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古材で家具づくり千本ノック【ベンチ編】

千本とか銘打ってますが実際は18個です。

この記事は、2021年に開催された第17回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展・日本館展示「ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」において、筆者が展示の手入れをしに現地に赴いた際に制作した一連の家具群を紹介するものです。

概要

◆ヴェネツィア ・ビエンナーレとは

ヴェネツィア・ビエンナーレは、イタリアのヴェネツィアで隔年開催されている現代美術の国際展覧会です。美術/映画/建築/音楽/演劇/舞踊の全6部門からなりますが、日本では特に映画部門(ヴェネツィア国際映画祭)が有名かと思います。

建築部門では国別展示があり、第17回となる今回のビエンナーレでは日本館展示のキュレーターに門脇耕三氏が選出されました。私たちの所属する研究室を主宰する先生でもあり、自分も微力ながらお手伝いとして出展者の皆さんと一緒にこの2年半準備に携わってきました。

日本館展示「ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」では、東京のとある一軒の木造住宅を分解してヴェネツィアに輸送し、パビリオンや家具といった異なるものへと再構築するというプロジェクトを展示しています。建設行為や廃材の環境負荷・庶民住宅の構法史・情報社会における人や物の移動の価値などなど様々な切り口から語られる本展示ですが、展示コンセプトの詳細についてはぜひカタログをご覧頂ければと思います。

またプロジェクトのミクロからマクロまで全てを網羅した、展示の実物とは異なる鑑賞体験ができるwebサイトもあるのでこちらも併せてご覧下さい。↓

◆なぜ家具をたくさん作るのか

建築家・吉阪隆正氏によって設計されたビエンナーレの日本館は、
①建物の横に広がる庭園
②展示室(館内)
③階下のピロティ
の主に3つのスペースからなります。

しかし今回の展示では、
①庭園→再建された大規模な構築物を展示する「展示スペース」
②展示室→再構築に未使用の部材を時代考証を元に陳列する「資材庫」
③ピロティ→雨に濡れずに家具などを製作できる屋外の「工房」
として各スペースを読み替え、屋内に留まらない展示を展開しています。

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こうした展示計画は日本から出展者や大工が直接現地に出向いて活動することを前提としたものでしたが、コ口ナ禍でリモート設営を余儀なくされる中、大変な苦労の末現地の職人さんの手によって展示は一旦完成しました。

ただリモートでのコミュニケーションで十全に設営し切れなかった部分もあり、8月末には賞の審査も控えていたので、2021年の8月初頭から9月初頭にかけての1ヶ月の間に改めて出展者が現地ヴェネツィアに赴き展示のアップグレードをする事となりました。

そこで自分もいち作業要員として展示物の更新を手伝いつつ工房でひたすら家具を作り出し、古材が再利用されている様子がより体感できる展示にすることを目標に作業することになりました。
(この時期に海外渡航をするには途方もない手続きが必要でしたが...)


《1》 嵩上げベンチ

◆現場の条件から素直に立ち上げる

現地に入ってまず行ったのはビジターの動きの観察です。既に設置されている椅子やベンチはどのくらいの量か、どのくらい使われているか、どこが休憩に本当に適しているのかを実際に見て家具製作のきっかけにできないかと考えました。

最初に目に止まったのは会場である公園の通りに面したピロティのはずれにあるコンクリートの立ち上がりです。ビエンナーレの会場南側エリアのちょうど中央に位置し、9カ国ものパビリオンに囲まれています。各国館を歩いて回る間にこの立ち上がりに軽く腰掛け、飲み物休憩をしたり荷物の整理をする人が多く見受けられました。

▲中央に見えるのがコンクリ立ち上がり・後ろの高木は伐採済

他にもベンチは会場内の様々な場所に設置されているのですが、このコンクリートの塊は日中通して快適な木陰でありながら植栽が近すぎず、風通しも良いため蚊が少ないのも好条件でした。
ただ高さが35cm程度と座るには少し低かったため、古材で+10cm嵩上げして座面を設えることとしました。

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◆古材の特性や来歴を少しでも活かす

肌に触れる部分には親しみやすい材を用いようとしましたが、これだけ大きい面材は使える材料に残っていなかったので、解体住宅の中でも比較的新しい棟の造作材(窓枠や鴨居など)をかき集めて並べることで代替しました。

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また、集めた造作材の中に特徴的な一対の框があったので、座面の角に組み合わせて使うことで素材に還元しない(同じようなただの古い木の棒として扱わない)方法を模索してみました。ただこのような部材としての生々しさが前面に出た見え方はある意味一発芸的で広がりが感じられないなとも思い、古材と向き合うバランス感覚の難しさを実感しました。

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▲もともと框が設置されていた箇所

一方で、鴨居や敷居といった凹のような断面形状や、材に施されたホゾ加工をそのまま座繰りとして利用することで、接合に必要なビスの長さが少なくて済むというメリットも発見しました。

