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Creepypasta私家訳『公園の古い橋』(原題“The Old Bridge in the Park”)


作品紹介

Creepypastaである「The Old Bridge in the Park」を訳しました。 Creepypasta Wikiでは“Spotlighted Pastas”や“Pasta of the Month”に指定されています。

翻訳が上手くないため、堅苦しく読みにくい文章になっています。アドバイスをください。

原作: The Old Bridge in the Park (Creepypasta Wiki。2022年9月26日取得。oldid=1343558)
原著者: MoistSquelch
翻訳: 閉途 (Tojito)
ライセンス: CC BY-SA 4.0
画像: "Stone Bridge, Bull Run" (Jim Bowen)


公園の古い橋

[検閲]町に住む子供たちは、特に霧のかかった夕刻には、その公園にある古い橋を渡ろうとしなかった。大人でさえも近寄ろうとしなかった。橋を渡ってしまった人間は二度と姿を現わさないと知っていたからだ。その手の話になると、普通、大人はかなり世間知らずだということは誰でも知っている。大人たちは、門を設置し、日没の1時間前になると必ず門を閉じて公園に立ち入れないようにしてまで、誰かが橋を渡ることを防ごうとしていた。大人たちは「これで子供たちを守れる」と誇らしげだった。しかし、子供たちからすれば、こんなことは金の無駄遣いで、誕生日やクリスマスのプレゼントを買うのに使う方が良いと言うのは気が引けた。誰も彼も橋を渡るほど馬鹿ではなかった。だから、門を設置する意味など全くなかった。

残念ながら、エレノアはそうではなかった。むしろ、かなり馬鹿な子だった。

エレノアは隣町で生まれ育った。両親が離婚して父と継母が親権を完全に獲得し、エレノアちゃんはつい最近、[検閲]に引っ越してきた。エレノアは自分は賢すぎて他の子供と仲良くできないだけだと空想していたが、実際は逆だった。エレノアは大人とほぼ同じくらい無知で、どんな些細な事実にでもいつも疑問を抱き、根拠を求めた。エレノアは幽霊や宇宙人を信じていないという噂があった。それどころか、4年生の学級担任であるメイソン先生が地獄出身の人狼と悪魔の混血児であり、魔王サタンのために働いているというまるで議論の余地の無い事実でさえも信じていないというひどい噂もあった。そのため、[検閲]小学校ではエレノアは「パスタ食いパティ」に代わって村のお馬鹿さんとして扱われるようになった。

それでもエレノアはかなりの高慢ちきだった。エレノアが馬鹿げた妄言を言うのを――例えば「下水道に潜んで赤ん坊を食べるピエロみたいなのなんていないよ」というような――他の子たちがどれほど厳しく咎めてもエレノアは考えを変えなかった。皆がエレノアを避け始めたのは間もなくのことだった。エレノアが超自然の存在に対して図々しく無礼な態度をとったものだから、エレノアが危険で不吉な人物になるのを恐れたのだ。最初、エレノアはそれほど心配していないようだった。うぬぼれていたせいで、自分は他の子たちよりもとにかくずぅーっと頭がいいみたいだから、一人でいる方がいいと思い込んでしまっていた。

それでも、取るに足らない人でも寂しくなるもので、他の子たちが公園の古い橋について話しているのを聞いて、エレノアはつい口を挟まずにはいられなかった。

「何言ってんの! 橋が子供を食べるわけないでしょ? ただの石の塊がさ!」

子供たちはエレノアがおかしなことを言うのを何度も聞いてきた。だが、今回はやり過ぎだ。大人たちでさえもあの古い橋がどれほど危険か知っているというのに! 親切な数人と、心配したもっと多くの子供たちが、エレノアを気の毒そうに一瞥して、エレノアは物を知らないことを思い出した。メイソン先生や下水道のピエロのようなものからは生き延びられるだろうが、公園の古い橋は少なくとも百億万パーセント生きて帰れない。子供たちがエレノアを嫌っていたのは確かだが、最悪な女の子であってもそんな悲運に遭ってしまえばいいとは思っていなかった。エレノアは「証拠」や「信頼できる情報源」を要求したが、子供たちはエレノアにそんな話題はやめろとお願いした。子供たちの中には勇壮にも、エレノアが橋を絶対に渡らないと約束さえすれば、自分の誕生日パーティに招待してあげると約束する人までいた。

