BBQできなくてもリア充ぶっていいですか【短編小説】
「コロナが終わったら、みんなでBBQでもしたいね」
会社の同期入社のLINEグループ。
イケてる営業女子の書き込みに、一斉に「いいね」「わーい」「楽しみ」というスタンプが押されていく。
BBQ。はいはい、BBQ。
「コロナ終わらなければ良いのに」
ブブッと小刻みに震えては着信を告げるスマホをベッドに放り投げて、つぶやいてしまう。
不謹慎ながら。
同期入社は15人。
営業8人、事業部6人、総務部1人。男女比2:1。女子だけの人数でいうと、営業2人、事業部2人、総務部1人。それがコロナ禍と言われる2020年の4月入社のメンバーだ。
私は事業部に配属された女子のうちの1人。
似合わないリクルートスーツと黒髪。見た目は多分イケてない。
就活サイトに登録して条件にあった会社を適当に選んでエントリーシートを送り、適当に何社か落ちながら、適当なこの会社に就職した。
内定式は1月ごろにあって、そこでイケてる営業女子(彼女は髪も茶色くスーツはライトグレー、アクセサリーもつけていた)が「ウチらのLINEグループを作ろう」と言ってできたのが冒頭のLINEグループだった。
そして、4月。コロナ禍の影響で入社式はなくなり、自宅待機になった。先輩社員からのリモート研修があるとはいえ、会社の雰囲気を知るのはこの新卒同士のLINEグループだけが頼りだった。
その中では私はそこそこ陽キャな振る舞いをしていた。
いつも最初に話を切り出すのは営業女子だったが、面白スタンプで話題を盛り上げたり、ちょっと話に置いてかれている人に話題を振ったりし、たまにはイケてる女子にツッコミを入れたりしていたら、いつしか「姐さん」と呼ばれるようになった。
悪くない気分だった。
でも、それはLINEのやりとりだからできること。実際に会ったら声の小さい私がこんなに同期と賑やかにやりとりできるわけがない。
だからそもそも出社するのもなんとなく億劫に感じていたのに、追い討ちをかけるようなBBQのお誘いだ。
世の中の不思議だ。なぜ陽キャな人たちはBBQしたがるのか。
何が面白いのかわからない。
外で、焼いた肉や野菜を、焼肉のタレに浸して食べるだけだ。
準備から後片付けまで自力でやらなければならない、セルフサービスの焼肉だ。
本場アメリカのBBQは日本人がやってるようなものとは違って、大人の頭ほどの塊肉を一晩BBQソースに漬け込んだものをじっくり1日かけて焼くものを言うらしい。
それならみんなで集まってやるのもわかるが、日本の焼肉もどきのBBQはコロナ禍が終わって初めて出会う同期同士で行うのにふさわしいイベントとは到底思えない。
いや、 BBQについて悪態をついてきたけど、本当のところBBQの中で、私はどう振る舞えば良いのかわからないから行きたくないのだ。
野菜を切ったり食材の用意をしたりするのができるとは思えない。
片付けだってやれと言われればできるけど率先して嫌味にならないように出来るほど器用じゃない。
お酒はあんまり得意じゃないし、酒を飲んで騒いでる人を見るのも好きじゃない。
音楽がズムチャカしてるのは不愉快だし、日焼けだってしたくない。
俺に任せろとばかりに火の番をする男子、それをほめそやす女子。
ちょっと良い一眼レフのカメラを構えてみんなの写真を撮るやつ、スマホの盛れるアプリで自撮りしてインスタに#最高の仲間#みんなでBBQ#お肉おいしいとアップするやつ。
想像できるBBQの中に私の居場所はない。
私の居場所はLINEグループの中にしかないのに。
営業女子の呼びかけに反応したのは10人だった。私も含めてあと4人、返事をしていない。
よかった、全員が全員BBQに賛成うぇーいな人たちじゃなかった。
ほっとしたのも束の間、営業女子が「じゃあ緊急事態宣言も解除されたし、スケジュール決めよっか」と、LINEグループで日程調整機能を
は?
いやいやいやいや。それは流石にないでしょ。
まだ自粛ムードは続いてるし、どこでクラスター発生してもおかしくないし。
どうやら流石に同意見が多かったようで、そこでLINEの流れが止まった。
でも、その沈黙が「姐さんはどう思う?」と聞いているように思えてならなかった。
私が言うところなんだろうか。
お腹がいたくなってくる。
たしかにこのグループの中でいつの間にか私はご意見番のような位置にいた。
そして、その位置の人間が営業女子のBBQの呼びかけにまだ答えてない…既読無視をしているのは明らかに「不自然」だった。
逆に考えると「今しかない」。
やめようよと言うタイミングは。
せめて精一杯かわいいスタンプを探そうと思ったが、ものすごい顔つきで親指を下にしているスタンプしか見つからない。
焦る。
私はBBQが嫌い。
BBQが嫌いだけど、せめてここでは陽キャでいたい。
BBQは嫌いだけど陽キャぶってもいいですか。
陽キャはなんて言ってBBQやめさせるんですか。
そんな時にスマホ画面の上部にLINEニュースから「東京で3桁を超える感染者。5/2日ぶり」と出てきた。
これだ。これしかない。
そのニュースをコピペして、LINEグループに貼り付ける。
「第二波来るかも。BBQはまだ早いかな」
「うんうん」「たしかに」のスタンプがさっきと同じ速度で連なっていく。
かくして私の「姐さん」の位置付けは今日もなんとか守られたようだった。
それがいいのか悪いのか、正直まだよくわからない。まだ早いなんて粋がってるけど、本当は一生行きたくない。
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