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理学療法士のイギリス大学院留学~論文の読み方(Research methods and health improvement in health and social care)~

はじめに

皆様はどのように情報を得ていますか?

ネットですか?SNSですか?

・それらの情報は、その方々の経験談も含まれるかもしれません。

・研究に基づいた成果も含まれるかもしれません。

ただ、それが全て

あなた(や周り)に当てはまるものとは限らない

ということを念頭に入れてください。

私のこのnote、英語学習や大学院について書かせていただいた今までのnoteも同じです。

「参考、一つの見解」であって、「答え」ではないです。「答え」を求めたいのであれば、きっと今までの背景や、今の現状、今後予想されることに得た情報がプラスして答えが出るのかもしれません。

今までの背景 + 現状 + 情報 + 今後 = 答え(結果?)

なので、答えを求めようとして情報に頼りすぎるのは、危険だと思います。

今後の予想も含まれているので、すぐには答えは出ません。「答え」というよりは「結果」という言い方の方がしっくりくるかもしれません。


論文も同じです。あなたやあなたの周りが今抱えている問題・課題に対する答えを出すものではありません。

論文の中にも「統合と解釈」が存在しますが、いくつかの論文を読んだ上で、ご自身(や周囲)と照らし合わせて統合と解釈をしなければなりません。

論文は「答え」ではなく、「ヒント」であって、論文を読む事は一つの「手段」です。


私は理学療法士であり、医療従事者のため、論文は避けて通れないと考えております。

なぜ大学院?でもお話しさせて頂いた通り、

人の命を預かっている医療の世界においてブラックボックス化はあり得ない

と思っているからです。

できれば併せてお読みください。


個人的には、医学論文を

読めなければいけない・読まなければいけない

とは思っておりません。

読めた方が良くない?

程度です。別に読めないからって困りませんし、読まないからって怠惰なわけでもないです。

今、根拠に基づく医療(Evidence-based Medicine)、根拠に基づく理学療法(Evidence-based Physical Therapy)が叫ばれています。

"Evidence Based Medicine is the conscientious, explicit, and judicious use of current best evidence in making decisions about the care of individuals patients"        Komatsu, R S.(1996)
良心的に、明確に、分別を持って、最新最良の医学知見を用いる

患者、クライアントのためを思えば用いた方がいいよね?と思います。

患者への介入が感覚的・経験頼りにならないように、逆に、頭でっかちにもならないように。

医学論文という情報のソースを読むという「手段」の「方法」を述べていきます。


ーなぜ論文を読むべきなのか?

すみません。読むべきと書いてしまいましたが、mustではありません。should / might be good idea to read. です。

大きく分けて、

ー医療従事者にとっての重要性

ー健康増進(health improvement)のため

に読めた方がいいかな、と。


・医療従事者にとっての研究の重要性

まずは、医療従事者にとっての研究の重要性ですが、

✔ 知識の基盤として (Basic)

✔ 新しい知識の積み重ね (Advance)

✔ 証拠に基づく実践(Evidence-based Practice)

の3点を説明します。

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一つ一つ積み重ね、ピラミッドをどんどん高くしていきます。

✔知識の基盤として

皆様知識の基盤・ベースとしては、養成校時代に培われてきているかと思います。養成校時代に使っていたのは教科書です。

その教科書もそれまでの研究や著者の知見からまとめられているのがほとんどだと思います。

知識の基盤がブレてしまうとその後の応用にも影響が出ます。先入観は評価にも治療にも悪影響を及ぼすと思っています。

医学は日々進歩します。養成校で行われているような教科書的な知識であればそれほど変化することは無いかと思いますが、知識の基盤のベースアップを医学論文で補っていきましょう。

✔新しい知識の積み重ね

まんまですね。

基盤の知識の上に、新しい知識を積み重ねていきます。

これは論文に限らずですが、新しい知識を積み重ねていくことで「見たことない、聞いたことない」といった事象を減らせます。

その積み重ねがまた知識の基盤になっていくわけです。

頭でっかちにならないように。参考程度に積み重ねながら、応用・実践していきます。

✔証拠に基づく実践

①最良の研究成果(best available evidence, その治療が効くのか?なぜ効くのか?)

②専門家の知識・技能(Clinician Expertise, 患者個々の健康状態・診断、それらへの介入のリスク・利益を特定する)

③患者・クライアントの好み、価値観(Client characteristics, culture, preference)

の3つの原則に基づいて実践されます。

そして、順に、

1. Ask (疑問に思う)

2. Acquire (情報を得る)

3. Appraise and Interpret (統合と解釈)

4. Apply (適用する)

5. Evaluate (効果を検証する)

を繰り返していきます。

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そのための最良の研究成果をどのように選定、どのように読み解くのか?