しかし、頑固なエレノアちゃんは理屈にも賄賂にも耳を貸そうとしなかった。橋は怖くなんてない、9歳の誕生日にもらったお下がりのビデオカメラで証明してやると言い張った。

「今夜、あの古い橋を渡ってみせるよ! あんたたちがどれだけアホか思い知らせてやる!」

何か努力しなければエレノアを自殺行為から止める術は無い。[検閲]の優しく寛大な子供たちはひどく取り乱し、エレノアにとっての最期の日には、頑張ってエレノアに親切にしてあげようとした (学校で一番馬鹿な子供に戻ってしまうのは気乗りしないと思ったパティは例外だったが)。昼ご飯のデザートを盗ったり、休み時間に芋虫を投げつけたりするのはやめにした。

エレノアは子供たちの努力に感謝しなかった。

その夜、エレノアは安全な自宅をこっそりと抜け出し、公園まで自転車で向かい、何とかして門を越えた。この晩は特に霧が濃く、そのせいで思っていたよりも橋に辿り着くまで時間がかかった。見たところ、大人たちが用意した予防策は門だけではなかったようだ。大人たちは周辺の道も変更しており、古い橋へ向かう唯一の道は湿地の森を抜ける曲がりくねった獣道しかなかった。

不気味なまでに静かだった。ホーホー鳴くフクロウもおらず、チーチー鳴くコオロギもいない。道理をわきまえた人であれば、この沈黙は恐ろしい惨劇が訪れる前触れだと気付いただろう。しかし、月の吸血鬼の存在すら否定する女の子はそうではなかった。無謀な自信と懐中電灯だけを武器に、エレノアは自らの死に向かって歩いていった。

例の橋を見つけたときには、10時15分頃になっていた。[検閲]町では最も不吉な時間とよく知られている。明らかにそれは本当だった。そうでなければ、どうして大人たちは自分の部屋に駆け込み、日の出が自分たちの安全を約束するそのときまで眠っていることを望むだろうか。カメラの電源を入れていたとき、エレノアは時間のことを嬉々として無視していたし、その重要性について理解していなかった。エレノアはカメラに上機嫌な笑みを向けて、こんばんはと言った。ほとんど普通の女の子のように振る舞っていたのはそれまでで、そのうちに独りよがりな小言を言い出した。皆がどれほど馬鹿な連中かだとか、自分が正しいと証明されたときに皆がどんな面を晒すか待ち遠しいだとか。それほど自己満足に浸っていたものだから、きっと神様は傲慢を罰して雷を落としてやろうと思っていただろう。けれども、貴重な時間を無駄にしない方が良いと気が変わったようだ。

エレノアは橋の上に足を乗り出そうとしたが、さながらほんの一瞬、エレノアの心を曇らせていた無知が晴れたかのように躊躇した。まだ引き返す時間はある。今ここで怖気づいて逃げ出しても、他の子たちは数週間、エレノアを臆病だとからかい続けるだけで済むに違いない。それに、待ち受けるだろう悍ましい死を避けられる。

苦しい12秒間の思考の後、エレノアは橋の石の上に足を降ろした。エレノアは今すぐに自分が爆発して紙吹雪になったり、さもなければ負傷したりしなかったため、おーと祝福の叫び声を上げて、ひっきりなしにカメラに向かって自慢し始めた。このとき、神様はきっと自身の慈悲深さを反省していただろう。

エレノアは歩き出し、カメラに向かって無駄話をして、自分がいかに賢いか自慢した。だいたい5分ほど自分が正しいとぺちゃぺちゃ喋っていたとき、何かおかしなことに気が付いた。

「……ここ、こんなに長い橋だったっけ」

エレノアは川幅を見誤ったと思い、手すりに身を乗り出してチラリと下を覗いたが、そこには何も見えなかった。

「すごい霧だから、何も見えない……行方不明になった人はたぶんここから落ちたんだ……」

エレノアはどうにか川が見えないかと頑張ったが (川の流れる音さえも聞こえなかった。どれほど耳を綺麗にしたり耳抜きしたりしてもだ)、霧のために川は見えなかった……それでもそこにあるはず、そうだよね? そうして歩き続けたが、一歩一歩進むにつれて、心配が募っていった。この調子では、カメラの電池が切れてしまう。

