焼き芋の理論を調べてみた
この数年、第4次焼き芋ブームらしい。前に3回もブームあったかな?と思う人もいるだろうが、それもそのはずで、第1次は江戸時代末期、第2次は明治時代、第3次は戦後すぐだったので、普通は知らない笑。
最近、スロークッカーで焼き芋を作っているが、スーパーとかで売ってる焼き芋ほどの美味しさが出ないので、理論を調べてみた(スロークッカーだと「焼い」てはいないが、めんどくさいので焼き芋と呼ぶ)。
どうも、理論では70~80℃くらいで加熱すると美味しくなるはずなんだけど、実際はオーブンやトースターで徐々に加熱し130℃以上で焼いた方が美味しいらしい笑。ただ、ねっとり系の芋ならそこまで高温にしなくて良さそう。
理論
理論によると、芋に起こる化学変化にはいくつかの段階がある。
(1)糊化: デンプンが加熱により糊化デンプンに変化 。
(2)糖化: 糊化デンプンが麦芽糖(マルトース)に変化。酵素(β-アミラーゼ)の作用による。
(3)好みにより、糖のカラメル化( 麦芽糖では180℃ ): 香りが強くなる
糊化温度や糖化温度は、さつまいもの品種や個体によって異なる。
段階(1)のデンプンの糊化は高温になるほど進む。近年流行っているねっとり系・しっとり系では比較的低い温度から糊化が始まるらしい。
段階(2)に関わる酵素のβ-アミラーゼだが、70℃くらいから活性化し始め、85℃付近で「失活」するとされている。高温での失活というのは酵素の構造が不可逆的に壊れてしまうことのようだ。
つまり、糊化のために高温にしたいが、高温すぎると酵素が壊れて次の糖化ができなくなる、だから70~80℃くらいの加熱が良い、というのが理論のようだ。
「甘藷の加熱調理に関する研究(第 1 報)生成糖とβ-アミラーゼ活性」によると、140℃で焙焼しても芋の中心部は80℃程度までしか上がらないそうだ。それならば上記の理論と辻褄は合っている。温度が上がりすぎないのは、蒸発熱による温度の低下のせいだろうか。蒸した場合は中心部でも100℃になると書いてある(芋から水が蒸発しないからか)。しかし、80℃にしか上がらないというのは本当なんだろうか。低すぎる気がするが。
考察
スロークッカーで焼き芋を作った経験からすると、この理論には違和感を感じる。アイリスオーヤマのスロークッカーに芋を入れてスイッチを入れ、「弱」だと75℃超、「強」だと80℃超になる(中の空気も芋もだいたい同じ温度になる)が、温度が足りない印象を受ける。なぜなら、アルミホイルで落とし蓋をして少し温度を上げた方がおいしくなるようだからだ。
また、30分くらい蒸した芋(おそらく100℃くらい?)をスロークッカーで温めると甘くなるし、炊飯器でも焼き芋をおいしく作れる(それも100℃くらいだろう)らしいので、100℃でも酵素は失活してないのではないだろうか。
上記の論文ではβ-アミラーゼの活性も測定していて、高温で長時間加熱するにつれて、確かに、測定された活性は減少していく。ただ、活性の測定はかなり複雑(試料を潰したり、一定温度にして待ったり)で、その過程に何か問題がある可能性は無いだろうか。
僕が関係あるかもと思っているのは、ペクチンの硬化という現象。一般的に、野菜を煮るときに、ゆっくり加熱するとペクチンが70℃付近で硬化し、軟化しにくくなるため、煮崩れを防ぐ(逆に、柔らかくしたい場合は最初からお湯からで煮ると良い)。焼き芋でよく言われるのは、ゆっくり加熱するとおいしくなることだが、糊化するだけなら「ゆっくり」の必要は無いはずで、ゆっくりが良い理由はペクチンの硬化がプラスの効果を与えることではないか、という推論。
逆にペクチンの硬化が焼き芋をまずくすると言っている人はネット検索すると結構出てくるけど、科学的根拠は無さそう。というのは、結局その人たちも徐々に加熱する方法を選んでいるから。ペクチンの硬化を避けるには一気に加熱するべきで、理論的に矛盾している。
具体的にどう関係してるのかと言われると、よくわからない笑。素人なりに考えてみたが、こんなのはどうだろう。細胞壁に含まれるペクチンが硬化し、β-アミラーゼを保護する。酵素活性の測定のすりつぶす段階で細胞が壊れると、その保護されたβ-アミラーゼは活性を失う。だから測定値は低く出る。など。
