あのときの温もり【後悔】
家に着いて、バッグの中をそっと覗くと、子猫たちはスヤスヤと寝ていた。
僕は、子猫が入ったバッグをそっと自分の部屋に置いて、遅めのお昼ご飯を食べることにした。
ご飯を食べていると、お茶を飲みながらテレビを見ている母が、「子供を育てるっていうのは大変やろ」と言ってきた。
僕はうどんをすすりながら「別に」と答えた。
「あんたと佐知が赤ちゃんの頃は大変やったんよ。お父さんは全く育児を手伝ってくれんかったけん、本当に苦労したわ」
「ひげダルマの説明やと、そんなに大変そうやなかったよ」
「ならいいんやけど」と、母は何やら含みのある言い方をした。
ご飯を食べ終えて、自分の部屋でゴロゴロしていると、子猫たちがミュウミュウ鳴き出した。
ミルクの時間だ。
生まれたばかりの子猫は、3時間おきにミルクを飲ませないといけない。
僕は、ひげダルマに言われた通り、ぬるま湯で粉ミルクを溶いて、スポイトに移した。
「ミルクをあげてウンチを出すだけやん。これの何が大変なん。母ちゃんは大げさなんよ」
僕はベッドに横たわってお気に入りのマンガに手を伸ばした。
「…ちゃん、おにいちゃん」
夢の中のどこからか僕を呼んでいる声が聞こえてきた。
現実に戻ると、佐知が僕の体をゆすっている。
「お兄ちゃん、子猫ちゃんたちが鳴いちょるよ。ミルクあげんといかんのやろ」
「起きちょるんやったら、お前があげろや」
僕は佐知の手を振り払って頭から布団をかぶった。
「お兄ちゃん、お母さんに『猫の世話は誰にも頼らず全部自分でするけん、飼わせて』って言いよったやん」
賢い佐知は、僕が母に言ったことを一言一句違えずに覚えていた。
仕方なく寝ぼけた体を起こしてベッドから出た僕は、お湯で溶かしたミルクをスポイトに移した。
ミルクをあげながら時計を見ると、夜中の1時だった。
次のミルクは午前4時だ。
「子猫なんか拾うんじゃなかった」僕は一生懸命ミルクを吸い込む子猫を見ながら、ため息交じりにぼやいた。
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