嵩上げベンチ-02

▲断面とビスの長さの関係

◆あえて場当たり的に作る

綿密に計画された建築家チームによる構築物の展示や、厳密な考証のもと部材が配置された資材庫とは打って変わって、ピロティの工房では現場のライブな感覚にフォーカスした場となることが求められました。そこで家具作りに取組む自分としても、あえて工作する前から設計し切らずに場当たり的に作ってみる事で工房の空気感に寄与できないかと考えました。

「嵩上げベンチ」でも当初は座面だけを作る予定だったのが、偶然ベンチと同じ長さの丸柱(+先述の丸柱框)があったため、背もたれを後付けしました。その後耐久性の観点から作りを変更したり、結局撤去したり、最終的には付け直したりする等、無為に数回の変更を重ねてしまったので、ただ場当たり的に作るよりも場当たり的な見えに調整するという方向で手を動かすべきだったと反省しています。

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▲背もたれ変更の推移


《2》 足場寄生ベンチ

◆休憩地点としてのキャパシティを確保する

ピロティの入り口周辺ではコンクリートの立ち上がりに腰掛ける人以外にも、付近の足場に腰掛けて休憩している人もいました。座る場所が何も用意されていない状態であれば座れそうな場所に勝手に座ることが許容される雰囲気がありましたが、嵩上げベンチを作ってから足場に腰掛ける人が減ったように見受けられました。そこで足場にも同じように座りやすい高さに座面を作り、入り口付近一帯の休憩地点としてのキャパシティを確保しようと考えました。

◆巨大な部材を加工せずに使う

敷地境界からはみ出ない事は大前提だったので設置場所は入り口付近の足場裏手2スパン分(3600mm)としました。解体部材の中には12尺(3636mm)の胴差や軒桁といった長大な部材があったので、これを4本並べて足場から吊るして座面を作りました。展示終了後に部材を輸送して別の構築物にする計画もあり、後で何にでも転用しやすいよう切断などの加工をしないようにしました。

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▲座る人も横になる人も共存できる大きさ


《3》 サイドテーブル

◆そばに机があれば逆に椅子だとわかる

足場寄生ベンチは通りに背を向けて設置されていることもあり、見た目的にも座ることをあまりアフォードしていないという指摘が入りました。現地コーディネータの方が展示のアイコンでもあるブルーシートを用いて即席のクッションを作って添えて下さったのはありがたかったですが、自分でも何か作ってみてよりベンチらしくしようと考えました。

そこで、偶然そこにあったキャスターと天井板の切れ端を組み合わせて、簡単な移動式サイドテーブルを作りました。写真の状態は転倒しやすかったため、後に足の形状を変更しています。(人→大)

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▲サイドテーブルとクッション


《4》 荒床ベンチ

◆材料の力学的特性を尊重する

工房であるピロティの一角には会議室スペースが計画されており、スキーマチームのデザインしたテーブルとベンチが置かれていました。監視員・大工の皆さんにもランチスポットとして非常に人気の場所でしたが、展示替えの中で一対のベンチのうち一つを別の場所に移設することになったので代わりのベンチを作ることとしました。


この時点では周囲でもかなり沢山の家具が作られ始めており、面材(特に床板)の不足が顕著でした。下地を組んで薄い板などで無理くりパネルを作ることも出来たのですが、壁や天井の板はそもそも上に乗るような物でもないので座面に転用する為にはそれなりの手数が必要になります。そこで、あくまで床板を用いて「建物の一部から切り抜くように」作れないか考えました。

そこにちょうど荒床(床仕上げの前に予め張る捨床)が余っていたので、短く裁断して並べることで元々の板の継ぎ目(相決り)を生かしつつ一本の柱に頑丈に留めつけることができました。

荒床ベンチ_アートボード 1


まとめ

今回は作った家具の中でも比較的大きめの物をベンチ編としてまとめましたが、どうやって座面・天面を作るか考えるのが最も難しかったように思います。面材は接着剤や釘などによる接合で取り外しが難しい場合が多く、住宅の解体の過程では通常下地と一緒に破壊・廃棄してしまいます。

築年数が比較的新しい木造になればなるほど、仕上げの見た目がシンプルになる一方でその裏側の下地の納まりは複雑になり、順を追って分解することが難しくなります。

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▲サイドテーブルの元素材になった天井。天井板を下地ごと切り抜かないと取り外せなかった(建物は1982築)

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▲天井板や下地が順に分解できる竿縁天井(建物は1961増築)

家具への転用を考えれば面倒でも手壊しで丁寧に面材を切り取ってそれなりの量を保管しておくベきでした。ホームセンターで素材を揃えるのとは違って、古材家具製作は解体から運搬・再組み立てまでのトータルの手間がデザインに与える影響を常に意識しなければならないのだろうと思います。

次回【椅子編】はこちら↓

(特記のない写真や画像は筆者撮影・作成)


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