雨 季
なが雨が毎日降りつづいておる
街は その底で
だらだらとよだれして踞まっておる
重いしずくを傘に支えて
纏足をうけた日本人が
死にかけたどぶ鼠のようによろよろと
路地を抜け 路地に消える
背中にへばりついておるのは
みじんに碎けた希望である
それが たとえば 宵灯りに
蛾紋のようにきらめくのを
いのちの光と 誰が 見るか
なが雨が降る その雨につれて
短夜も 深みにすべり落ちる
雨だれを遠く聞きながら
大人たちは腐った魚の眼ん玉を
せっせと顔に縫いつけておる
詩誌『駱駝』33号(1954年7月)
戦後詩人全集(1954年12月*書肆ユリイカ)
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