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原材料の考え方(バター編)

バターについて考えるときに重要なことはやはり原乳の品質と加工方法だと思います。
そしてもうひとつ非常に重要で考えなくてはならないことは、乳を牛から頂いているということです。当たり前のことでありながら、普段それを考えるということはなかなか無いことだと思います。自分自身、日々業務用の大量のバターや牛乳を使っているときには考えていなかったように思います。

さまざまな国産バター

やはり何かを試すにあたっては身近なものから始めます。仕事場で使っている業務用バターです。おそらく身近なメーカーでは無塩バターから発酵バターまでほとんど試しました。タカナシ、よつ葉、明治などミルク感が強いものから、いわゆるバターらしさが強くコクの強いもの。
さらに発酵バターになると爽やかなヨーグルトのような風味のあるものから、チーズのように香りが強いものまで様々です。これを全てテリーヌにしていくのですから、なかなか大変ですがこれはまだまだ始まりに過ぎません。
佐渡、カルピス、ヤスダヨーグルト、蒜山のジャージーバター、この辺は値段も上がると同時にクオリティも確実にあがっていきます。佐渡バターは特に製法にも昔ながらの強いこだわりを感じ、口溶けや風味の良いバターだと感じました。

フランス産のバターとの出会い

テリーヌがより美味しくなる可能性を探すためバター探しは続いていきます。あるスーパーで海外産のバターを見つけました。なんとなく試してみようと手に取ったものがイズニーの発酵バターです(フランスのものは基本的にすべて発酵バターになっています)。使ってみると風味の良さ、なめらかさと今まで使ってきたもののなかでは一番でした。そしてそれはテリーヌにもしっかりと活きてきます。ここからフランス産のバターをメインに探すことにしました。
おそらく日本では一番知名度があるエシレバター。爽やかな風味がイズニーのものより強く、抹茶のテリーヌでは活かしきれない。Le Gallは富澤商店で見つけたものですが、癖がなく生クリーム系の風味を感じてかなり良い線でしたが業務用の入手経路が見つからずに断念。PAMPLE、Etrez、この辺は発酵の香りが強めなのでいまいちあわず。
Beillevaireはミルキーだが少し独特の香りがあり、テリーヌにするとはっきりそれがわかってしまうのでパス。ただBeillevaireのバターは日本の規格ではない無殺菌乳を使用しているバターなので、その自然な風味を楽しんでみるのも良いと思います。フランスではエシレなどより人気なのではないでしょうか。
フランス産の他にもデンマーク産のLURPAKはバターとしての香りや重厚感はとても良いものでしたが、試作すると逆にそれが重さとなってしまうことになってしまいます。パンに塗るとかであればかなり美味しいと思います。
イタリア産のグランボンタというのも使ってみましたが、残念ながら香りが合いません。結局のところ一番最初に手に取ったイズニーのバターに戻ります。適度な軽さ、ミルク感、なめらかさ、発酵香も穏やかで一番合っていました。フランス産のバターをいろいろと調べていくなかで日本のバターとの違いを考えるきっかけにもなりました。

製造方法と飼育環境

日本のバターは高温殺菌乳で作られているので賞味期限が長くなっています。しかしフランスのバターは無殺菌や低温殺菌が主流なので、賞味期限は短いですが乳本来の香りが残っています。
フランスにはAOCと呼ばれる原材料の産地及び伝統製法の厳しい規クリアした製品に与えられる、いわば品質保証のような認証があります。さらにエシレバターは独自の基準があり、エシレバターの原料として認められるのは工場から半径約30km以内の酪農家が24時間以内に届けた牛乳だけ。また育成環境という面でも牛一頭あたりの放牧地の面積にに最低基準を課すなど、出自と品質の確かな原料のみが使用されています。
ヨーロッパではアニマルウェルフェア(動物福祉)の考え方が日本よりも進んでいるので、こういったのびのたびとした環境で育てることで動物の幸せにも配慮しているのではないかと感じました。全てこういったことに配慮しているものを使っていくことは難しいのかもしれませんが、こういったことを意識しながら製品をつくっていくことが重要なのではないかと思います。

地球屋バターファクトリーと松本牧場

さまざまなバターを試し、しばらくの間はイズニーに落ち着いていました。しかし、出来るだけ日本の素材を使いたいという考えもあったので探すことはやめていませんでした。そして自然派食品のお店で見つけた酪農家限定バターという商品。香りの良さ、口溶け、後味の心地よさは素晴らしいものでした。すぐに連絡をしてお話を聞いていただけることに。群馬県にある地球屋バターファクトリーのバター職人である高橋社長にご相談させていただきました。バターについてのお話を聞くと、やはりこのバターは低温殺菌乳からつくられているということでした。さらにバターに使用している原料も、通常は加工原料乳という飲用の原乳とは別のものになりますが、酪農家限定バターに使用しているのは飲用の原乳とのことでした。これが風味や後味の良さにつながっています。
飼育環境について尋ねてみると、基本は酪農家さんの組合から乳を仕入れているので全ては把握できないとのことでした。ですが、嬬恋高原の松本牧場さんの乳は単独で仕入れているとのお話が。通常のバターは原乳を全て混ぜて使うそうなのですが、ロッドさえあえば松本牧場さんの原乳のみでつくっていただけることになりました。松本牧場さんでは牛を放牧させることや、自家製の飼料にこだわりをもって飼育しているということでした。こういった信念を持った酪農家さんに出会えたことで、ここまでバターを探し続けて本当に良かったと思えた瞬間でした。
実際にバターをつくっていただくと最高に美味しいのです。酪農家限定バターですら口溶けが良かったのに、さらに融点が下がったように体に溶け込んでいくような素晴らしいバターです。テリーヌの中でも使用割合が多いので、このバターを使うことで完成度が格段に上がりました。テリーヌのなめらかさ、後味がくどくないこと、このバターが大きな貢献をしてくれています。大変なお願いを聞いてくださった高橋社長、最高の乳を提供して下さいます松本様に心から感謝しております!

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