道理をわきまえた人であれば、踵を返し、レゴブロックを踏んでしまったバンシーのように叫んで逃げ出しただろう。しかし、またエレノアは躊躇した。エレノアはまるで腕時計がモールス信号で「いやいや、何もかも完璧にいつも通りさ、そのまま行こう!」とカチカチ言ってくれているかのように、継母から借りたそれで時間を確認した。

「……これきっと故障している。絶対、全部で30分くらい歩いたはず!」

エレノアはカメラの録画時間を確認しようとしたが、パニックになっただけだった。エレノアはボタンを押していなかった。ここまでずっと完全な狂人であるかのように無に向かって話しかけていたのだった。悪態をつく暇もなく、懐中電灯までもがチカチカと明滅し始めた。これまでの記録を撮り忘れただけでなく、予備の電池さえ家に置き忘れていたのだ!

エレノアは厄介だなと思っていたが、まだ自分がどれほどの厄介事の中にいたか気付いていなかった。このときでさえ、悪くても、道を照らす明かりが無くて家に帰れず道に迷う程度で済むと思っていた。エレノアは肩を落とし、ふくれっ面をしつつ踵を返して道を戻り始めたが、ついに電池が完全に切れた。エレノアは自分は間抜けそのものだと感じつつ、こうして準備もないままに森の中へ入っていった。うぬぼれは猫を殺すとエレノアは思った。もっとも、「殺す」というのは「死なない程度の不便がかかる」という意味で使っていたが。

エレノアはまた明日の夜にやり直せばいいかと思った。3時間経過したように感じていたが、実際は2時間30分程度だった。証拠の無いものへの不信を司る守護聖人エレノアは、継母の腕時計という今は午前1時ほどであることを示す証拠を無視していた。エレノアはもはや自分が抑えられずに駆け出して、小さな脚をできるだけ速く動かして走っていった。川の土手を見たくてたまらなかった。

懐中電灯が消え、エレノアの自信も消え去った。エレノアはできる限り大声で叫び、橋の冷たい石の上に蹲るようにして倒れた。これからどうしたらいいだろうか。引き返しても事態が好転しないのは明らかだ。公園は閉鎖されていたのだから、助けを求める哀れな叫び声を聞いてくれる人が辺りにいるわけもない。だからエレノアは諦めた。叫びながら走り回るよりも、そこにただ座って日が昇るのを待つことにした。きっとこれ以上何をしてもエネルギーの無駄遣いになるだけだろう。

冷やしすぎの冷蔵庫から出してすぐのメープルシロップよりもゆっくりと、数時間が流れていった。エレノアは時間を潰すため思いつけることは何でもやった。掛け算の暗算の練習。エレノアが外出して森の中を一晩中彷徨っていたことが父親にバレたときに何て言うか。どんなことでもやった。この橋から生きて出られないかもしれないと認識すること以外は。エレノアは怪物は怖くなかったが、狼か退屈のせいで死ぬというような俗界なことを恐れていた。少なくともそのうちの1つを防ぐため、エレノアは (このとき初めて) カメラの電源を入れて、別れの挨拶の録画を始めた。せめて、何もかも無事に済んだら、これは削除できるだろうとエレノアは思った。

見計らったかのように周辺視野に入り込んだ光がエレノアの注意を引いた。エレノアはすぐにカメラの電源を切ると立ち上がった。もう日が昇ったの? いや、そんな感じの色ではないし、小さすぎる。あれは何だろう?

「ねえ! 助けて!」

殺虫灯に引き寄せられる蛾のように、エレノアはやっと起き上がって光に向かって突進した。

「助けて!」

「こんばんはぁぁぁ?」

例の光、正確に言えば、明かりを持った老齢の女性が声を返した。

「道に迷ったのかね、お嬢ちゃん?」

エレノアは速度を落として駆け足になり、目の中は安堵の涙でいっぱいになった。世界中を見ても、橋の上で見知らぬ異様な人物に会ってここまで嬉しい気持ちになった子供はいない。