あるいは、ペクチンとは関係なく、こんなのはどうだろう。 デンプンが糊化するときに吸熱するから、そのデンプンの近くにいるβ-アミラーゼは温度が上がりすぎず、失活しない。酵素活性の測定の過程で澱粉が老化し、そのβ-アミラーゼは老化に巻き込まて壊れてしまい活性を失う。それで測定値は低く出る。など。
雑記
焼く前に寝かせると甘くなるというのはよく言われているようだ。また、下準備として、焼く前に塩水に漬けておくのも良さそう。
さつまいもはあまり農薬を使わなくても育つ様なので、皮ごと食べて良さそう。ただ、表面に発色剤が付いている場合があるので、焼く前に、こすり洗いするのが良いらしい。
水分が抜けるから甘くなる、と言っている人もいる。糖化が進んだ後の最終段階ではそうかもしれない。でも、僕の経験によると、早い段階で比較的低温で長時間加熱すると、水分が抜けることでパサパサになってしまう。
β-アミラーゼの作用ではなく、単に熱でデンプンが分解されている(熱水糖化というのか)ならば、加熱とともに分子量の小さい糖が増えていくはずなので、マルトースが多くなるという焼き芋の特徴を説明できない。
55℃くらいで予備加熱すると甘くなるという論文を見つけて、検証しようとしたが、大失敗してしまった。後日再検証予定。
オーブンで焼く場合、外側から中心に向けて温度勾配があるが、それはおいしさと何か関係はあるだろうか。
さつまいもとじゃがいもは親戚ではなく、他人の空似のようなものらしい。さつまいもの芽には毒はない。じゃがいもはナスやトマトの親戚。
まとめ
結局、理論や、ネット上や自分の体験談をまとめると、こんな感じか。
(1)時間に余裕があれば塩水に漬ける(一晩とか)。
(2)徐々に加熱して、できれば130℃程度以上の温度にさらす(できるだけ多く糊化し、そしてある程度糖化するため)。
(3)徐々に冷ますか、ある程度の温度(75~80℃くらい?)でキープ(糖化)。
(4)好みにより、さらに焼く。
但し、ねっとり系は、もっと低温のスロークッカー等でも糊化でき、甘くなることが期待される。僕はオーブンもトースターも炊飯器も持ってないのでスロークッカーで調理するが、データをしばらく集めてから他の記事を書こうと思う。スロークッカーには放置できるというメリットはある。
参考にしたサイト、論文
Google検索で比較的上位にくるサイトや論文しか見てないのだが、僕が参考にしたのは主に以下のもの。
「【究極の焼き芋】甘味成分を最大化する「6時間焼き」の方法を調査してみた【理系メシ】」 ここに一般的な理論が詳しく書いてある。3段階6時間を使ってすごくおいしそうな焼き芋ができている。ただ、目標にしているお店「焼き芋pukupuku」では焼く時間が3時間程度のようなので、違う方法を使っているのだろう。
「さつまいもは低温調理で美味しくなるのか?という実験をしてみた 」は、ホクホク系の宮崎紅を使っての実験で、いろいろ比較してみたが、結局低温調理よりもトースターの方が美味しかったという報告。
「焼き芋はどこまで甘くなるのか?」ではその逆の結果が出ているのだが、200℃での加熱が高温すぎるか急激すぎるのではないだろうか。
「嘘じゃなかった!塩水に浸けるだけで、とっても美味しい焼き芋ができる♪」塩水に一晩浸たし、160度で90分オーブンレンジで焼いた後、放置し、手に持てる温度になるまで待ったら蜜が出てきたという報告。
「甘藷の加熱糖化に及ぼす各種添加物の影響」加熱中に調味料が糊化や糖化を阻害する。
加熱前の塩水は良いが、加熱中は駄目だっていうのが不思議。
「石焼き芋が甘くなる原因の探究」 平成29年だから、かなり最近の、高校生の研究らしい。加熱の温度は80℃より130℃の方が甘くなったという彼らの先行研究があるようで、参考になった。この実験はβ-アミラーゼの作用を阻害しても変化が少なかったというものだが、阻害が充分じゃなかったという可能性は無いだろうか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?