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【Review】MAD MIKRIS Soundtrack/MIKRIS "MADSKILLを持つのは誰だ!?"

厭世主義が蔓延る狂った世の中で正気を保つためには、『時計じかけのオレンジ』よろしく逆説的に自身が狂わなければいけないのかと思うことがある。そんな時、耳元から唯一無二のMADな世界へ誘い、行き場のない鬱積を晴らしてくれるのが完全無欠の”MADSKILL”を持つ千葉のMC・MIKRISだ。

『MAD MIKRIS Soundtrack』ジャケット

90年代前半にヒップホップと出会い、15歳からリリックを拵え続けたMIKRISが2003年にデビューEP「Who’s The MADSKILL!?」を世に放ってから今年で20年。その周年を記念し、MIKRIS自ら選曲のベストワーク的tape album『MAD MIKRIS Soundtrack』が7月28日、100本限定でリリースされた。当初から一貫して「Who's The MADSKILL!?」とスピットし続けたMIKRISが放つこの集大成も、その台詞を体現する"MAD"な作品となっている。

MAT DESIGNZによるアートワーク

今作のために盟友・MAT DESIGNZがデザインしたアートワークにも現れているが、MIKRISは咽せ返るようなストリート臭漂うMCであると同時に、Gravediggaz的なホラーコア要素も併せ持つ。『Who’s The MADSKILL!?』のジャケットには『13日の金曜日』のジェイソンを思わせるホッケーマスク男(かつイントロもジョン・カーペンター的サウンドから始まるのが印象的)、3rd album『M.A.D.2』(2010)では街を恐怖に陥れるフレディ×ゴーストフェイス風MIKRISの姿が描かれていることからもその嗜好は明らかだ。ただ初期の頃からホラーコアのニュアンスこそあれど、そのラップスタイル自体はハードコア・ヒップホップと呼べるものが中心だった。

『Who’s The MADSKILL!?』(左)『M.A.D.2』(右)

そんなMIKRISの背景にあるホラーコアの蛹が羽化したのが4th『6 COFFIN』(2013)だ。棺を曳く死神がジャケットに施されている時点で相当にILLな作品だが、今までとは大きく異なるウネりある変態性=作家性が爆発したサウンドにより、MIKRISという存在の稀有性を決定付けた。そしてその色はそのまま最高傑作と位置付けられる5th『HELL』(2018)に引き継がれる。明るく開放的な草原に佇むMIKRISという既存にはないジャケットに一瞬驚かされるが、MIKRISを知る者からすれば『28週後…』のOPが如く背後から走るゾンビが押し寄せてきそうな不穏さを感じ取ることができる。

『6 COFFIN』(左)『HELL』(右)

前置きが長くなったが、今回の『MAD MIKRIS Soundtrack』はその5th『HELL』の導入かつMIKRISのモノローグでもあるタイトル曲「HELL」から幕を開ける。日に日に混迷していく現代のHELLな社会や構造を前に、MIKRISが困惑を吐露しながらも怒りを胸に立てる中指。そしてそのまま同アルバムのキラーチューン「Word of Mouth」へ移る。HIMUKIのダーティなトラック上で一小節目から心鷲掴みにする特異なフローは流石の一言。”口を開けば火はますばかり””どいつもこいつも報われたいなら今すぐその口閉じてShut Mouth”といったリリックからは今じゃ半エンタメと化したSNS等の炎上騒ぎへのシニカルな視点を抱かせる。ホラー映画とHIP HOPの共通項の一つがその源泉にある社会批評性だが、双方を愛するMIKRISは当然その目線でも言葉を紡ぐ。

A5」は『6 COFFIN』の先行シングル。アラートのようなIntroに目が覚める妖しさ全開のサウンド上を水を得た魚の如く泳ぎ回るMIKRISのラップに耳を奪われる。MIKRISの盟友JBMは『6 COFFIN』に関して「ついに開き直ったな」と評しているが、本楽曲を聴いただけでもその意見に同意できる。

Angel's Smile,Beckoning Of Devil feat.DELI」「THE DOG ANTHEM feat.KGE THE SHADOWMEN & SESAME,AKANE」は1st album『M.A.D.』からの楽曲で、共にMIKRISを語る上では欠かせないMCsが参加している。DELIはMIKRISの才能をいち早く見抜きフックアップした恩師。そしてKGESESAMEはユニット【THE DOG(ジ・ドッグ)】を結成していた旧知の仲だ(レーベル名THE DOG HOUSE MUSICはその名残)。両楽曲ともに『M.A.D.』のハイライトといえる楽曲だが特に「Angel's Smile,Beckoning Of Devil」のDELI&MIKRISの完璧な相性が印象的。HOOKでスクラッチと交差する二人の掛け合いがこの上なく気持ち良い。

