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ネットで叩かれがちな『ジョブチューン』が、いかに優れた番組フォーマットであるかを解説する ~天下一品回をケーススタディとして~

はじめに:テレビなんて『水ダウ』と『ジョブチューン』しか観てないよ

こんにちは。前回は椅子について初めてのnote記事を書きましたが、そこそこ読まれているようで嬉しいです。
今回はというと、『ジョブチューン』というテレビ番組の話です。全然違う話みたいですが、テレビは椅子に座って観るものなので、まあ多少の繋がりはあると言えなくもないですね。

みなさんテレビは観ますか?
俺も10年ぐらい前は、地上波で放送されてるバラエティーは全部録画してチェックするぐらいのテレビっ子でした。マジのヒマ人ですね。しかし、残念ながら今はほとんど観なくなりました。

この10年や20年でテレビがつまらなくなった…かどうかは不明ですが、少なくとも元気がなくなった気はします。かつては映像メディアの王者としての自信みたいなものに満ち溢れていたテレビですが、現在では若手の人気者YouTubeくんに敗北して「過去の人」になりつつあります。諸行無常ですね。

俺も今、(Tverで)毎週欠かさず観ているテレビ番組は2本だけです。一つはネット民もみんな大好き『水曜日のダウンタウン』で、もう一つがどちらかと言うとネット民によく叩かれている『ジョブチューン』です。このうち『水ダウ』についてはもうみんな語り尽くしてると思うので、今回は『ジョブチューン』について語ります。

ジョブチューンって何?

『ジョブチューン』というのは、TBS系列で土曜日のゴールデンタイムに放送されているバラエティ番組です。
「アノ職業のヒミツぶっちゃけます!」というサブタイトルの通り、元々は特定の職業の人を集めて裏話を聞くという、よくあるトーク系番組でした。
しかし、その中の一企画「○○VS一流料理人」というジャッジ企画がウケたので、2019年頃からはほぼその企画しかやらなくなりました。
この辺の遍歴は公式サイトの放送履歴を見ると分かると思います。法律番組から法律要素が消えるのと同じ、テレビ番組によくあるダーウィン的適応ですね。
なのでこの記事でも基本的に「ジョブチューン」という言葉は「一流料理人ジャッジ企画」を指す意味として使います。

「○○VS一流料理人」ジャッジ企画というのは、有名な全国チェーンの飲食店、つまりガストとかくら寿司とかピザーラとかファミリーマートの商品を、ミシュランいくつ星だかの高級レストランのシェフである「一流料理人」が実食して、「合格」か「不合格」かジャッジするという企画です。
具体的には、チェーン店が自信のあるメニューを10位から1位まで提出し、1品食べるごとに7人の料理人が札を上げ、多数決で「合格」か「不合格」か決まるというシンプルなシステムです。

俺はこの『ジョブチューン』(のジャッジ企画)が大好きで、毎回欠かさず観ています。しかしネットの評判を見ると、俺みたいなファンも多い一方で「嫌い」と公言する人も多い、好みが分かれる番組のようです。
ぶっちゃけると俺もネットで育った世代なんで、基本地上波テレビなんてやらせばっかだとバカにしているタイプです。でも不思議なことに『ジョブチューン』は面白し観てると感動するんですよね。ということで、まずはなんで『ジョブチューン』が面白いのかを考えたいと思います。

「そんなに美味しくない」と言っていい唯一の番組

ジョブチューンが面白い最大の理由は、何と言ってもチェーン店の商品に堂々と「不合格」を出すことです。

ガストとかくら寿司とかピザーラとかファミリーマートのメシを芸能人が食べる番組だけの番組なら山ほどあります。
実際『ジョブチューン』でも、ジャッジ前にまずスタジオの芸能人たちが提出された商品を。当然、みんな口を揃えて美味い美味いと言います(この「普通のテレビ番組」っぷりが、後のジャッジシーンの前フリになっているわけです)。

芸能人がテレビでメシを食べる時は、絶対に美味いとしか言いません。なぜなら、美味くないと言うメリットが存在しないからです。
メシに限らず、テレビに出る人は基本的に無難な褒め言葉しか言いません。褒められて嫌な気をする人はいない一方で、貶されて不快になる人はいっぱいいるので、じゃあ何か話すとなると必然的に無難な褒め言葉になるわけです。
特に『ジョブチューン』ジャッジ企画に登場するのは全国チェーンの大企業であり、テレビというのはそういう全国チェーンの大企業がスポンサーになって成り立っています。いわばもっとも媚びを売るべき相手なわけで、そんな相手にケンカを売るメリットは存在しません。