どのようにAppraise and Interpretするのか。

続きます。


・健康増進(health improvement)のため


これも3つです。

健康増進のための、

✔品質と基準

✔危害を減らす

✔成果の改良

これはどちらかと言うと、研究者側の立場からの見方かもしれません。

研究者でもないのにすみません。

個人的な解釈にはなりますが、

医学研究はhealth improvementのために研究され、それを受け取る我々もhealth improvementのために情報を得るわけです。

ただ知識欲を満たすために情報を得るのではなく、目の前の患者・クライアントのためです。

そのために、研究者の方々は膨大な労力・時間をかけて研究をし、後身に残してくれています。

論文を読むとき、情報を得るときにそんな事まで考える必要はないのかもしれません。

ただ、その人がその情報・知識・経験・成果を得るまでには、それ相応の労力・時間をかけているのは間違いないです。

話が飛躍してしまいましたが、個人的にはそこまで含めての、「正しい情報の得方、論文の読み方」だと思っています。

ー研究・監査・サービス評価について

それぞれ似て否なるものです。

✔監査とは・・・既存する基準を使用して、正確性と妥当性を判断し、報告する事

✔サービス評価とは・・・サービスが意図した目的をどれだけうまく達成してるかを検証する事

研究はというと?

✔研究とは・・・厳密で適切な過程を使用した上で新しい知識を構築していく事

です。

ーP(E)ICO と FINER について

これらも、研究者が研究を計画・デザインするときに考えなければならない項目です。

臨床上疑問に思った事柄(Clinical Question)を、より具体的な研究計画にしていく過程で考えるべき項目となります。

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論文を読む側としては、FINERまで考える必要はありませんが、P(E)ICOを確認しながら読む事で、全体像を捉えやすくなります。

ーエビデンスの階層

エビデンス、エビデンス言うてますが、そのエビデンスにも「強弱」があります。

その強弱を階層で表したものがあります。(Sackett 1986)

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こちらの尺度(階層)は様々な方法の妥当性に基づいており、様々な研究デザインがバイアスの影響を受けやすい度合いを反映しています。バイアスとは簡単に言うと「偏見」や「先入観」を表しており、研究の信憑性に影響を与えます。

タイトルや研究対象、介入方法、結果のみで判断・信頼するのではなく、研究デザインまで確認するようにしましょう。

ーp値について

皆様、論文を読む際の一つの指標としてp値を参考にしていませんか?p値によって、「有意差がある」「有意差が無い」でこのデータは信用できる・できないを判断していませんか?

それは危険です

私もp値信仰者の一人でした。

聞いた話によると、それは有意症と呼ぶそうです。

誤用や誤解もあり、一部の学術雑誌や統計家の中ではp値の利用を控えさせたりしているところもあります。

そもそもp値とは?の説明からですね。

一言で言うと、その研究データが

偶然ではない事の証明

をするために使われます。有意に差があるというだけで、その結果が必然であるという事でもありません。

p値は参考となる値ではありますが、効果の大きさや結果の重要性を表すものではありません。

後述しますが、p値だけでなく、研究デザインやサンプルサイズ、測定の質etc. 様々な事柄から信頼性・妥当性を吟味する必要がございます。

ーCritical Apprasisal(批判的吟味)

さて、もう少し掘り下げてみていきましょう。

’’批判的’’とは言いますが、「悪い」と決めつけるわけではなく、その研究がどの程度「信頼性」「妥当性」があるかを’’吟味’’する作業になります。

以下の8項目でみていきましょう。

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盲検化、ITT(Intention to treat)解析に関しては以下をご参照ください。

お手数ではありますが、上記8項目をチェックし、「信頼性」「妥当性」を’’批判的’’に’’吟味’’します。小項目でリスト化したのが以下になります。

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なにをもって、十分なのか・適切なのか、という議論にもなりますが、まずは一つ一つチェックしながら読んでみましょう。

今までよりも深く読み解けるでしょう。

また、万が一ご自身で研究しようとしたとき、先行文献を参考にする際にも有効活用できるかと思います。

上記のものはRandomised Control Trial(RCT)用のチェックリストになりますが、他の研究デザイン用のものもございます。英語ではありますが、以下からダウンロード可能です。

終わりに

色々とお話しさせて頂きましたが、まずは読んでみましょう。いや、検索からしてみましょう。代表的なところでいえばGoogle ScholarPubmedなどで、知りたい疾患等から検索してみてください。

読めた方が良くない?

程度のものですが、読めた方が間違いなく

情報の幅は広がります

当たり前にみなさんが読めるようになり、正しい情報が世の中に広まりますように。

情報の幅を広げ、正しく取捨選択できますように。

この記事がほんの少しだけでもその一助になれれば嬉しく思います。


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