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黒は黒

天蓋の、黒。
底無し大地の黒。

天地間びっしり。
渦巻き、逆巻く、瞳、の、黒。

横なぐりの風も、黒。
ふりそそぐ雨の矢も黒。

太郎の心も、
次郎の心も、
女の吐息も蒸れた黒。
しめった黒。
止んだ黒。
閉ざされた黒 ────。

仰いで、みつめて、振り返って、
ぐるりみな、黒。
列島、漆黒。
打ちよせる浪がしらの、白。
飛び散る泡沫の、零。

東京湾。その浪々のひだ
ああ、日本の子宮も、闇も、
異精子を拒む絶対の黒。

太郎よ、眼を拭け。
次郎よ、座を立て。
春の小雨の共同墓地から、
墓石を蹴って、けむる巷へ、
骨のポールに旗ひらめかせて、
ぎらぎらの燐、しづかに灯して、
唖なら唖の黒でいこうぞ。
火の山なみの底の流れの、
どろどろ熔岩の黒でいこうぞ。

     詩誌『駱駝』16号(1952年4月)

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