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美少女の素体
バーチャルな美少女の「体」が好きだった。VTuberのモデルやアニメキャラやVOCALOIDや、みんなが好きに群がれるバーチャルな美少女の存在自体に惚れていた。
仮想空間で生まれた美少女の体は、時代の壁も性別の壁も飛び越えていける。誰にどんな目を向けられてもその体は傷つかない。心も傷つかない。傷つくのは人間だけ。損害を受けるのも人間だけ。無機質の彼女たちには響かない。その無敵感がたまらなく好きだった。
オタクたちは初音ミクに群がった。アニメのヒロインに群がった。やがてバ美肉してボイスチェンジャーをつけて、自身も美少女のガワを手に入れた。バーチャルな美少女の力を借りれば容姿も性別も悠々と飛び越えられた。かわいい女の子の喉から機械音声が再生されることも、加工された声が放たれるのも、成人男性の声がそのまま聞こえてくるのも、萌え声やロリ声がアテレコされるのも、わたしは全部好きだ。
現実世界ではできない。現実世界の多様性とかジェンダー観はどうでもいい。わたしたちは仮想空間に描かれた美少女にはなれない。かわいくないのでなにも許されてない。生き物は、性別も時代もそう簡単には越えられない。そして越えられないからこそ価値が高い。
そんな遥かな壁を、バーチャルの美少女だけは容易く飛び越えていく。その体に意思はないけど、どんな遠いところにでも生きてる人間を連れていってくれる。醜い生き物のわたしたちはされるがままに腕を引かれてる。あなたもわたしも実体のない美少女の奴隷になる。初音ミクがいなくてもやっていける顔してるソングライターも、初音ミクの指の感触を忘れられるはずない。
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