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「磯焼け対策ってどのくらい進んでいるの?」  ISOPが2020年度に達成できた海の取り組み。

いま、海ではウニによる食害が原因で、海藻が長期的に衰退・消失する「磯焼け」が発生しています。このままでは、魚のすみかが失われ、海藻だけでなく魚もいなくなってしまいます。 

消えかけている海の森を維持・回復させ、豊かな海を次世代に残すために立ち上がったのがISOP(=Ishinomaki Save the Ocean Project)です。2020年4月から始まったこのプロジェクトでは、以下の3つの軸を持って活動してきました。

①海藻を増やす
②磯焼け対策をビジネスとして成立させる
③地域を巻き込む

立ち上げから1年が経過したいま、ISOPはどんな結果を生んだのか。そして、初年度の反省を踏まえ、これからどんなことに取り組んでいくのかを解説していきます。

1年目のISOPの実績

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※1:海面下にある海の森のこと。海藻が集まって形成している。魚の産卵から水中の有機物の分解まで、水生生物の生活をささえている。

ISOPの1年間の実績を簡単にまとめてみました。しかし、これだけでは「たくさんウニを獲ったんだね」という事実しか伝わりませんよね。ここから、ISOPにおける3つの活動の軸ごとに振り返っていくことで、ISOPの効果と課題に迫りたいと思います。

思い通りにはならない海とともに。

①海藻を増やす
ISOPの活動の1つ目の軸は、磯焼けを食い止めるために直接的な効果をもたらす、海藻を増やす活動です。多様な海の生態系を守るため、魚の住処となる海藻の存在は必要不可欠。

その取り組みとして私たちが行なっているのは、ウニ駆除と海中造林の2つ。それらの取り組みをあわせて藻場の保全と呼び、モニタリングによって経過観察を行っています。海藻を食べてしまうウニを駆除することで、海藻とウニのバランスを調整しています。初年度には、計13haの広さの海域(東京ドーム約2.8個分)で、約18,000個(計2,700kg)のウニを駆除しました。

ウニを駆除したことによって、海藻が増えた地点もあります。しかし、海藻の寿命による自然減少で、海藻の量に直接変化が見られない地点があったり、藻場の減少が見られる海域もあったりと、一概に「ウニの駆除によって、海藻が増えた」と断言することはできません。

ウニを駆除したからと言って、すぐに海藻が増えるわけではありません。効果を測定するためにも、今後もウニの除去活動が必要になると考えられます。

海藻を増やすもう一つの取り組みが海中造林。こちらは、明らかにいい影響をもたらしています。海中造林は、例えるなら「海の植林活動」のようなもの。図のような海藻(昆布)がついた筏を海中に設置します。

海中造林

▲図のように、重りと浮きの間にロープを張ったものを筏(いかだ)と呼ぶ。筏につけて海に沈めた昆布やアラメなどの海藻が成長していく。

どんどんと成長した海藻は、やがてウニやアワビの餌となります。成長後の昆布の総量は約900kgでした。筏を設置した場所で獲れるウニの身入りを調べたところ、設置前後で身入りが良くなったウニが多数確認されました。

海中造林の恩恵を受けたのは、ウニだけではありません。筏がクロソイやメバルなどの稚魚のすみかともなり、それを狙ったと思われるスズキやヒラメなどの大型魚類も姿を見せていました。

海中造林は、人工的に海藻を増やすだけでなく、海の生き物たちが住み着く環境も作っているのです。

②磯焼け対策をビジネスとして成立させる

活動を持続させていくためには、経済的な面についても考えなければなりません。活動自体をビジネスとして成立させ、収益を上げることが必要です。ただ、ISOPのビジネス化には苦戦しているのが現状です。その原因は、ビジネス化の核として初年度取り組んできた「ウニの陸上養殖(蓄養)と販売」の実現が難しいことにあります。

陸上養殖とは、海中から身入りの悪いウニを獲ってきて、陸上で育てる方法です。身入りが悪かったり、漁師が減ったことで獲れていなかったウニが、陸上養殖を通して販売できるようになります。市場に出荷までできれば、磯焼け対策と漁師の経済活動を両立できるわけです。

ISOPでは3回の蓄養実験を行いましたが、ウニの特徴をうまく掴むことができず、うまくいきませんでした。陸上養殖したウニの身入りにばらつきがあり、市場への出荷や販売は難しいという判断に至りました。

陸上養殖がうまくいかなかった原因として、海とは異なる環境にうつされたことにより、ウニに余計なストレスが加わったことが考えられています。

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③地域を巻き込む

活動が続いていくためには、誰か一人が頑張るのではなく、地域一丸となって主体的に海に関わることが必要です。

そこでISOPでは、地域の漁師を磯焼け対策のためのダイバーとして育成してきました。外部のダイバーに潜ってもらうのではなく、地域の漁師自ら海に潜ることのメリットは二つあります。一つは、海の資源状況を自分たちで把握することができること。結果として、漁師が磯焼け対策の必要性を感じ、活動を続けていくことにつながります。もう一つは、ウニやアワビなどの磯根資源を自分たちで獲れるようになること。漁師の収入増加につながります。

