい発想だな、と、私は微笑みかえした。

その時左から男の声がした。
「おっと、電車がくるから、黄色い線の内側に下がらないと」
振り向くと、そこには異常な光景があった。男が立つ黄色い線が、一瞬26次元に広がったかと思うと、男は線の後ろの24次元の隙間に下がったのだ。どうしてそう見えるのか、考える間もなく普段見えない23次元は閉じてしまった。気が付くと誰もいない。

「ねぇ君、さっきまで左に男の人がいたよね」

不安になった私は少女に確認した。

「え?私からは見えませんが。あ、そろそろ電車来ますね。」

男は本当にいたのだろうか?

「わたし、この春から電車通学で、電車に乗るのはまだ慣れていないんです。今度の電車と次の電車という表示がありますよね。今度の電車に乗るんですが、間違えずに乗れるでしょうか?」

少女は不安そうに話し続けた。

「次の次の電車は、次の電車の後に来るのですよね。」

「次の今度の電車は次の電車のことですよね。今度の次の電車は今度の電車の後に来るのですよね。」

そんなに不安にならなくて良いのに、と、思ったが、間違いではないのて、私は笑顔でうなずいた。少女は話し続けた。

「すると、今度の電車は次の今度の電車の1つ前に来るのだから、あっそっか、わかった!」

だまってうなずいていた私もさすがに声を出した。

「ちょっと待って。それはどこかおかしい!」

その時次の電車がスピードを落としながら入ってきたので、思わず電車を見た。

振り返ると、少女の姿はなかった。


───追記

ちょっと評判悪いので少しなおしました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?