LEVI’S 501物語 〜オーヴァーオールズ から501へ 〜
「20世紀を象徴するスタイルを考える時、ジーンズ以外に一体何があるだろうか。」
〜ファッションデザイナー・ フランコ・モスキーノ〜
突然ですが、LEVI’S 501がほぼ現在の形状になったのは、「1942年」です。
そこから現在まで、表向きの形状はほぼ変わっていません。(第2次世界大戦期間は例外ですが…)と言うより、誰の手にもこれ以上変えようがない〝完成形〟であると言ったほうが良いでしょう。
1873年に〝鋲打ち作業ズボン〟の特許を取り、「ハイ・ウエスト・オーヴァーオールズ」として産声をあげてから1942年までの約70年間で、リーヴァイ・ストラウス社は着々と、後の〝完成形〟に向けての様々な改良を進めていきます。
今回は、その70年間の変遷を追いかけてみたいと考えています。
その前に、僕の〝一生モノのLEVI’S 501〟を紹介しておきます。
【上段左から3本;90年代 Levi’s501 / 上段右から2番目;Levi’s×BROOKS BROTHERS 501 / 上段右;LEVI’S 501XX第2次大戦期(復刻)/ 下段左から2本;Levi’s 501 66前期 (オリジナル)/ 下段右;LEVI’S 501XX 1947年(復刻)】
1873年「ハイ・ウエスト・オーヴァーオールズ」と名付けられ世に生まれて来たのが、今日のLEVI’S 501の原型である事と、その経緯については前回お話しました。
ではその「ハイ・ウエスト・オーヴァーオールズ」なるものは、一体どんな姿だったのでしょうか。
まず、生地は2種類であったようです。
ひとつは、10ozの生成り色のキャンバス地。(今日の帆布に近いもの)
そしてもうひとつが、9ozのブルーデニム地です。
形状はポケットが前に2つ。後ろは右側に1つのみ。(当然そこをリヴェット(鋲)で補強しています)
そして、「サスペンダーボタン」と「尾錠(シンチバック)が付いていました。
シンチバック(尾錠)とサスペンダーボタン 【 写真;『VINTAGE古着大全』より抜粋】
つまり、最初の〝ハイ・ウエスト・オーヴァーオールズ〟は、リヴェット(鋲)とサスペンダーボタンとシンチバック(尾錠)以外に目立った付属品もない、いたってシンプルな〝作業ズボン〟だったのです。
同じ1873年、そんなシンプルこの上ない〝オーヴァーオールズ〟に最初のアクセントが加えられます。
その後、永きに渡ってリーバイスの象徴として君臨する事となる、〝アーキュエイトステッチ〟です。
これは、リーヴァイ・ストラウス本人の提案で、ロッキー・マウンテン・イーグルの翼をイメージしたものでした。
アーキュエイト(arcuate)は、〝弓形の〟とか〝アーチ状の〟と言った意味です。
そして歴史上大きな意味を持つ仕様が、いくつも追加されたのが、1877年です。
まずは、〝ダブルエックス (XX)〟の誕生です。
〝ダブルエックス(XX)〟とは〝ダブル・エクストラ・ヘヴィー〟の略で、リーバイ・ストラウス社がその後永く使用する生地の商業的通称です。
早い話が、当時これが「丈夫なデニム地の象徴」だったわけです。これは、デニム地の仕入れ先を当時最も品質の優れたアモスキーグ社に一本化した事で実現しました。
次に、これもあまりに有名な、〝トゥー・ホース・マーク〟の誕生です。
1本のジーンズを2頭の馬が左右に引き裂こうとしている絵柄、皆さんにもお馴染みですよね。
これは「ダブルエックスの生地で作られたオーヴァーオールズ」がいかに丈夫なものであるかを端的に説明したものです。これならたとえ文字が読めなくても、一目瞭然ですね。
現在は、紙パッチに印刷され右側のヒップポケット上に縫いつけられていますが、当時は宣伝広告用のフラッシャーに印刷されていました。
当時のフラッシャーには、「トゥー・ホース・マーク」に並べてこんな言葉が添えられていたそうです。
