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創作

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ぽつぽつと綴る世界
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#小説

思い出す言葉

 なんとなく悲しい気持ちが続くので、昨年の今頃は何かあっただろうかと振り返る。そんな事をしても意味がないのは知っているし、もし意味があったとしても対処法なんてないだろうなと思いながら、淹れたての紅茶をティーカップに注ぐ。

 ああまあいいやという気持ちは、投げやりだったものから別の物になりつつあって。けれどもなあという変な諦めと、そうできない何かが心の臓辺りに引っかかるのでその引っ掛かりを抜いてし

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惜しみない感情をキミに

 それを渡したいと思う相手ほど遠く、どうでもいい奴がそれを求めてくるから世の中なんて儘ならないよなぁと思うのである。私の感情は私のモノであり、どうでもいい奴に求められてもハイそうですかと渡せるもんじゃあない。そこを理解しない奴ほど苦手なのだ。

 苦手、そう苦手なのだ。同じものが好きだろうが、同じ感情を抱こうが差異はある。「それを理解せずに同一視するのは危険だなぁと思うのだよ」そう言葉にする私に対

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「内側から腐る感覚を教えてよ」
「死体蹴りがお好きなようで」
「死体蹴りになるのかい?」
「ああ、なるとも」
そんなやり取りもいつもの事で、僕も彼女も内側から腐り蹴り蹴られるのだ。

意味分かんないね

 ふと言葉を内包し過ぎると内側から腐っていくなぁという思考になった。何も思わない訳じゃあないけれど、ああこれは言っても仕方がないとなったり言っても無駄だなと思うと結局内包するしかなくて。それでストレスというか澱みが溜まっていくんだろうなと、そしてその澱みで内側から腐っていく感覚を味わうんだろうなと思った。

 言葉にしない理由、それは相手の性格やら何やらを分析したりする場合もあるし言葉にする事によ

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回転数を落とす眠り

 ひどく眠い。眠れないのは眠りが浅すぎるからなのか、それとも夢見が悪いからなのか。どちらでもいいと思える程度には眠くて、どちらでも困るなと思う程度にはこの睡魔は嫌なものに感じられる。
 嫌なものというのは考え事をする時に支障が出るからだ。思考を回したい、回して回して回して回転数を挙げてほらもっともっともっと考えないと。

 正解なんてないのは重々承知。それでも僕は僕を信用してくれて、そして互いの言

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内包する欲望

(同性愛物、友人にとある欲を抱く女性の話)

 長年交友関係のある友人の短かった髪は伸びていく。なんだかそれが少しばかり切ない気がするのは、誰か好きな人ができたんだろうかと思ってしまうからだ。髪を伸ばす理由なんてそれだけじゃないのに何故そう考えてしまうのか、自分でも不可解に思いながらも伸ばされた髪に少しだけ困ったなと思うのだ。
 人ごみの中を歩いている最中、髪をアップにしている事により露わになった

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その音と共に眠る

 懐かしい歌を再生しながら夜を過ごす。懐かしいといってもまだ数年前の曲で、それでも懐かしいと感じるくらいには私にとって馴染んだり愛している曲なのかもしれない。

 愛している、浮かんだその言葉に少しだけ笑いそうになりながらベッドに寝転がり目を閉じて流れる曲に意識を向けて一節だけ歌ってみたりする。歌詞を覚えていない訳じゃないけど、個人的に印象に残っているそこだけを歌いたくなるのだ。

 そんな風にし

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接触行為

 彼の唇が私の掌に、指先に触れるだけで鼓動が速くなる。彼の手が私の頬や髪、首筋に触れるだけで体温は上がる。彼が愛の言葉を囁く度に胸がぎゅうっと鳴る。こんなの知らない、知らなかった。優しくもあり強く触れてきた彼に私は落ちた。

 彼が私に触れれば触れるほど心が溺れ、思考が彼でいっぱいになるのが分かる。染められていく、或いは自ら染めていく事を選んでしまう。皮膚の接触がこんなにも怖くて甘やかなものだとは

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