呪いが解けたあとのハッピーエンドはおとぎ話だけ 800文字ショートショート 84日目
ある朝。
夢から目覚めると自分の顔がカエルに変わってしまっているのに気づいた。
グロテスクな緑の光沢を持った皮膚。可愛い象徴の限度を超えた巨大なギョロ目。喋る度に風船のように膨らむ喉。
「感染症ですね。巷で人間が動物になってしまうウイルスが話題になっていますよね」
「あの突然彼女が犬になってしまって鳴きやまなくなってしまったニュースとかの……?」
「はい。貴方の場合はカエルのようですね。男性のみに症状が現れる“カエル化現象”というものです」
病院からの診断に唖然としながら帰宅した。
日常生活に関しては今まで通り過ごしてもらって別状はない。食事も変わりはなし。処方する薬もないらしく、ただ“カエル化”から戻るのを待つのが対処法だという。
「そんな! なんとかなりませんか。ここに来るまでもいろんな人から気味悪く見られて困っているんです。このままじゃ人生に悪影響だ」
「対処はあるにはあるんですが」
「教えて下さい!」
「それが……“カエルの状態で好意を持ってくれた人とキスをする”というものでして」
苦しげに言った医師の気持ちも分かる。誰が好んでカエルとキスをしたがるというのだ。自分だったら恋人だったとしてもキスはしたくない。
最愛の彼女であるまひるも、同じ考えだろう。だからこの呪いと半永久的に付き合っていくしかない。
「いいよ。キスだよね?」
「本当に? 嫌じゃない?」
「だってきょーくんはきょーくんでしょ」
顛末を伝えた上でのまひるの反応に面を食らってしまう。にこにこと笑っている彼女からは嘘は感じられない。
本当にキスしてくれるのか? 後光が見えて女神にしか思えない。
「カエルのきょーくんって新鮮だね。その大きな瞳に見つめられるとドキドキしちゃう」
ゆっくり近づいたまひるの柔らかい唇がカエルの唇に触れた。
途端、カエルの顔が脱皮するように元の人間の顔が剥き出された。
「や、やった! ありがとう! まひ」
「うわ……何今の。気持ち悪い」
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