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黒い旗(5)

詩はひとひらの紙に書かれ、村で町角で汽車の中で、生きた瞳を求める人たちの手へ、次々と渡されていいのではないか。幽霊のように流れるマス・コミュニケーション。そのなまあたたかい暴力の餌食にどの人々の心を渡してよいのか。ユマニテは曇らされ知性は侮辱され、不合理への転換のために足許から断崖が切り落とされようとしている現在、虚作に浮身をやつし、虚飾の砦に身を装う怠惰をどの詩人の良心が許しているのか。詩は今や伝単に切られ、人間の中心に向かって投げつけられる時が来た。詩人よ、ちまたにゆけ。君は街角に立ち其処そこで君の詩を人々に投げかける勇気を持て。君における読者の選り好みを自ら覆して、民衆の渦の中心に正しい詩の火を焚け。静かに焚け。歴史は厳粛な審判を用意している。

      (注)「ユマニテ」は「ヒューマニティー」
         「伝単」は「宣伝ビラ」のことです。
       詩誌『駱駝』18号(1952年6月)

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今はあっという間にスマホから世界へ言葉や画像、動画まで飛んでいきます。その中から50年100年後も人の心を揺さぶるのはどんなものなのでしょう。

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