見出し画像

【医療×取材力】元新聞記者から学んだ"聴き力"

先日,元新聞記者で現在は"Voicy"という音声メディアのパーソナリティをされている玉崎さんと,【医療×取材力】というタイトルで60分間の対談をさせていただきました.

玉崎さんは元新聞記者ということで,"聴き力"のプロからは学ぶところが大きすぎて,目から鱗がいくつ落ちたかわからないくらいでした.医師は日頃から患者さんと接する機会が多く,外来診療や病棟において日々"聴き力"が必要とされます.そんな自分にとっては実践的な内容が多すぎたので,ご本人の許可もいただいた上で,この場を借りてシェアさせていただければと思います.

そんな玉崎さんのvoicyはこちら↓「お金とキャリアに役立つ話」というテーマで発信されています.お金についての知識が豊富で本当に勉強になります.

はじめに:なぜ元新聞記者の玉崎さんから"聴き力"を学びたいと思ったのか

声のトーンが心地よくて,いつも滑らかに話されているこの放送を聴いていると,「なんて話すことが上手な人なんだ!!」という感動とともに,元新聞記者で現在パーソナリティをされていて,「不動産投資家」や「キャリアコンサルタント」という肩書きもあり,何者なんだ感がすごかった,というのが最初の印象です.

度々zoomなどで話す機会がある中で,話し上手なのはもちろんなのですが,気付いたらこちらの口が勝手に動いてしまうくらい"聴き上手"だということがすぐにわかりました.

そこで僕は良くも悪くも,思い立ったらすぐに行動するタイプなので,早速玉崎さんに対談を申し出させていただきました!ドクターである僕が,玉崎さんから"聴き力"を学ぶという建て付けです.ただ,ここで本音を話すと,前々から1対1でじっくり話してみたかったというのもあります.

感想は月並みな言い方になりますが,一言でいうとほんとに最高でした.新聞記者になるまでのバックグラウンドや,その後のキャリアなどここでは書き切れないことがたくさんありますが,興味のある方は玉崎さんのVoicy(2月11日放送)で自己紹介もされているので,ぜひ聴いてみてください.

インタビュー内容を録音した訳ではないので,再現というかうまく表現しきれるかわかりませんが,その内容をQ and A形式でお届けしていきたいと思います.

【医療×取材力】対談の目的

まずはじめに,この【医療×取材力】の目的は2つありました.

①医師患者関係における"聴き力"

語弊を恐れずにいうと,"医師患者関係"という上下関係がすでに出来上がってしまっている中で,こちらが「なんでも言ってくださいね」とお伝えしても,おそらく患者さんは「なんでも言える訳ないよ」と思っている.その関係性の中でいかに"聴き力"を発揮し,患者さんの症状や不安,訴えなどを聴き出していくか,について学びたい.

②チームリーダーとしての"聴き力"

医療はあくまでチーム戦であり,コメディカルや他の科のドクターとの連携が不可欠.その中でドクターはリーダーのポジションに付くことが多いため,リーダーとしての"聴き力"を学びたい.

上下関係がある中でどのように"聴き力"を発揮するのか

キャリアコンサルタントとしての玉崎さんも,相談する側つまりクライアントとの関係は並列ではなく,見えない上下関係があるとおっしゃっていました."医師患者関係"と同じような構図ですね.これはどのような職種においても存在することだとは思います.これ以降は玉崎さんの話した内容を僕なりに書きますが,伝えやすさの観点から一人称で書かせてもらいます.

玉崎さん:クライアントさんに対しては,まずはじめに「あなたがどうなりたいのか」を率直に聴きます.本音の部分を徹底的に引き出しますね.そこの方向性が最初からずれていると,後々で修正するのが大変なので.最初に掘り下げてクライアントさんの意見を聴きますが,ここで相手が自分に対して恐れや警戒する気持ちを抱いていると,本音が聞き出せなくなります.

なるほど〜最初から本音を全て引き出しておくんですね.確かに医療現場でも,最初に患者さんが言いにくいからなのか,「なんとなくしんどい」だけで他に訴えがなかったのに,後から「めまいがする」「嘔気がする」など症状を付け加えておっしゃられることがあります.

最初からしっかり症状を全て聞き出しておくと,無駄な検査や追加の検査をしなくて済むだけでなく,いち早く診断に至れて治療を行えるのでいいことづくしだと思いました.ではどのようにして本音を引き出すのでしょうか.

クライアントの本音を引き出すためにどのような工夫をしているのか

"コンサルタント-クライアント"関係でも"医師-患者"関係でも,最初から本音を聞き出しておくことが重要なことは分かりました.そこで,本音を引き出すために心がけていることについてお聞きしました.

玉崎さん:まずは相手と同じ目線に立つことですね.僕が意識していなくても,クライアントとしてアドバイスを聞きにきている相手にとっては,どうしてもコンサルタントを自分より上の存在に感じてしまっていると思います.なので僕が相手の方と同じ人間であり,身近に感じてもらうように心がけています.例えば,「アニメが好き」や「子供っぽいところがある」など.目の前にいるこの人は完璧な人間じゃなくて,自分と同じような立ち位置にいて,自分と同じような生活をしている人なんだと感じてもらうことが大事かなと思います.距離感を縮めるためには,プライベートな部分もさらけ出しますし,基本的に話題もNGがないです.