「このダブル・エックス・デニムが裂けるようなことがあったら、無料で新品と交換いたします」
いかにリーバイ・ストラウス社が自社の商品に自信を持っていたかが伝わってきますね。
そして1886年には、この宣伝広告用のフラッシャーが革パッチに代わり、右ヒップポケット上に縫い付けられるようになります。
その頃には、LEVI’Sの〝オーヴァーオールズ〟は、〝ナンバーワン・オーヴァーオールズ〟と表示されるようになっていました。
そして1890年になり、リーバイ・ストラウス社はこの〝ナンバーワン・オーヴァーオールズ〟を、社内向けに〝501〟と表示し、それを〝ファイブ・オー・ワン〟と呼びました。
この1890年に、「バックヨーク」と「ウォッチ・ポケット」が追加されています。
【1890年頃の LEVI’S 501XX】(写真;『VINTAGE古着 大全』より抜粋)
ところで〝501〟の数字が意味するところはいまだに謎らしいのですが、
一説によると…
この年(1890年)にはいくつもの試作品が作られ、それぞれに「101」「201」「301」「401」「501」「601」のように型番が振られ、その中で最も出来が良かった「501」の型番が選ばれたのだといいます。
末尾の「1」は「ナンバー・ワン」の「1」ではないかと…。
僕は大いにありえると思いますね。
その後1905年に、左側のヒップ・ポケットが採用されます。これによって、現在のファイブ・ポケット仕様になりました。
さらには1922年に、ベルトループが採用されます。しかしこの時は、従来通りサスペンダーボタンも付いており、好みによって自由に選ぶことができるようになっていました。
そして、1936年に新しく追加されたのが〝レッド・タブ〟いわゆる〝赤タブ〟です。
現在でもLevi’s 501の象徴的な存在ですね。
さらに1年後の1937年に採用されたのが、〝コンシールド・リヴェット〟です。
これは、ヒップポケットの上部左右に打たれた鋲のことで、これまでは外側に、剥き出しの状態で打ち付けられていました。
これでは、椅子や車の座席、あるいは馬の鞍が傷ついてしまうとの苦情を受けて、内側から鋲を打ち付けて補強したものをいいます。
※日本では「隠しリヴェット」と呼ばれていますが、現行のLevi’s 501には付いていません。
【コンシールド・リヴェット】
さらに同じこの年、サスペンダー・ボタンが廃止されています。
そして1942年、最後まで残っていた「シンチ・バック(尾錠)」が廃止されました。
と、言うことで…
非常に、非常に長かったですが…
こうして、リーヴァイスのブルージーンズ「501」は、現在まで大きく変わることのない普遍的な〝完成形〟を得ます。
ちなみに、この1942年、リーヴァイ・ストラウス社は販促用の小冊子を発行しています。タイトルは、『Everybody Knows (みんなが知っている)』
この中で初めて、「501」がリーヴァイスの愛称であることを全世界に向けて〝正式に〟宣言したのです。
ここまで長々とお付き合いいただき、本当に本当にありがとうございました。
最後に僕が持っているLEVI’S 501の中で、〝1942年〟の形に最も近いものを載せておきます。
これ、23歳の時にリーバイスストアで全く水を通していない、いわゆる〝生デニム〟の状態で購入し、10年履き続けてきた、1番付き合いの長い1本です。(いまだにバリバリの現役です)
バック・ポケットと、右側のフロント・ポケットには、当時の僕が使っていたガラケーの跡がくっきり浮き出ています(笑)
まさしく世界に1本しかない、僕の〝一生モノのブルージーンズ〟です。
【LEVI’S 501XX 1947年(復刻)】
【参考文献】
完本ブルー・ジーンズ
別冊ライトニング78 ヴィンテージ古着大全 (エイムック 1868 別冊Lightning vol. 78)
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