見出し画像

No,50.忘れてはいけない事故について

あおり運転など意図的な交通事故についてつらつらと書いてみる。

背景

2017 年 6 月 5 日午後 9 時 35 分ごろ、神奈川県大井町赤田の東名高速道路下り線で起きた事故に関わったとされる容疑者は、パーキングエリア出口にふさぐように止まっていたため、被害者の父親に注意をされた。そのことに腹をたて高速道路追い越し車線に被害者の車を無理やり停車させ父親の胸ぐらを掴み暴言を吐いたとされる。その時に大型トラックなどの2台に追突され事故に至った。

この忘れてはならない事件についてつらつらと書いてみる。

容疑者の運転に対する意識はどうなのか?

1.運転技能

Keskinen によると、安全運転を実現するのに必要なドライバーの技能は、4 つの要素から構成されている。


① 車を操る技能(技術)
② 複雑な交通環境に適応する、交通状況や道路線形に対する読みと適切な注意配分、そして安全運転を維持するための戦略的な行為の選択(判断能力)
③ 目的地までの安全な走行ルートの選択、走行時間帯の選択など、運行計画に関わる意思決定(遂行能力)
④ 社会生活の技能(自己コントロールを含む)は、動機、価値など社会生活全般に関わる技能(自己制御)


事故に関わったとされる容疑者は④が欠落していたと考えられる。

2.容疑者の行動と心理的背景

自己コントロールが欠如する理論的背景として「ストレス相互作用モデル」 (Lazarus and Folkman,1984)がある。注意をされたことでネガティブな感情が芽生え、ストレス反応を起こし自己コントロールがきかなったと考えられる(図1)。

キャプチャ

ネガティブな感情を抑えストレス反応を低減させるには、自身がコントロール可能だと認識を持つことが重要と言われる。

今回のケースでいえば注意されたことで腹をたてすぐに行動に向かわせた。もし注意された時点で「私が出口に止めたので車が通れなかったのだろう」と解釈すればストレスが低減されただろう。

このように自分に言い聞かせる言葉を資源として多く持ち合わせることはさまざまな対処方法を得ることが出来るようになる。結果として「自己効力感」も高まるとされる(図2)。

自己効力感とは「行為の実行可能感の認識であり、具体的な行為の手順をイメージできる能力」と定義される。例を出すと「○○の資格を取りたいからこのように勉強していけば俺なら受かるだろう」または「試合相手に勝つにはこの部分を練習すれば勝てないことはないだろう」である。

キャプチャ

3.自己理解に至る経緯

以上のような理論的背景から重要なポイントは自己理解である。自分を理解するには客観的な自己評価が重要である(図 3)。

キャプチャ

自己理解が進めば自分の認知の特徴や歪みに気付くとことが出来るといわれている(図 4)

キャプチャ

4.今回の事件と問題点

容疑者は注意されたことによりネガティブな感情が生まれ(生起)、自己コントロールが出来なくなり高速道路の追い越し車線にもかかわらず被害者の車を止め行為に至った。


冷静に考えればそのような行為自体信じられないだろう。しかし今回の事件を見れば自己コントロールを失えば状況判断が出来なくなることがいえるだろう。


図 5 に示すようにネガティブな出来事によりネガティブ感情が生起(ネガティブな感情が浮かび上がる)する。そしてストレス反応として起こす。しかし健常者と臨床(うつ病などの精神疾患)ではネガティブ感情の生起からストレス反応に転移する段階で認知の違いがあると言われる。つまり容疑者は認知の歪みがあると考えられる。


以上、容疑者の論理的視点から事件に至った経緯を示唆した。始めにドライバーの技能について、次にストレス相互作用モデルによるストレス反応、3 つ目は対処方法を得ることによる自己効力感の獲得、最後に自己理解による認知の歪みへの気づきについて述べた。

最後に

被害者の正義感による行動がこのような事件につながったことを考えると本当にいたたまれない。

キャプチャ


参考文献
小川和久・太田博雄・向井希宏・鈴木隆司(2009)「ドライバーの感情特性と運転行動への影響」『財団法人 国際交通安全学会・研究調査プロジェクト報告資料』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?