しかし、『ジョブチューン』はそのメリットのないことをやっているわけです。ジャッジ企画に登場する一流シェフは、大企業が出している売れ筋商品や新商品に容赦なく「不合格」の札を叩きつけ、権威と根拠を元にダメ出しを繰り広げます。
これは他の番組では決して観ることができない映像です。「テレビでは誰が何を食っても美味いとしか言わない」という退屈な常識を打ち破る極めて刺激的なシーンです。
やらせと予定調和と忖度とコンプライアンスに塗れた現代のテレビにおいて、『ジョブチューン』は数少ない「見たことがない」ものを見せてくれる番組です。
「そんなに美味しくないな…」と思ったものを「そんなに美味しくない」と正直に言っていい、ただそれだけのことが俺たちに感動を与えるのです。

ジョブチューンはチェーン店(俺たち)の物語だ

『ジョブチューン』がウケているもう一つの大きいポイントは、ジャッジ企画に挑む店が全国チェーン店だという点です。
ガストやくら寿司やピザーラやファミリーマートは全国どこにでもあるので、番組でジャッジされた商品は翌日に、なんなら放送を見終えてすぐにでも、近所の店に走っていけば食べられます。これが圧倒的にデカいです。

『ジョブチューン』を観た視聴者は、自分の舌で料理人たちが出した「合格」「不合格」の札が正しいかどうか、改めて「ジャッジ」できるわけです。
合格の商品が本当に美味しいのかどうか、逆に不合格の商品がいかにマズイのかを確かめるために店まで行って食べる、ここまで含めて『ジョブチューン』という番組は完成です。シンプルかつ強力なインタラクティブ性を持っているわけですね。

日本人のうち、東京に住んでいるのは全体のたった1割です。範囲を首都圏に広げても3割ぐらいしかいません。なので東京のどこどこにオシャレなお店がオープンしましたと言われても、日本人の9割にとっては「どうせ行かない場所」であり「他人の話」なわけです。
しかしガストやくら寿司やピザーラやファミリーマートなら話は変わってきます。それは「日常的に行く場所」であり、すなわち「俺たちの話」だからです。

サラリーマンにもドラマはある

もう一つ、『ジョブチューン』が上手いなと思うのは、審査員のシェフが料理を食べて判定する様を、企業側の担当者が直接見守っているところです。

担当者はだいたいその企業の開発の責任者だったり管理職のお偉いさんだったりするのですが、料理が出てきた時に紹介するのはもちろん、料理人からの質問――材料や製法や、はたまた抽象的な理念まで――に答える必要があります。
質問の返答によっては合格不合格が左右される可能性もあるので、非常に重要なやり取りであり、番組としての緊張感を大きく高めています。もし企業側の人間がおらず、料理人が勝手に食べて勝手に判定を出すだけだったら、この企画はもっと味気ないものになっていたでしょう。ジャッジされる側が同じ舞台に立つことで、「対決」という構図が成立していると言えます。

企業側の担当者が質問に上手く答えられなければ、我が事のように胃が痛くなってしまいますし、逆にズバッと答えられればしてやったりという気になります。
自信のある商品が不合格になって呆然としている姿は見ていて痛ましいですし、逆に合格をもらって喜びのあまり涙している姿を見ると、こちらもグッと来てしまいます。

料理人たちとやり取りするのは、普段はあまり表に出ることがない「普通のサラリーマン」である人々です。
しかしそんな人々にも戦いがあり挫折がありドラマがあるということが、短いやり取りの中から感じられます。

俺は24時間テレビとか熱闘甲子園とかのお涙頂戴系番組は反吐が出るほど嫌いなんですが、『ジョブチューン』に関しては素直に「感動」できてしまいます。
これもやはり、料理人側が「本音」でジャッジしているからだと思います。テレビではタブーとされる「不合格」の札を平気で出す気悪だからこそ、合格の際の「美味しい」という言葉の真実味が企業側の人や視聴者に伝わっているんだと思います。

『ジョブチューン』への類型的批判に反論する

ここからは、Twitterとかでよく見る「ジョブチューン批判」について反論していきたいと思います。
別に俺はTBSの社員でも外食チェーン店の社員でも三つ星レストランのシェフでもないので、『ジョブチューン』がいくら批判されようが別に良いんですが、『ジョブチューン』は誤解やイメージによって不当に批判されていることが多いとも感じるので『ジョブチューン』大好きマンである俺が立ち上がりたいと思います。