なるほど〜こちらが意識していなくても,相手は自然と自分を上に見ているから,自ら相手のところまで降りて行って同じ目線に立つということですね.この部分を聴いた時には,玉崎さんが優しすぎて泣きそうになってました.ただコンサルタントの仕事をきちんとする上で,本音というかニーズを引き出すことは不可欠なので,結果的にはお互いにとってwin-winになるとも思いました.

さらに玉崎さんは普段からSNSなどで自分のことを発信していることから,クライアントが最初からある程度,玉崎さんのことを理解しているのも関係性を作る上でポジティブに働いているとおっしゃっていました.

僕は以前,外食でカレーライスを食べているのを患者さんに見られた時に,「先生がカレーなんて食べるの!普段から料亭とか行ってるんじゃないの」とびっくりされたことがあります.僕が逆にびっくりしましたが.僕は普段から牛丼やラーメンも普通に食べますが,患者さんにはそのように思われてなかったということですね.

玉崎さんの話を聴く中でこのカレー屋さんのピリ辛エピソードを思い出し,自分と患者さんの距離が遠かったのだと反省した次第でした.

このように,世間一般ではいわゆる「お医者さん」に対しての凝り固まったイメージがある分,診察室に入るだけで緊張感は高まっていると思います.その上で,このようなアドバイスをいただきました.

玉崎さん:診察室に緊張して入ってきた患者さんに向けて,アイスブレイクのようなことができるといいですね.例えば,机の上にフィギュアや趣味のものなどを置いておくと話のきっかけにもなるし,「この人も自分と共通点のある,同じような価値観の人なんだ」という安心感も与えれますよね.

すぐにでもドラゴンボールのフィギュアを自分の机の上に置きたいと思いました.

同じ目線に立つ上で注意するポイント

さて患者さんとの信頼関係を作る上で,同じ目線に立つことが重要なことはよくわかりましたが,この信頼関係のことを"ラポール"と言います.

ラポール(rapport)はフランス語が語源の言葉で,「調和した関係」「心が通い合う関係」という意味を持っています.安心してなんでも言い合えるような関係ですね.心理学の言葉では,「心理的安全性」と言ったりします.

そして自分のことを相手に身近に感じてもらえることが,この"ラポール"形成において不可欠なことも分かりました.漫画やアニメが好きなことやカレー屋や牛丼屋でご飯を食べること,子どもっぽいところなどマイナスな面というか人間臭い面も出していいと.しかし,その中で唯一注意するポイントがあると言います.

玉崎さん:基本的に僕はどんな部分でもさらけ出して,一対一でクライアントさんと向き合うようにしています.マイナスな面も出して,「自分もこうだった」話をしたりしますが,その中で唯一しないほうがいいことがあります.例えば「朝弱くて遅刻が多い」とか,「優柔不断」とか,仕事においてマイナスになるようなことは言わないようにしています.クライアントさんがかえって不安になるようなことは言う必要がないですよね.

めちゃめちゃ勉強になりますね!なんでも出してもいいけど,仕事にマイナスになるような面はあえて出さなくていいということですね.確かに相手との関係は築けても,「この人大丈夫かな」と思われると,信頼はガタ落ちしますよね.この点も注意したいと思いました.

ラポール形成の上で重要な魔法の言葉

クライアントに対して,話す時間を持つ際に,玉崎さんは常日頃からこのような言葉かけをするそうです.

「この時間はあなたのための時間ですよ」

これは素晴らしい言葉かけですよね.コンサルタントに対するクライアントや,医師に対する患者さんの立場に立った時に,「忙しい仕事の中で自分に時間を作ってくれているから,要件(症状)については手短に言わないと」とか「余計なことは言わないでおこう」などと思いがちではないでしょうか.

その相手の自分に対するブロックを自ら壊しにかかることで,「心理的安全性」は確保され,なんでも言えるような間柄に近づけるのではないかと思いました.

自分自身へのフィードバックはどうしているか

私自身は医師になり11年が経ちますが,これくらいのキャリアになると,自分の診療内容や外来での問診の質について,厳しく叱られたり,フィードバックをしてくれる人がいなくなります.これはある意味ですごく危険な状態で,何が正解かがわからずに,自分がしていることが全て正しいと勘違いしてしまっている,みたいな"裸の王様"状態に陥りがちだと思っています.注意や指摘をしてくれる人が少なくなる中で,自分自身に対するフィードバックをどのようにしていくのかは,重要だけど難しい問題だと感じていました.

どのような職種でも例外ではないと思いますが,新聞記者時代やクライアントと向き合うキャリアコンサルタントとして,ずばり自分自身へのフィードバックはどのようにしているのかを聞いてみました.