「そうです! ありがとうございます! もう誰にも会えないかと思っていました!」

エレノアには老女には目が無いことも、右腕が金無垢でできているようであることにも気付けなかった。ブラシの毛のような歯が沢山生えていることにも、指の骨が普通よりも2倍も多いようであることにも気付かなかった。もし気が付いていたら、怪物の腕の中にまっすぐ飛び込んで、しっかりと抱きしめる前に足を止めただろう。

「すみません。おうちに連れていってくれませんか」

怪物は驚いていた。これまで何人も子供を食べてきたが、ここまで早く自分に身を任せてきたのは初めてだ。これはエレノアにとって非常に幸運だった。もし、怪物が気を逸らさずにいれば、怪物は顎を外してエレノアを丸呑みにしていただろう。顔を上げて自分が死の危険にあることに気付くチャンスもなかったはずだ。

エレノアは叫び声を上げつつ、怪物から自分を引き離し、自分が見たものが現実か確認すべく振り返ることもなく来た道を戻っていった。懐疑的であろうがなかろうが、エレノアは本物の怪物らしきものに対峙する前に寂しい橋に対峙する覚悟ができていた。老女は気を取り直すと、甲高い笑い声を上げた後、エレノアを追いかけた。

「もう儂の助けは要らないのかい?」

怪物の足は6本あるかのようにパタパタと音を立てた。エレノアは決して運動が得意な子供ではなく、乳児脂肪とあまりに多くクリスマスのデザートを食べたせいでふくよかな体型だった。それでも、半ば死にかけて恐怖するようなことがあるものだから、アドレナリンが体を駆け巡る。

「そんなに走らないでよ、お嬢ちゃん。良いものを食べてからあまりに長かったんだ! 追いつけないよ!」

エレノアは決して人の言うことを聞かなかったが、今回はそれが功を奏した。安全な場所へ辿り着こうと十分な空気を吸おうとして喘ぎ、肺が焼けついた。エレノアは知る由も無かったが、他の子たちが慎重に橋を避けたおかげでエレノアは救われた。怪物が飢えて弱まったおかげで、エレノアは生存のチャンスを得たのだ。

エレノアはあまりに激しく喘いでいたため、下を流れる川のせせらぎの音が聞こえなかった。目が涙で曇っていたため、太陽が昇り、霧が晴れていっていることに気が付かなかった。朝の日差しが橋にまで伸びた瞬間、怪物は悍ましい叫び声を上げて、すぐさま川の方へ駆け下りていった。しかし、エレノアは橋を渡り、森を抜けかけるところまで走り続けた。ついに、エレノアは走るのをやめて歩き出し、肺を休ませた。

エレノアはやってのけた。橋から生きて出られたのだ。

エレノアはハッとしてカメラの方を見て、歓喜で咽び泣きかけた。全部録画できた! 恐ろしい怪物がいて、そいつから逃げ出せた確固たる証拠だ。いやそれよりも、叫んだのは1回だけだから、きっと自分はすごく勇敢に見えるはず。他の子たちは自分がすごいと思ってくれるはず!

涙ながらの喜びが落ち着くと、心配で眉をひそめた。これが本当だとしたら、他もそうなの? メイソン先生は本当に悪魔なの? 下水道のピエロや月の吸血鬼、幽霊の心配もしないといけないの? いや、そんなことはどうでもいい。大事なことは生き延びたということ。今回生き延びれたということは、どんなにヤバいものが出てきたって生き延びられる。エレノアは自信が戻ってきた。エレノアは周囲の世界に対してもはや盲目ではない。今となってはもっと理解できている。知識を良きことのために使うだろう。橋の怪物はどこから来たのだろうか。明らかに日の光に弱く、暗闇の中でしか生きていられない。もしかしたら、やっつけられるかもしれない!

しかし、助けが必要だ。他の子たちは物を知っているが、戦いを挑むには怖がり過ぎている。変化には時間が必要だ。これからこの町は完璧に変わっていく。一緒に協力して、町に巣食う怪物がいるなら、全部蹴散らすんだ! エレノアは全力疾走で橋から離れていき、森を抜け、その目の前には家に続く道が……

バン!

どこからともなくトラックが出てきてエレノアをペシャンコにした。自分にぶつかってきたものが何かを理解する時間も無かった。こうして、初めて橋を生きて渡った子供は死んだ。橋に棲みつく怪物が原因ではない。子供が道を渡る前に左右を見るのを忘れる馬鹿だったせいで。


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