初年度には、4人のダイバーが誕生しています。みんな20〜30代の若い人たちばかりです。

さらにISOPでは、活動をよりよく知ってもらうために、子供体験活動と映像の制作を行いました。映像があることで、海のことをあまり知らない人にもISOPの活動を理解してもらえるようになりました。

子供体験についてはこちらを参照。


ビジネス化に苦戦したISOP、2年目の挑戦。

1年目の活動を振り返ると、海藻を増やす取り組みは比較的順調ですが、この活動を続けるために不可欠な"磯焼け対策をビジネス化すること"には苦戦していると言えます。

以上を踏まえ、2年目にあたる今年度は、次のことに注力していきます。

①ビジネス化への挑戦

これからもISOPはビジネス化への挑戦を続けていきます。ISOPは現在、国や県、市と協力した水産多面的機能発揮対策事業(※2)として行われていますが、この事業からの助成金が尽きてもISOPをビジネスとして継続できるようにするためです。

※2:漁業者などが行なってきた多面的機能(国民に安全で新鮮な水産物を安定的に提供する、国民の生命・財産の保全、保険休養、交流、教育の場の提供など)の発揮に資する地域の取り組みを支援することで、水産業の再生・漁村の活性化を図るための対策

昨年の陸上養殖の反省を活かし、水質や水量、餌を変更して、宮城大学と連携した実験を開始します。宮城大学と田代島に水槽を設置し、海藻や海藻の残渣(※3)を餌としながら、ウニを蓄養します。この実験が成功すれば、駆除したウニを身入りのいい状態で販売できるようになり、収益化が近づきます。まずは、宮城大学、田代島でそれぞれウニを1,000個ずつ。1年の間に3回実施する予定なので、約6,000個の蓄養に挑戦します。

※3:養殖された海藻の食品として利用されない部分。

ISOP_残渣

▲使用する海藻。これをウニが食べて大きくなる。

他にも、海中でのウニの蓄養も試験的に行います。海中蓄養とは、陸上でウニが死んでしまうなら、いっそ海の中で蓄養してしまおうという試み。身入りの悪いウニを、海藻が繁茂している海域に移植し、身入りが良くなってから獲るわけです。

ここで心配なのが、移植したウニが磯焼けを引き起こさないかどうか。そのために、ISOPでは、

①移植先の場所として、ウニが移動しにくいように砂と岩に囲まれた場所を選ぶ
②海中造林による人工的な海藻や養殖した海藻の残渣で、天然の海藻を守る
③県の指導のもと、海藻への影響が少ないとされる、1㎡あたりのウニの数が1〜2個となるように徹底した密度管理を行う

という工夫を施します。海中造林や密度管理を行うことで天然の海藻を守りながら、自然環境を利用した擬似的な蓄養施設を海の中につくりだします。大学連携と海中蓄養の二本立てで、磯焼け対策のビジネス化を目指します。

②磯焼けが進む地域で海藻を増やす

初年度に引き続き、ウニ駆除と海中造林を行います。特に今年強化するのが海中造林。ビジネス化のところでも書きましたが、海中造林によって設置された海藻は、ウニの餌となるため、天然の海藻を守ることにつながります。また、海藻が種を出すことによって、天然の岩盤に付着して海藻が増えることも期待されます。

1年目に設置した海藻の育成筏は1基だけでしたが、海藻の周りには魚が住み着くなど、海藻が育つ以上の効果を得ることができました。今年はその数を増やし、4基設置することを計画しています。

一方、ウニ駆除は、効果がすぐに現れるわけではありません。初年度でウニを駆除したにも関わらず、藻場が減ってしまった場所もあります。これには寿命や海洋環境の影響も考えられます。かと言って、放置すれば、磯焼けが深刻化してしまう。ウニ駆除と海中造林を通して、磯焼けを食い止め、藻場の増加を図りたいところです。

まとめ

海中造林によって生態系保全にも貢献したISOP。しかし、磯焼け対策は決して一筋縄ではいきません。ビジネス化し、持続可能な活動にするための「ウニの蓄養」については試行錯誤を重ねる必要があります。

しかし、この磯焼け対策のビジネス化がうまく実現すれば、漁師が自分たちで海を守るための1つの方法として、確立することができるはず。全国の漁師にとって、資源管理と経済を両立させる、大きな可能性を秘めているのです。

ISOPのホームページでは、今後も情報を発信していきます。あなたの海への興味・関心が海の未来を守ることにつながるかもしれません。

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