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風の中に心ひらく ~放哉の俳句から~

追つかけて 追ひ付いた 風の中

尾崎放哉

自由律俳句ながら、五、五、五のリズムがあり、スピード感あふれる俳句です。
文法風に表現すれば、

進行形⇒現在完了⇒今

という流れがあります。
動きにあふれる過去から、静かなる「今」という瞬間が、急激に拓けるような感じがします。
夢でも恋愛でも結構ですが、追い付いた瞬間に、過去は忘却の彼方に追いやられることがあります。

病気でも風邪でも結構ですが、回復した後には、病んでいたことを忘れてしまいます。
もちろん頭で思い出せることはありますが、追っかけた時の感覚は素直には呼び起こせません。

呼び起こしたほうがいいものも、あるでしょうが、
呼び起こさないほうが、素直に生きられることも多いものです。
上手く忘れている人のほうが、健全に生きてるように見えるのは私だけでしょうか?
生きている中で、「今」という瞬間がいかに大きなものかと、思い至ります。

ところで、
放哉の追い付いた風は本物の風だったのでしょうか。
漂泊の生活に身を投じた放哉ですから、そこで出会う「本物の風」も似合いますし、文芸的に意味の転用をして「風のような何か」だったようにも思えます。

個人的には、「今」という瞬間、そこに心がひらいた瞬間を詠ったのでは?
と思っています。


若いころからから時々、この俳句が好きで……という話を人にしてきました。
しかも必ず間違えて、

追いかけて つかまえた 風の中

と話しております。
何度か読み返して覚え直すのですが、必ず間違えたものに変わってしまいます。
間違えて話した方々、申し訳ありません。
しかしこれからも間違えるでしょうね。


初出:2009年9月7日 別ブログにて
加筆修正して引っ越し転載

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