なぜなら僕自身は,「自分のことは自分が一番見えない」と思うからです.このようなお答えでした.

玉崎さん:自分自身へのフィードバックについては,その難しさも含めて僕も常日頃から意識するようにしています.僕の場合は単刀直入にクライアントさんに,コンサルタントが終わってから(場合によっては途中でも)「実際に僕のコンサルタントを受けてみてどうでしたか」と聞くようにしています.このフィードバックがないと,なんとなく仕事を回ってうまくいっているという錯覚に陥りますよね.フィードバックを受けて改善することができないと,成長は止まるとさえ思っています.このフィードバックを受ける時に大事なのが,これを聞いた時に相手が自分に対してなんでも言えるような関係を築いておくことです.最初のラポール形成が,最後のフィードバックに繋がってくるんですね.

グサグサグサーーッ(心に刺さりまくる音です).考えたこともなかったです.研修医時代は上司が後ろについていて,患者さんに対する自分の説明がちゃんとできているかどうかなどのフィードバックを受けていました.そして今は自分一人で診療に当たることが多いため,そのフィードバックの機会がなかった.自分をチェックするコーチのような人が必要だと考えていましたが,その考えは全く違うということに気付きました.フィードバックを得るべき相手は,上司ではなく,クライアントであり患者さんだったんですね.

ということで,これからは患者さんに「僕の診察どうでしたか?言いたいことがちゃんと言えましたか?」と聞くようにします.そこで何でも言えるような関係をあらかじめ作っておけたらベストですよね.机の上にはドラゴンボールのフィギュアを置いて.

チームリーダーとしての"聴き力"

かなり話は長くなりましたが,これでも大事なエッセンスの部分だけを抽出して書いています.最後にチームリーダーとしての"聴き力"について聞かせていただきました.

前述のように,コメディカルを含めた一つのチームとして患者さんと向き合う,いわば"チーム医療"の重要性は言うまでもありません.その中で,医師はチームリーダーとなることも少なくないです.

実はこのインタビューの前に,"聴き力"に関する本を3冊くらい読んで臨みました.「聴き力を発揮してこそリーダー」みたいな内容が多かったのですが,実際にスタッフの皆がリーダーに対して話しやすい雰囲気ってどうやって作ったらいいんだろうって考えていました.

そんな中で,元新聞記者として「情報を話したがらない人からどうやって情報を聞き出していたのか」と言う質問を最後にさせてもらいました.

玉崎さん:まず大前提として言っておきたいのは,「話したがらない人はどう聞いても何も話さない」と言うのが原則です.その上で,話すとしたら「自分(インタビューを受ける側)にとってメリットがある時」だけです.少し戦略的な話にもなりますが,私は相手にとって"話すことでどのようなメリットがあるのか"を意識的に提示するようにしていました.

この話をチームリーダーである医師の立場に置き換えると,スタッフにとってのメリットを示すことが,何でも言える雰囲気にするために大事な点だと教えていただきました.さてスタッフにとってのメリットとは何でしょうか.そう「目の前の患者さんを良くすること」です.

スタッフがリーダーに何でも言ってくれることこそが,患者さんのためにもなるから,「何でも言ってね.わからないことがあればすぐに聞いて」と伝えておくと,スタッフは話しやすい状態になると言うのです.

経験的な話にはなりますが,コメディカルがリーダーや上司にすぐに情報伝達できないことは,ミスや場合によっては医療過誤に繋がりかねません.医療の質をあげるだけでなく,インシデントやアクシデントを防ぐ上でも,風通しを良くするというか,スタッフから何でも言ってもらえる雰囲気作りは大事だと思っていたので,このアドバイスは明日からすぐにでも使える実践的なものだと思いました.もちろんそこは心の底から自分が思っていないと,スタッフには伝わらないとは思いますが.

まとめ

かなり長くなりましたが,これでも60分間で聞いた内容の一部になります.これ本にしてもいいんじゃないかな,と思うくらい,自分にとっては非常に参考になる内容でした.

"医療における聴き力"という観点からまとめると,

・ラポールを形成し患者さんとの距離を縮めて,何でも話せる心理的安全性を得てもらうためには,カレーライスを食べるような自分をさらけ出す.ただし仕事に直結しないような内容で.
・机の上にドラゴンボールのフィギュアを置く.ただでさえ緊張する診察室では,話のきっかけをこちらから作っておく.
・スタッフが何でもリーダーに話してくれるためにも,「患者さんのため」というメリットを提示しておく.

以上,【医療×取材力】のインタビュー内容を書かせていただきました.最後に僕から皆さんにお聞きしたいのは,「この記事どうでしたか」です.

感想などあれば,コメント欄や僕のSNSまでいただけると嬉しいです.長文になりましたが,最後まで読んでいただきありがとうございました.

"聴き力"は医師患者関係のみならず,職場の先輩後輩や友人間,夫婦間,親子間などあらゆる場面で必要となると思います.この内容が皆様の職場や日常生活において,少しでもお役立ちできることがあればこれ以上の幸せはないです.




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?