よくある批判1:ジャッジなんてやらせだろ? 企業から金貰ってるに決まってんじゃん。

テレビはすべてやらせだと思っている人の意見ですね。
確かに俺も地上波テレビはやらせと演出と編集マジックによって成立している欺瞞の塊だと思っていますし、『ジョブチューン』でやらせをするのはめちゃくちゃ簡単だとも思います。あらかじめ料理人に「今回は企業さんから袖の下を貰ったので、合格9・不合格1で行きます。打ち合わせ通りお願いします」と話を付けておくだけですからね。

あるいはそこまで行かなくても、料理を食べた後に一度裏で判定を出してもらい、番組として盛り上がるように結果を調節してから改めて出してもらう…みたいな小細工ぐらいは弄しているかもしれません。していないかもしれません。その辺の真実は番組スタッフや出演した料理人にしかわかりません。

ただあくまで俺の感覚では、ジャッジの結果は基本ガチだと思っています。なぜなら、これまで10品すべて合格した企業が存在しないからです。
もし企業側が番組に袖の下を握らせるなら、当然提出した10品すべてを合格にさせようとするはずです。1品でも「不合格」の烙印を押されるのは企業としては少なくないリスクだからです。
しかしこれまでのジャッジ企画では「9品合格」が最高記録で、必ず1品以上は不合格が出ています。「これは不合格にしていいから他は合格に」みたいな裏取引がある可能性もありますが、どちらにせよ「不合格」が出ているという事実に違いはありません。

特に印象的だったのが、この記事を書いている時点で最新の放送回である「天下一品」ジャッジ回(2023年6月17日放送)です。
天下一品と言えばアホほど濃くてアホほどドロドロしたスープがウリのこってりラーメンで有名なチェーン店ですが、ジャッジの結果は合格5品・不合格5品。これは歴代でも最低タイの成績だったそうです。

俺も天下一品は昔から好きでたまに食いに行く(毎日こってりラーメンを食うと胃が破裂するため)のですが、同時にこの成績には納得でした。
天下一品はこってりラーメンに関しては唯一無二の最強ラーメン屋ですが、逆にそれ以外のメニューは良くも悪くも普通のラーメン屋のサイドメニューの域を出ないと思っていたので、ガチの中華料理人が厳しくジャッジすればこうなるだろうなと思っていました(たぶん天下一品側も覚悟してこの企画に挑んでいたと思います)。

しかし、その中でも驚きだったのが、2位にラインナップされていた「あっさりラーメン」が不合格だったことでした。それも合格1人、不合格6人の圧倒的不合格です。
何が驚きだったかと言うと、いかにも合格になりそうなVTRの流れだったからです。天下一品側としてもこってりラーメンに並ぶ柱の商品という認識だったようで、自信もあったはずです。もし俺が天下一品の広報でTBSに裏金を握らせるなら、他はともかくこのあっさりラーメンは合格に、と推したくなる、そんな立ち位置のメニューです。

しかし、同時にあっさりラーメンが不合格なのは納得でもありました。俺も昔、一度だけあっさりラーメンを食べたことがありますが、味についてはほとんど記憶に残っていません。いわゆる「普通の醤油ラーメン」で、わざわざもう一度食おうとは思いませんでした。こってりラーメンが持つ圧倒的個性とパワーとは比べ物になりません。
おそらく料理人たちも同じように感じ、だからこそ不合格になったんだと思います。
この結果を見て、俺はますます『ジョブチューン』への信頼度が増しました。雰囲気や売り文句に流されない本気のジャッジをしていると感じました。ということで、俺は『ジョブチューン』は基本ガチだと思っています。

よくある批判2:高級レストランが庶民向けのチェーン店をジャッジするなんてナンセンスだ。チェーン店は安い原価で頑張ってるんだよ!

