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No.218, 自分の感情を制御することについて(自己制御)
はじめに
社会では多くの場面で自らを律する必要に迫られる。社会生活を営む上で多くの規範にそった行動が不可欠となるためである。我々は、状況に応じて、様々な感情、衝動、思考、行動の意図的な制御を試みている。この試みは自己制御と呼ばれ、その背景には、実行機能が関与していると考えられる。
実行機能とは、複雑な課題の遂行に際し、課題ルールの維持やスイッチング、情報の更新などを行うことで、思考や行動を制御する認知システム、あるいはそれら認知制御機能の総称である(Miyake,1999)。
実行機能を動かすのは、脳の前頭前野という部位で本能にあらがい、人間的思考を行う脳の部位です。前頭前野があるおかげで、私たちは、本能を抑え込み、理性的に生きることができるのです。前頭前野がなければ、人間は知能が低いサルになります(出典:社会人のスマホ学習ブログ ~知識の勉強記録~)。
1.実行機能
実行機能とは、認知的・行動的な制御を担う認知システムのことであり、更新(updating)、抑制(inhibition)、切り替え(shifting)という3つの下位システムから構成されるといわれている概念である(Miyake et al,2000)。
● 更新とは、ワーキングメモリ内にある情報を監視し、不要になった情報を取り除き、新たな情報に置き替える能力を指す。
● 制御は、必要に応じて、自動的な反応、支配的な反応、優勢な反応を意図的に制御する能力を指し、提示される色のついた色名語について、文字の意味を無視して文字色を回答するストループ課題や、手がかりに基づいて反応を抑制するストップシグナル課題によって測定される(Hofmann.Schmeichel,&Baddeley,2012)。
● 切り替えは、複数の課題や操作、メンタルセット間を柔軟に切り替える能力であり、同一の刺激セットに対して2つの課題を課し、それらの課題を適宣切り替える状況を設定するタスクスイッチングパラダイムによって測定される。
1-1.自己制御と実行機能について
自己制御とは、思考、感覚、行動を変更、あるいわ乗り越えようとする試みのこと指す(Suhmeichel,2007)。
自己制御の成功には、思考・感覚・行動の基準、その基準と実際の状況の不一致を低減するためのキャパシティが必要になる。
基準とは、理想や目標を指し、キャパシティは現在の状態を操作するための能力とそれを遂行するために必要な資源の両者のことである。基準に実際の状態に近づける操作には、適切な基準の保持と新たな基準への更新、複数の規準間の切り替え、操作に干渉する様々な刺激に関する抑制など、実行機能の下位システムすべてが関与すると考えられる。
更新は、魅力など注意を奪う刺激から注意を逸らす、自己制御に反すうの制御や望まない感情の低減を助ける(Hofmann et al.2012)。
抑制は、衝動や習慣的な行動の抑制を助け浮気などの様々な衝動抑制における問題と関連すると考えられる。
また更新と抑制は、自己制御目標を追求し続けることに寄与する。
切り替えは、同一の目標を達成するために用いる手段の切り替え、複数の目標の柔軟な切り替えを助けるという違いがあるとされている。
つまり、自己制御には実行機能が寄与している。
2.自己制御
自己制御については有名な2つの研究がある。
1つは、幼児期に満足を遅延 (目の前の報酬に対して我慢する) できる子どもは、40 年後に衝動性が低く、自己制御能力が高いことが報告された (Casey et al., 2011)。※有名なマシュマロテスト
もう1つは、10 歳頃までの子ども期の自己制御能力が、32 歳になったときの健康状態や薬物依存の程度、年収や社会経済的地位、さらには犯罪の程度まで予測することを示した (Moffitt et al, 2011)。
つまり、これらの 2 本の論文は、早期の自己制御能力は、生涯を通じて維持され、社会的な成功や健康状態を予測することを示唆している。
おわりに
人は目標のために何かを我慢して行動を制御することがある。
それが長期的であればあるほど自己制御が必要だろう。
例えば、ダイエットは自己制御のわかりやすい事例である。
現在の体重を把握した上で、ダイエットに対する運動や食事を考えることが更新であり、
同時に食べ物などの誘惑に打ち勝つことなどの抑制が必要だろう。
また、実行していけばさまざまな計画の変更や適切なトレー二ング内容を切り替えていかなければならない、といった切り替えが必要である。
その結果、更新・抑制・切り替えといった実行機能が働けばダイエット成功となるだろう。
このような成功体験は自信や自尊感情を高める要因にもなります。
上述のように、自己制御と実行機能は密接に関わっていることが近年の研究で示されている。
引用文献
服部陽介(2015)「自己と他者に関する思考・感情の意図的抑制と実行機能」『心理学評論』第58巻 、第1号、pp115-134
森口佑介(2015)「 実行機能の初期発達、脳内機構およびその支援」『心理学評論』 第58巻、第 1号、pp 77-88
A Miyake, P Shah (1999)Models of Working Memory: Mechanisms of Active Maintenance and Executive Control Cambridge University Press
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