見出し画像

歩くにんげんの歌

おそれなさるな おそれなさるな
おそれてまなこを閉じなさるな
取って食うのが鬼ならば
鬼はまなこを閉じた時来る

おそれなさるな 道の半ばで
傷ついた鳩を抱いているなら
鳩を射かけた籔かげのかたへ
まなこをみひらき歩むのがにんげん

道の半ばで 行手も暗くて
心がちぢむというのならば
ちぢむ心の真ん中に坐って
あかいあかりをともすのがにんげん

おそれなさるな おそれなさるな
国中が荒れて籔だらけで
鬼がうろつくということであるなら
鬼の正体をみとどけるのがにんげん

おう 吹きつのる風の中で
黒いまなこを閉じなさるな
火薬はパン粉ではないことを
いちずに守って歩むのがにんげん

おう 吹きまくる嵐の中で
まなこをみひらき歩むのがにんげん
傷ついた鳩の傷を癒して
青いみ空へ放つのがにんげん

     詩誌『駱駝』27号(1953年7月)
     戦後詩人全集(1954年12月*書肆ユリイカ)収録

----------
『戦後詩人全集』全5巻のうち、第4巻には6名の詩人が組まれています。
礒永秀雄の作品は見出し画像のように15篇入っています。『戦後詩人全集』へ掲載にあたって、初出の『駱駝』版からかなり推敲されています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?