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相手は地球。だから焦らずじっくりと。磯焼けに挑み続けるISOPの取り組みとは?【私とISOP①】

突然ですが、絵本に出てくるような海を想像してみてください。

ゆらゆら揺れるワカメや昆布。群れで泳ぐ小魚たち。カラフルな色で溢れている海の中。

実はいま、そんな海が見られる場所がどんどん少なくなっていることを知っていますか?。その原因の一つが「磯焼け」という現象です。

磯焼けとは、何らかの原因で海藻が減り、生えなくなってしまう現象のこと。海が磯焼けを起こすと、魚のすみかや産卵場所もなくなり、魚までいなくなってしまうのです。

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そんな磯焼けを食い止め、海藻を回復させるべく、Ishinomaki Save the Ocean Project(以下、ISOP)が始動しました。

この事業に参画しているメンバーのうちの1人が、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン(以下、FJ)の長谷川琢也さん。彼は普段、漁師になりたい若者たちを増やし、応援するための担い手育成事業などを中心に活動し、漁業の未来を考え続けています。

そんな長谷川さんに、ISOPの取り組みについてインタビュー。立ち上げメンバーがISOPについて語る企画『私とISOP』の第1弾です。長谷川さんに「なんでISOPを始めたの?」といった率直な疑問をぶつけてみました。

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長谷川琢也(はせがわ たくや)
一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン事務局長
ヤフー株式会社 SR推進統括本部 CSR推進室 東北共創
漁業を「カッコよくて、稼げて、革新的」な新3K産業に変え、漁師の後継者を育成するため、地域や職種を超えた漁師集団フィッシャーマン・ジャパンを設立。漁師団体の活動を通じて、日本の海が抱える多くの課題を知る。2018年10月、ヤフーが持つ力を日本の海の課題解決に活かすために、海から、魚からハッピーをつくるWEBメディアGyoppy!を立ち上げる。

ISOPは海を守り、「ウニと人を育てる」プロジェクト

ーーそもそも、磯焼け対策って何なんですか?

長谷川さん:そうですね。ではまず「磯焼け」のことから説明しましょうか。磯焼けというのは、簡単にいうと何らかの原因で海藻が減り、海藻が生い茂っている海の森(藻場)が消えてしまう現象のことです。海が磯焼けを起こすと、魚のすみかや産卵場所もなくなり、魚もいなくなってしまいます。

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ーー本当だ、何も生えてない。

長谷川さん:石巻での磯焼けの原因の一つはウニだとされています。ウニが、海藻を食べ尽くしてしまっているんです。

ーーどうすれば磯焼けを食い止められるんですか?

長谷川さん:ISOPでは磯焼けを食い止め、消えてしまった藻場を再生するために、
①ウニを駆除する
②駆除した場所に海藻を植える
ということを行っています。でも、これだけで終わりにはしたくなくて。

ーーまだ続きがあるんですか?

長谷川さん:ふつう、磯焼け対策では、プロのダイバーを雇ってウニを駆除してもらうことが多いんです。でもISOPでは、
③漁師をダイバーとして育てる
④駆除したウニをほかの場所で育てて売り物にする
ということもやっているんです。

ーーええ、漁師をダイバーとして育てる!? なぜですか?

長谷川さん:海の中で起きている問題に漁師自身で気づいてほしいんです。そして、ちゃんと海の課題に対して行動できる漁師に育ってほしい。駆除したウニを売り物にできれば、漁師の副収入にもつながります。駆除したウニは餌を十分に食べていないため、痩せていて売り物になりません。今、ISOPでは、クローバーを餌にしてウニを太らせる研究も行っています。ボランティアではなくビジネスとしてきちんと成立させ、利益を出しながら海の森を守る仕組みを石巻で作れたらと思っています。

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ーー漁師の収入が増えることで、漁師になりたい人が増えるかもしれない。FJが行なっている担い手育成事業にもつながってきそうですね。

長谷川さん:そうなんです。ほかにも、ISOPでは子ども漁業体験を実施することで、その活動を広く地域の人に知ってもらうようにしています。地域の人たちを巻き込むことで「みんなで地域の海を守っていこう」という意識を育てながら、ビジネスを回すことで、地域経済に循環を生み出せたらと考えています。

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ーーこれはほかの地域でも取り組んでいることなんでしょうか?

長谷川さん:磯焼けは全国で起きている問題ですから、磯焼け対策をやっている地域は多いと思います。でも全ての地域がビジネス・人づくりにつなげているかといえば、そうではありません。これをビジネス・人づくりにつなげ、情報発信にも力を入れていることがISOPの強みだと思います。

潜って感じた磯焼けの怖さ

ーーそもそも、どうしてISOPを始めることにしたんですか?

