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古材で家具づくり千本ノック【番外編】

この記事は、現在開催中の第17回ヴェネツィア ・ビエンナーレ国際建築展の日本館展示「ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」において、筆者が展示の手入れをしに現地に赴いた際に作った一連の家具群を紹介するものです。

スツール編に続き、作った家具の中でも少し特殊なものを紹介します。概要については最初の記事↓をご覧ください。

《1》 ロッキングチェア

現地での家具製作は基本的にキュレーターの門脇先生や建築家チームの皆さんのやりとりの中で方向性が定められ、作るべき家具の大枠や自分が作ったものに対するデザインの調整を適宜指示頂いていました。

そんな中先生の方からロッキングチェアを作ってみてとの指示がありました。確かに展示に動きを付けるために動く家具を置くというのはより豊かな鑑賞体験に繋がるだろうと思いました。

▲門脇先生によるデンマーク館のレビュー。例えば動く映像などはWeb上でも見ることはできるが、流れる水は現地でしか体験できない

ロッキングチェアを作るには張り巡らされた単管足場から座面を吊るせば良いだろうという所まではすぐ発想できましたが、足元の繋ぎ材をよけてブランコできる設置場所はかなり限られていました。

日本館のピロティはもともと彫刻作品などを屋外展示する想定で作られた空間で、大小さまざまな台座が点在しています。そのうち一つが足場といい位置関係にあったので、無事ロッキングチェアを設置することができました。

実際設置してみると注目度は高く、子供にも大人にも人気のスポットとなったようで何よりでした。

《2》 シェーズロングのコピー

滞在期間の中盤になると工房にもだいぶ家具が増えていろいろな居場所が出来てきました。ただどれも軽く腰掛けるベンチや椅子ばかりで、先生から「シェーズロングみたいなもっとリラックスできる家具を作ってはどうか」と指示いただきました。

ただこの言葉を真に受けすぎて「古材でいかにシェーズロングを作るか」という問いに脳内変換されてしまい、実現にかなり手間取ってしまいました。

設計図も何もない状態からのスタートだったので、コピーするにあたって寸法や部材の関係などを「ムサビの椅子アプリ」で確認しつつ即興で骨組みを組んでいきました。

▲学部時代に大変お世話になりました。超おすすめ

当初は座面を紐やブルーシートなどで作ろうかと思っていましたが、作業時に隣で波板を切っていた現地スタッフV君に「体にフィットする形を作るならこの波板を載せてはどうか。自分が切断してあげるから、寸法を教えてくれ!」と提案してもらいました。

《3》 EVAフォーム枕

制作したシェーズロングを一応周りの皆さんに見てもらったところ、DDAAの元木さんから多くのフィードバックを頂きました。具体的には①ビスの芯を揃えるべき・②波板のたわみ(物性)をデザインに活かす・③補強材を入れすぎないほうがいい・④丸太の枕は狙いすぎている、といった具合です。

その中でも④丸太の枕は当初自分の中では気に入っていたので、狙いすぎているという指摘はもっともながら若干作り直すのを渋っていた節もありました。しかしあくまで目的はリラックスできる家具を作ることにあり、見た目だけの再現ではシェーズロングの持つ質は再現できません。

そこで枕の作り直しも古材・リサイクル材で何かできないか探したところ、DDAA棟の垂木の端材であるEVAフォーム(ビート板と同じ素材)を丸くまとめるという方法を思いつきました。

ガムテープでまとめたり、ホチキスでまとめたりと色々試した末、千枚通しで糸を貫通させ縛り上げることでミニマルな見た目の枕をごく簡単に作ることができました。

まとめ

結果としてシェーズロングには「先生の指示」「自分の骨格」「V君の座面」「元木さんのフィードバック」が盛り込まれた、最も多くの人が関わった家具となりました。会期中にはヴェネツィアの別荘に引き取りたいと言って下さったビジターの方も現れ、展示のタイトルである「ふるまいの連鎖」をこんなにも骨身にしみて実感できるのかと思いました。

ここまでずっと一人で作業していたので、即興のアイデアが現場で連鎖する感覚を初めて得られたのには感動しました。自分の思いついたアイデアだけで自分の作りたい様に作る楽しさがあるのも確かですが、DIYという言葉は末尾があくまでもyourselfで、他者と議論を交わしたり作業を分担したり報酬や達成感を分かち合うというニュアンスがどこか欠けている気もします。

自分という枠を超えて制作を飛躍させるためにも、ある特定の価値観やメディアに閉じこもらず誰かと協働するという価値を研究や設計においても今後も大切にしていきたいと思いました。

(特記のない写真や画像は筆者撮影・作成)

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