昨今、人工知能周りの喧騒の中で「ラッダイト」という語が度々出てくる。
「ラッダイト」とは産業革命の渦中1811年から1816年に起こった「ラッダイト運動」で機械破壊運動を行った労働者。国語辞典によると
さて、「ラッダイト」は現代では新しい技術や方法に反対する人を指す反新技術的な語としても用いられる。
しかし、古くはそういう意味ではなく単にラッダイト運動そのものを指す語であった。
「Luddite」語釈の変遷
それでは、現代における用法はいつ頃から用いられるようになったのだろうか?出版時期の違う辞書を調査、比較を行った。
古い順にその結果を示す。
以上を見ると1980年代ごろから歴史的な意味以外に反新技術的な意味合いが記述されるようになっているのがわかる。語の使用と収録のギャップを考えると少なくとも1970年代後半から1980年代前半には反新技術的な意味合いで使われ始めていると考えることができる。
さて、最強の英語の辞典OEDの語釈には歴史的、反新技術的の二つが示されており、反新技術的な意味の語釈は以下のようになっている
この解説では2つの用例が収集されている。1970年の用例の時点で「Luddite」は反新技術的な意味合いで使われていたようだ。
前述の辞典の語釈の変遷をみると1970年代ごろまでは専門領域の中で用いられており1980年代ごろには人口に膾炙したとみるべきだろう。
英文中にみる「Luddite」
古い記述を複数得ることができなかったが1963年の問答において、既に「ラッダイト」が反技術的機械破壊者として記述されている。辞典と比べるとこれが大西洋を越えるほど人口に膾炙したのが1970年代から1980年代ということだろうか?
日本語での「ラッダイト」の変遷
辞書で反新技術的な語釈の出てきた時期を見てみると70年代では「ラッダイトのように」という話され方で、80年を境に「ラッダイト≒機械破壊運動者」というようになってくる
90年代にはエコなどと絡んだ表現として「ラッダイト」が登場するようになり、ここにおいて反新技術的な使われ方がなされたようだ
まとめ
英語「Luddite」においては少なくと60年代には反新技術的な意味合いとして、80年代までには一般化したようだ。日本語「ラッダイト」は80年代に機械破壊運動として90年代に反新技術的な表現として用いられるようになったようだ。
日本語の辞典では「ラッダイト運動」はあるが大型辞典においても「ラッダイト」のみの立項はない。前述の調査結果も考慮するとそもそも日本語では一般的には用いられてこなかったと考えられる。
言葉は変遷するものである。100年10年前と今の語の使われ方が大きく違うことは間々あることである。
本語においてもそうである。英単語「Luddite」はもともと運動そのものを指していたが、少なくとも60年代には辞書においては80年代には反新技術の意味合いでの記述が為されている。
一方で、日本語においては大辞典にも記述はなく、日本語で「ラッダイト」といった場合は「ラッダイト運動」を指す。そういった意味で、日本語的には「Luddite」の反新技術的意味合いは薄い。しかし、少なくとも90年代には「ラッダイト」に反新技術の意味合いは見出されていたようである。然らば現代においてそれを用いることは必ずしも間違いではないだろう。