「製品の使用感についてのインタビュー」とは
製品の使用感を調べるということ
クライアントから「新製品の試作品を使って、使用感や満足点・不満点を調べたい」という問合せをもらい、こちらはユーザビリティ評価の案件かと思っていたら、クライアントはちょっと触ってみてもらって感想を聞きたい程度だったというすれ違いが時折あります。
この二者の違いは意外と奥が深く、ユーザビリティ評価の本当の意味を明らかにするのに良い材料になります。
マーケティングリサーチ畑の人(委託側も受託側も)や、もっと素朴に当事者から感想や意見を聴取することがインタビュー調査だと考えている人にとって、ユーザーの評価とはQ&AのAであり、調査対象者の発言がすべてです。
この考えかたを、行動主義的と言っていいかもしれません。マーケティングリサーチに携わる人は、調査対象者の発言にはさまざまなバイアスがかかることを知っており、心理学的な領域に一歩踏み込んでいますが、それでもモデレーター(インタビューアー)の発言が刺激物 stimuli となって調査対象者の発言に込められたその人の知識という反応 response が返ってくる構図に変わりはありません。
これに対して、ユーザビリティ評価は、まず調査参加者に評価対象物の操作という行為をしてもらって、それを観察することを主眼に置き、質問と回答は言葉でなければ伝えられない点を後追いで確認しているにすぎません。
この背景には認知心理学の構図があり、ユーザビリティ評価の真の焦点は、評価対象物が調査参加者のそのような行為や発言を引き起こした認知処理のありかたを明らかにすることなのです。
言い換えれば、インタビュー調査はモデレーター(インタビューアー)と調査対象者(インタビュイー)の二者関係を中心として、調査する側がまだ知らない調査対象者の頭の中の知識を引き出すことを目的とするのに対し、ユーザビリティ評価では主たる二者関係は評価対象物と調査参加者(ユーザー)であり、モデレーターはリサーチャーとして両者のインタラクションを観察し、認知の働きを分析する立場にあるということなのです。
ユーザビリティ評価の専門性
ユーザビリティ評価には固有の専門性があり、評価設計も単にQ&Aを作るだけでなく、自然に評価対象物を操作してもらい、かつ認知処理のありかたが分かるようになるためのシナリオを注意深く作成しなければならないし、分析と考察も調査対象者の発言の整理だけでは決して終わりません。
この結果、ユーザビリティ評価はインタビュー調査よりも費用面でも割高になり、冒頭に述べたすれ違いを放置しておくと、あまりいい雰囲気にならないことが多いです。リサーチャーとしては、ユーザビリティ評価の意味・価値を丁寧に説明して、本当にそれがクライアントの必要なものなのか、よく確認したほうがいいでしょう。
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