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古材で家具づくり千本ノック【スツール編】

この記事は、現在開催中の第17回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展の日本館展示「ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」において、筆者が展示の手入れをしに現地に赴いた際に作った一連の家具群を紹介するものです。

ベンチ編・椅子編に続き、より軽量で背もたれのないスツール群の試作の記録を紹介します。概要については最初の記事↓をご覧ください。

《1》 押縁ハイスツール

日本館展示の大きな特徴は、展示されているプロジェクトの一連の流れの中に鑑賞者自身も組み込まれている事を意識できる所にあります。住宅を再構築したパビリオンを体感したり古材から作られた土産品や家具を持ち帰る事で、鑑賞者は67年前から幾度の増改築を経た住宅にまつわる「ふるまいの連鎖」の一部となります。

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▲持ち帰り用にDDAAが考案した「取っ手付き端材お土産」

しかしこれまで作ってきた家具はベンチや椅子など大きいものばかりで、使っていた素材も柱材の切れ端など重量のあるものがメインで移動や持ち帰りに適さない点が課題となっていました。そこで、どうしようもないゴミを(半ば展示後には捨てる前提で)何とか家具にするという方針ではなく、部材から適切に家具のパーツを切り出す方針とし、軽さや頑丈さを追求する事にしました。

使用可能素材の中には押縁(板の継ぎ目や端に取り付く細長い材)が十数本あったので、これを脚に用いてスツールの試作を繰り返しました。

押縁のような細い材は折れやすいため、曲げるような力がかかることを避け、なるべく力が分散するような方法で座面と脚を接合しなければなりません。そこで端材でちょうど余っていた20mm厚の板を組み合わせて打つビスの間隔を広げ、浅く腰掛けられるハイスツールを製作しました。

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▲脚の根元は間隔を空けて接合したほうが頑丈

《2》 押縁風車スツール

前作のハイスツールは左右方向の揺れに弱く、ブレースを使わない方向でなんとか改良できないか考えていました。作業場所でもあった日本館は(コルビュジェの無限成長美術館の考えにも通じるような)風車型の壁柱からなる美しい構造を持っています。これを参考に風車型のスツールを作ってみたところ、押縁の細さの割に想像以上の安定性が得られました。

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▲日本館の風車型の壁柱
【出典】DISCONT:不連続統一体―吉阪隆正+U研究室/アルキテクト/1988

《3》 押縁ミニスツール

前回の試作で脚を風車型に作ることに味を占め、いくつかの派生型を作ってみることにしました。より少ない部材数と手数にするため、4本の梁に4本の脚を付けるのではなく一本の柱に座面と脚をまとめて付けました。

ちなみに座面に用いた板はほぼ新材の板で住宅の古材ではありません。これは別の治具を作るために用いられた板の端材ですが、日本の材料とイタリアの材料を組み合わせる事はこの時この場所でしかできないので積極的に取り入れました。

《4》 垂木三脚スツール

4本の脚を個別に取り付けることによって誤差調整の難しさが問題となりました。しっかり正確に取り付けても工房の床が場所によっては若干ガタガタで、安定して置けるスポットが限られているのが気になりました。

そこで脚を風車型にするアイデアのまま揺れない三脚の椅子を何とか作れないかと思い、足と座面を取り付ける塊を丸太梁の切れ端にしてみました。取り付ける足の本数が柱の側面の数に依存しないので五脚や六脚も同じような要領で作ることができます。

しかし脚を含むフットプリントが極端に小さくなってしまったため非常に倒れやすい椅子となってしまいました。その後、脚の根元を斜めに削いで付け直す改良を施しています。

《5》 垂木四脚スツール

4脚スツールの大きい版で特筆するところはありませんが、素材の対比やプロポーションの緊張感といった点でオリジナルに劣る感じがします。

《6》 シューメーカーもどき

ここまでの家具製作は展示物として一瞬使われたりすることを前提に一人で考えて一人で作っていましたが、日本館で日常的に勤務する監視員の人が欲している家具こそ作るべきなのではと考えるようになりました。

監視員の人は数名の交代制で、日中ずっと館内外に立ちっぱなしの仕事です。他国館は展示面積がそこまで広くないこともあり受付のような詰所でずっと座っているのに対し、日本館展示は監視で気を配るべき対象も多く、上下階の移動もしばしば起こります。

「なにか仕事をする上でこんな家具があったらいいなと思う物ありますか?」と監視員さんに聞いたところ、「立ちっぱなしは辛いがガッツリ座りっぱなしの所を見られるのも少し気が引けるので、ちょっとした時に浅く腰掛けられる椅子が欲しい」との返事をもらいました。

そこでシューメーカーチェアを参考に、三脚の安定した椅子を製作しました。

《7》 シューメーカーもどき改

前作のシューメーカーもどきは高身長の監視員さんの体格に合わせて作ったため、小柄な監視員さんが座ると足が微妙に付かないという問題がありました。改めて欲しい座面の高さを聞きもう一台作ることにしたのですが、どうせならもっと腰にフィットする座面にしようと、UAE館主催のベンチコンペで提案した落選案の座面を作ってみることにしました。

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▲ベンチコンペの一案

コンペの案は古材を様々な角度でスライスして切断面を露わにし座面にするというものでしたが、実際は丸鋸の刃の深さでは一度にスライスはできず表裏に分けて切り込みを入れたため切断面が若干がたついてしまいました。

これが帰国前に作る最後の家具でもあったので、心を込めてやすりがけしました。

まとめ

スツール制作では、どう軽量化させるか、そして軽い分どう安定させるかが問題となりました。ベンチや椅子は自重で微細に変形して多少の誤差を吸収できていた節がありますが、繊細な加工ができない環境のなか三脚で安定させるという古典的なアイデアに行き着いたのはある意味自然な流れで、もうひとひねりが欲しかったなと思います。

次回【番外編】はこちら↓

(特記のない写真や画像は筆者撮影・作成)

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