長谷川さん:FJは漁業の未来のために、漁師になる後継者を育て、増やしていく担い手育成の活動をしています。でも漁師って、結局は海から何かをとってくるわけなんですよ。だから、海の中にとるものがなくなってしまったら、いくら漁師が増えても漁業に未来はない。そう考えると、これからは海の中を見ないとやばいぞって思って。

ーーなるほど。

長谷川さん:それで実際に海の中を覗いてみたんです。もちろん磯焼けが進んでいることは知っていたんですけど、自分の目で見なきゃって思って、潜水士の資格をとりました。

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ーーええ!? 資格までとっちゃったんですか。

長谷川さん:うん、やっぱり興味があることに対しては自分から動かなきゃと思って。それで石巻の海に潜ってみると、海の中が、砂漠みたいになっていたんです。海の中って暗くて、海藻も何も生えていないところだと本当に怖い。勝手に頭の中で怖いBGMが流れてきちゃう。でも、海藻が生えているところに行くと全然違います。日が射してて、小さな気泡がコポコポ出たりしてて。じっと目を凝らしてみると小さな魚たちも動いてる。頭の中のBGMも、明るい音楽に切り替わるんです。

ーー真っ暗で何もない海って相当怖いですよね。

長谷川さん:そうなんです。あの暗い世界からは、きっと何も生まれてこない。魚もとれなくなって、漁師は生活できないだろうし、漁村自体も成り立たなくなる。そして今、海藻が生えているところも、このままだといつか何もない世界になってるのかなと思うと、何とかしなきゃ、できることから始めなきゃって思ってたんです。

磯には可能性がある。磯こそ守るべきもの

ーー海の中をリアルに感じたことが、ISOPの強い原動力になっているんですね。

長谷川さん:そうですね。あとは海の森がある「磯」そのものに二つの可能性を感じていたこともあります。一つは多様性としての可能性で。磯って、海と陸の境界じゃないですか。そういう境界って、陸からたくさんの栄養が流れ込むので、いろいろな生き物がいるんです。でも人間がコンクリートで固めることで、この境界を消してしまった。せっかくの多様性が失われてしまったんです。だからこれからは海の豊かさ、多様性の起点となっているところを大事にしたいって思ったんです。

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ーー干潟とか湿地とかも同じですよね。もう一つ、磯に可能性が?

長谷川さん:磯は、漁師にとっては稼ぐ可能性となるんです。私自身、担い手育成事業の関係で各地の漁村に行くことも多くて。儲かってる地域の漁師ってウニとかアワビの磯根資源(※)で稼いでるんです。磯根資源を取るのに、大きな船とか機械はいらないのでコストがかかりません。だから利益率が高くなります。

※磯根資源=磯に根付いて生活する魚類・貝類・藻類等の総称。

ーーアワビとかウニって高級食材のイメージがあります。

長谷川さん:そうそう。もし磯根資源を増やすことができたら、漁師の収入アップにつながる。ISOPに取り組む意図として、漁師の副業になる仕事を創り出せればという思いもあります。

相手は地球。だから焦らずじっくりと

ーーこれからISOPはどんなことに挑戦していくのでしょうか。

長谷川さん:ISOPをビジネスとして成立させ、それを発信していくことでも十分なのですが、それだけで満足せず、ブルーカーボンとも掛け合わせたいと思っています。

ーーブルーカーボンって何ですか?

長谷川さん:海の中に生えている海藻も、陸の上の木と同じように二酸化炭素を吸収しているんです。海藻が増えれば、それだけ階層に吸収される二酸化炭素の量(=ブルーカーボン)増えることになります。

ーーじゃあ、ISOPが成功すれば、温暖化も防ぐ可能性があるんですね。

長谷川さん:その通り。でも正直、海藻を回復させるというハードルは高いんです。本当に藻場を再生しようと思ったら、人間が滅びて、コンクリートを全部失くした方がいいとなってしまう。でもそれは無理です。じゃあ藻場再生のための取り組みをやらなくていいかといえばそれも違う。だから人間の経済活動と環境の折り合いをうまくつけることで、海や漁村を少しでもよくしていきたいと思っています。
ISOPでできることは決して大きくありません。しかしやり続けなくてはいけないことです。相手は地球。だから焦らずじっくりとISOPを進めていきたいですね。

まとめ

「正直、海藻を回復させるというハードルは高い」と言いながらも、ISOPに真剣に取り組む長谷川さん。

海を磯焼けから守ることの難しさを知っているからこそ、ISOPは、磯焼け対策事業をビジネス・人づくりにつなげ、情報発信にも力を入れています。それは、この事業がきちんと続いていくため。

人間の経済活動を否定することなく、未知なことが多い地球に対して働きかけ続ける。これこそが、地球に対する人間の正しい向き合い方なのかもしれません。


ISOPのホームページでは、今後も情報を発信していきます。
あなたの海への興味・関心が、海の未来を守ることに繋がるかもしれません。


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