コストパフォーマンスの観点からの批判ですね。しかしこの意見は2つの面で誤りを含んでいます。

まず、審査員の料理人たちはチェーン店が安い値段で料理を出していることを重々承知の上ジャッジしています。
番組を見れば、料理人が値段や原価、人件費やボリュームといったコストパフォーマンスについて言及する場面も少なくないことが分かると思います。

そしてもう一つの誤りは、そもそもこの企画は値段ではなく味を評価する(からこそ価値がある)という点です。
「安くて量が多くて、美味くもないけど不味くもない」メニューは、一般的な観点から見れば、商品としては「合格」でしょう。しかし三ツ星レストランのシェフからすれば「不合格」となります。このギャップがまさに『ジョブチューン』の存在意義なのです。

普段食べているあの商品が「値段の割には悪くない」程度なのか、それとも値段の枠を超えて普遍的に価値があるものなのか?
視聴者はそれを知りたくて『ジョブチューン』を見ているわけですし、もっと言えば企業もそれを知りたくて『ジョブチューン』のジャッジ企画に応募しているんだと思います。
「コース料理 2万円~」みたいな値段設定をしている高級レストランのシェフが、一食数百円のチェーン店のメニューをジャッジするのは、確かにナンセンスです。しかし、そのナンセンスにこそ大きな価値があるのです。

よくある批判3:シェフが偉そうでムカつく。人の料理にケチをつけて何様のつもり?

感情論的な批判ですね。確かに上で語った通り、テレビで人の作った料理にケチを付けるというのはこの番組以外ではあまり見ない光景なので、ある種異様に映るのは間違いありません。見慣れないものを面白いと思うか、グロテスクだと思うかはその人の感性次第でしょう。

また、料理人の態度が偉そうと感じるかどうかも人によるでしょう。
例えば以前、コンビニのおにぎりをジャッジする回で「見た目がまずそう」という理由で食べようともしなかった料理人がいて、当然のようにクッソ炎上しました。しかし、俺もあの回はリアルタイムで見ていたのですが、正直見ている時はそれほど違和感を覚えませんでした。リアル海原雄山みたいな奴が来た!とテンションが上ったぐらいです。

もちろん、「シェフが偉そうに見える」というのも『ジョブチューン』の計算の上です。『ジョブチューン』の微妙なバランスは「(自称)一流料理人の権威」によって成り立っているからです。

そうですね、ちょっとヘンな例えですが、もしこの番組が「大学の数学科の教授が、中学生の数学の宿題をジャッジ!」という企画だったらどうでしょうか。
数学の問題の場合、「正解」か「不正解」かに議論の余地はありません。なので「教授のジャッジがおかしい!」と物言いを付けるのは不可能です。

しかし「料理が美味しいかどうか」は極めてファジーな問題であり、異論を挟む余地が大いにあります。
「ミシュラン三ツ星レストランのシェフ」という肩書には大きな「権威」があります。故に「一流料理人>チェーン店」という構図が成り立ち、ジャッジ企画の前提になっています。
しかし、数学と違って料理の場合は「仮に一流料理人に貶されようが、俺は美味いと思う!」という抗弁が成り立ちますし、まさにそういう感情を沸き立たせることを狙ってこの番組は作られています。

謙虚な大学教授が反論不可能な「正解」を出すのではなく、偉そうな料理人がツッコミどころのある「判定」を出すからこそ、見ている側も「たしかにその通り!」「いいや、こいつはわかってないな~」などとぺちゃくちゃ喋りながら楽しめるわけですね。
審査員の判定に納得がいってもいかなくても番組として楽しめるというすごい仕組みです。何重にも視点のレイヤーが折り重なった、本当によく考えられた番組フォーマットですね。

おわりに:天下一品回は名作だった

『ジョブチューン』の魅力についていろいろ書きました。ネットで炎上したり叩かれたりすることは多い番組ですが、ストレートの魅力が語られることは少ない気がしたので、こういう視点もあるんだと思ってもらえれば幸いです。

途中でも書きましたが、先週の天下一品ジャッジ回はマジで面白かったです。
この番組は不合格が出るシーンが見どころなので、9勝1敗とかの回はあんまりおもしろくないです。その意味では半分不合格だった天下一品回には『ジョブチューン』の魅力が詰まっていると思います。

人の不幸を喜んでいるようで天下一品さんには悪いんですが、最終的にはこってりラーメンは満場一致合格だったので、なんやかんやでいい感じに締まったのも良かったです。
単に好みや逆張りで不合格を出しているのではなく、しっかり料理としてのクオリティと魅力を加味した上でのジャッジなんだなと思える内容でした。
観てない人は、今のうちにTverの振り返り配信でぜひ観てください。俺も近いうちに天下一品に行って、満場一致合格だった「こってり唐揚げ」を食べてこようと思います。

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