BRAIN WASH」「CRAZIES」には冒頭述べた”狂った世界でマトモでいるため自ら狂わなければ”という思想を感じる楽曲。”アタマ変”を連呼し全方向に怒り睥睨する「CRAZIES」であるが、中指を立てる相手は”Fuck racist”や"Wack mediaのコメンテーター”と言ってることは至極マトモ。狂ってるのは俺らじゃ無く世界なのだと皮肉を込めて示しているのだ。

SAAAR」は2021年のシングル楽曲。Liza Equalizaのトラックがまず変態的だが、それにしれっと言葉を乗せるMIKRISの巧みなアプローチからは経験を重ねたことによるラップの進化と深化を感じることができる。「MATRIX」は『6 COFFIN』の個人的ハイライト。Red Pillを口にして世界の裏側を知ったネオのように、何者かに飼い慣らされた日々から目覚めろと徐々にヒートアップしていくラップで捲し立てていく。”このsystemはdrug だが奴らにとっちゃmedicine”と、社会を覆い尽くすシステムやテクノロジーへの警鐘を10年前から鳴らしていた。

従来のアルバムでもその傾向があったが、作品も終盤になると変態的サウンドが情感あるムードへと変化していく。特筆すべきはオーバーグラウンドにもMIKRISの名を知らしめた名曲「Umbrella Feat.鋼田テフロン」。BACHLOGICのメロウな音とSALUがライティングした鋼田テフロンのキャッチーなHOOKとMIKRISのアンダーな魅力が見事に合体。改めて、あらゆる音に合う言葉&合うアプローチでラップを乗せるMIKRISの巧さを思い知る。

今作で最も新しい楽曲が、MIKRIS発足のコレクティヴ・CB$のアルバム『Collective Motivetion』収録の「Suki Ni Yaru Feat.JBM」。盟友JBMを客演に呼び、タイトル通り”俺は好きにやる”と歌う。GRUNTERZのスムースなトラックという選択にも表れているが、それはヤケになったというより成熟した先にある余裕と捉えられる。

だがゆったりムードでは終わらないのがMIKRISの人間味ある面白さ。ラップの締めを飾るのは『6 COFFIN』の中でも特にDopeなサウンドの「S.S.P. -Soul Survive Posse-」。13日の金曜日という導入からしてMIKRISのホラーコア・スタイルが炸裂しているが、一方で”誰かが決めたrule 承知で今夜はact a fool”とクソな社会に眦を決しながらもそこに擬態し一夜を楽しむ情緒的な瞬間が切り取られていたりと、MIKRISのあらゆる魅力が詰まった幕引きに相応しい一曲である。最後に耳に残る言葉はこれだ。“MADなshit みんなcheck it”。

そしてアルバムは『M.A.D.』の「Outro」で幕を閉じる。雨音の中、足音は遠ざかっていく。だがホラー映画を愛する人間は知っている。物語には続きがあることを。

ファンの一人として、是非とも続編『M.A.D.3』に期待するばかりである。


MAD MIKRIS Soundtrack プレイリスト

【作品詳細】
2003年デビューEP"Who's The MADSKILL!?"をリリースし、20年経た昨今2023年。周年記念として、MIKRIS自身が自分音源を選曲したTAPE ALBUMを企画しました。今作は各社サブスクで作ったプレイリストをフィジカル化しました。サポートしてくれてるMADピープルの為に制作したアイテムになります。100LIMIT

"MAD" MIKRIS Soundtrack
1.HELL
2.Word Of Mouth (Prod By.HIMUKI)
3. A5 (Prod By.BUSHMIND)
4. Angel'sSmile,Beckoning Of Devil Feat.DELI (Prod By. AQUARIUS)
5.THE DOG ANTHEM Feat.KGE THE SHADOWMEN & SESAME,AKANE (Prod By.HASSY THE WANTED)
6.BRAINWASH (Prod By.トラック野郎)
7.CRAZIES (Prod By.BUSHMIND)
8.Wake Up! Open Your Eyes Feat.SESAME  (Prod By.DJ TOMIKEN)
9.A Beating Heart Skit
10.SAAAR (Prod By.Liza Equaliza)
11.Love (Prod By.OTOMITSU)
12.MATRIX (Prod By. The Anticipation #Based Illcit Tsuboi
13.Six In The Morning Feat.HI-D (Prod By.KURABEATS)
14.Umbrella Feat.鋼田テフロン (Prod By.BACHLOGIC)
15.Suki Ni Yaru Feat.JBM (Prod By.GRUNTERZ)
16.S.S.P. -Soul Survive Posse- (Prod By.GOLBYSOUND)
17.Outro


最後まで読んで頂きありがとうございます。