禍話リライト「立て替え女」
本稿はFEAR飯のかぁなっき様が「禍話」という企画で語った怪談を文章化したものです。一部、翻案されている箇所があります。 本稿の扱いは「禍話」の二次創作の規程に準拠します。
出自: 震!禍話 十七夜 (禍話 @magabanasi、2018年6月21日23時放送)
立て替え女
Aさんが都会に引っ越したときの話。
住んでいたアパートの集合ポストが荒らされることがあった。昔似たような経験があったことから、Aさんはカラスの仕業だろうと考えた。カラスは知能が高い。集合ポストには鍵がかかっていたが、作り自体は簡素なものだった。隙間から枝を突っ込めば、中のチラシを取り出すことくらい造作もないだろう。
公共料金の封筒もチラシと一緒に取り出されて、辺りに散乱していた。中身は開けられて無くなっていた。封筒を開けられるほど器用なカラスがいるのだろうか、そもそも中身を持ち去ってどうするつもりなのだろうか、とAさんは疑問に思ったが、それほど深くは気にしていなかった。Aさんは呑気な性格で、カラスの悪戯のせいで電気代などが払えずにいたが、問題になったときに対処すればいいと放置していた。
しかし、数か月経過しても、公共料金の督促は来なかった。電気やガス、水道が止まることもなく、問題なく使えた。電力会社に連絡をとったが、料金は支払い済みであるという返答が返ってきた。ガスや水道も同じだった。カラスが立て替えてくれるわけもない。さすがのAさんも不安になってきた。そこで、Aさんは友人に頼んで、数名と一緒に集合ポストを見張ることにしたのである。
案の定、犯人はカラスではなかった。見ず知らずの若い女だった。金属の棒を突っ込んで、集合ポストの中身を無理矢理取り出していたのである。
仲間と一緒に取り囲んで問い詰めたところ、女は白状した。曰く、Aさんの姿を近所で見かけ、その身なりから生活に困っているのだろうと思い、公共料金を代わりに支払っていたのだという。一見すると思いやりがあるようにも見えるが、わざわざ赤の他人の住所を突き止めて、その人宛ての郵便物を漁るのは明らかに常軌を逸している。Aさんたちは女を警察に突き出した。一応は盗難に当たるため、警察も取り合ってくれた。
警察が調べたところ、女は常習犯であることが判明した。貧しそうな人の郵便物を漁り、公共料金を勝手に支払うという行為を、様々な地域で10年にわたって行っていたのである。ここまでであれば、狂ってはいるが優しくもある女の話で終わるが、それだけでは済まなかった。
女が公共料金を支払っていた人の何人かが行方不明になっていたのである。
どうやら、女は何年か料金を支払うと、その人の家に向かい、自分が代わりに支払っていたと申し出るらしい。ある行方不明者の隣人が、その人物と女が口論になっているのを見かけたことがあった。行方不明になったのはその直後のことだったという。警察は行方不明者についても調べたが、彼らの居所は分からないままだったそうだ。
Aさんは警察関係者に捜査状況を尋ねて、上記のことを教えてもらった。警察関係者によると、その女はこのようなことを言っていたという。
「元は取らなきゃいけないからね」
結局、女の失踪事件への関与は立証されなかった。女は精神科で治療を受けているという。