品川 力 氏宛書簡 その九
ツトムさん―ゆふべは愉快でした。今日のタイムスにもあなたの詩稿
をのせないのはけしからんことです。このつぎにはきっとだしてくれる
でせうが。
yobu―この詩をよみ、そのやはらかいトーンと、澄みきった
殉情の美しさに恍惚をしました。あのひとは神品にちかいひとです。
佐藤春夫のおくさんになられたらよかったのに――。
僕の散文はあまりつまらないので、「思ひ出」でその埋めあはせをしま
す。茶の花とあるのは、菜の花であることはいふまでもありません。
僕は丗才になったら、散文集を一册だしたいと思ひます。
―樹かげをさまよふ憂鬱―といふ本ですが。
大杉栄全集が出る
のはありがたい。
ゆめ!めざめ!ゆめ!よろこび!かなしみ―さびしさ―宇頂天!
ゆめ!めざめ!・厭生!生きるよろこび!厭生!くらやみ―明るさ。
自分=バカ 神経衰弱÷2×春+若さ=自分=バカ
[消印]14.3.17 (大正14年)
[宛先]京橋区銀座尾張町
大勝堂
品川 ツトム 様
菊池与志夫
(日本近代文学館 蔵)
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