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狼は 藁屋根の下に棲む
柱の林の中に
かまどの穴に
客間の床の丘に
また嫁たちの涙の谷に
畳の埃を吸っては生き 
人の胸倉の肉を食っては太る
夜中に目をさますと
家族の誰彼の寝息が
みんな狼のあえぎに聞こえたりして慄然りつぜんとする
乳呑子さえも
時おり狼に姿を変えて
吼え立てながら
母親の肉を食い荒らす
家じゅうの
空間という空間はびっしり
らんらんと 飢えた狼の眼にみち
日本の藁屋根の下
狼のいる花園は
一年中
ひさめとつゆに明け暮れている

          詩誌『駱駝』30号(1954年2月)



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