仕事は一度捨ててみよう
「自分の立ち位置、ちゃんと確保しないとダメだよ」
とある職場で、働き始めることになった新人さんが、こんな言葉をかけられたという話を聞きました。
仕事の本質を理解できている上司が、こういう言葉をかけるのは、分からないでもありません。けれども、そういうことが理解できない人が、新人に対して、こんな言葉をかけるのは浅はかに過ぎます。
「自分の立ち位置」という言葉、何となくそれっぽいです。自分が組織の中で、どれだけの価値を発揮できるか、存在感のある仕事ができるかということは、きっと大事でしょうから、そういう言葉をかける上司の気持ちも分からんでもないです。
けれども、仕事とは何たるかも分かっていないにもかかわらず、そういう言葉をかける上司だとしたら、私はあまり感心しません。
「自分の立ち位置をちゃんと確保しなきゃ!」
そう思った新人さんは、たくさんの仕事をしようとします。
できる仕事、すべき仕事はもちろんですが、張り切ってしまう新人さんは、しなくてもいい仕事、自分の仕事でもない仕事にまで、手を付けるようになります。
「私、頑張るんだっ!!!」
で、結果どうなるか・・・。
そのあたりの仕切りもできない上司は、ただただやみくもに新人さんを頑張らせて、大混乱に陥らせます。ただの無責任、かつ無能な上司でしかありません。
例えば、取引先(もしくは他部署や他の担当者)がやるべき仕事にまで手を出して、アップアップになるわけです。アップアップになるだけではありません。
自分の責任や権限を越えた範囲で動くことになるので、自分に決定権がありません。ちょっとでも他の関係者から「それは違う」と言われら、すぐに修正をしなければいけないので、いつまで経っても仕事が終わらなくなります。ツギハギだらけになるので、当然、時間をかける割には、仕事のクオリティーは高くありません。
しかも、取引先(もしくは他部署や他の担当者)からは、そういう仕事のスタイルが当たり前のものだと認識されると、それ以降は、本来、その人がすべきでない仕事であっても、勝手に「いつもお前がやってる仕事」というかたちで振られるようになり、それが固定化してしまうわけです。いつの間にか、本人もそれが仕事だと思い込むようになります。
ハッキリ言って、踏んだり蹴ったりです。
こういうことで悩んでいる人がいるとしたら、まずこう言ってやりたいです。
「仕事は、まるっと捨ててみよう!」
みていると、多くの人が余計な仕事を抱えすぎているのです。そして、余計な仕事をすることで、さらに余計な問題を生み出しているように思います。
だから、仕事は一旦、まるっと捨ててみるのです。断捨離と同じです。そして、そのなかから、自分しかできない仕事を拾い集めます。
以下の図で言うと、仕事をこなすときに、最低限やらなければいけないことというのがあります。それが「①+②」の部分です。このうち、②だけを拾って、自分の仕事としてこなしていくのです。
そして、①は極力他の人にお願いするようにします。
うん?そんなの無責任?
それは、「自分しかできない仕事」の意味をはき違えているかもしれません。「自分しかできない仕事」というのは、能力的に自分しかできないというだけでなく、「自分しか責任を取れない仕事」という意味でもあります。
自分だけでなく、他の人も責任を取れる仕事であれば、自分一人が抱え込む必要はありません。そんな仕事は、自分よりも能力があって、かつ責任を取れる人に任せた方がいいに決まっています。組織全体として、時間のかけ方も効率的になります。
ちなみに、ここで言うところの「どうしてもすべき仕事」というのも、よく考えておく必要があります。
本当の意味で「どうしてもすべき仕事」などというのは、不確定要素が多いなか、意外と少なかったりするものです。それを勝手な解釈で、「こうしなければならない」という思い込みでいろいろ進めてしまうと、あとで手戻りになることだってありえます。要は、無駄になるということです。
自分の趣味でやる分には、いくら無駄があっても構いません。趣味ですから・・・。けれども、仕事としてやるのであれば、「どうしてもすべき仕事」は、手戻りが発生しないように、できる限り、狭い範囲で捉えておく必要があります。
また、他人に任せるという部分については、「ポイ」っと仕事を投げるのではありません。あくまでも、その人に感謝し、またその人自身にも「自分がやらなければ」と思っていただきながら、仕事を進めてもらうようにしなければなりません。
ここで、ひとつ重要なポイントを指摘しておきます。
できる人というのは、業務をサクサクこなせる人ではありません。そんなのは二流・三流です。本当にできる人というのは、たくさんの人から協力を得られる人です。自分自身が、業務をサクサクできるからといっていい気になっている人・・・こういう人が多いようですが、これはまるでダメです。
自分自身が「どうしてもすべき&自分しかできない仕事」に集中し、それ以外のすべき仕事は、他人に一所懸命頑張ってもらえる人・・・こういう人ができる人です。
ちょっと話が逸れますが、中国で、漢の高祖と呼ばれる劉邦については、よく人柄の良さが取り上げられます。
この劉邦のライバル、項羽は大変な切れ者でした。「劉邦 vs 項羽」を単体でみたら、劉邦にはまるで勝ち目がありません。
しかし、人柄が良い劉邦の下には、ことごとく優秀な人材が集うようになります。単体では、まったく項羽に歯が立たない劉邦ですが、最終的に項羽の国・楚を滅ぼして、中国を統一することになるのです。
何故、劉邦は中国を統一することができたのでしょう?
それは、劉邦が多くの人々から応援・協力を得られるような人であり、そういう生き方をした人だからです。できる人というのは、そうでなければなりません。このテーマは、深堀していくとキリがないので、これくらいにしておきます。
いずれにしても、こんなふうに考えていくと、「自分の立ち位置、ちゃんと確保しないとダメだよ」なんて話は、正直、どうでもいいことなのです。
でもまぁ・・・今は、仕方ないのかもしれません。そういう大事なこと、本質的なことに気づかない人がほとんどなのでしょう・・・。
せめて、そういうことが分かる人たちは、そうした「事の要諦」を押さえたうえで、仕事の断捨離をしてみてはどうかと思うのでした。
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