ZIPCLOCK "SECOND SAGA" - D.D.S THE SUKE 〈Review〉
【ZIP CLOCK】がスタートした2020年5月10日から凡そ1年の時を経て、遂に放たれるSugar Kane Recordingsの2発目の弾丸『SECOND SAGA』。
前作『ONE HALF AMAZING』からおよそ1ヶ月の幕間を置き、発表された本作を以って一先ずこの一大プロジェクト【ZIP CLOCK】は完結する。
『ONE HALF AMAZING』が会心の出来だっただけに、相当にハードルが上がってしまったこの耳を納得させる作品が果たして出来るのだろうかと一抹の不安を感じていたが再生ボタンを押してすぐそれは杞憂だったと確信した。
ヘヴィでハードコアなサウンドが主軸の『ONE HALF AMAZING』に対し、『SECOND SAGA』は全体的に成熟した落ち着きのあるサウンドが中心。【ZIP CLOCK】という大きな1つの作品でありながら、太陽と月、冷静と情熱のように『ONE HALF AMAZING』に対し非常にシンメトリックなアルバムとなっている。
対照的と感じたのは音に関してだけではない。個の想いや覚悟を強く感じた『ONE HALF AMAZING』に対し、『SECOND SAGA』では他者との繋がりやD.D.Sから見た世界、そしてその中での立ち位置が色濃く描かれる。水面の波紋が少しずつ広がるように、この作品でラッパーD.D.Sの歌う世界は広がりを見せていく。
個の存在を証明するのは、その個人と他者や世界との繋がりである。
つまり、’’個’’と’’世界’’を描くこの2作を合わせてはじめてD.D.Sというアーティストの存在が立体的に浮かび上がるのだ。
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本作の幕開けを飾る楽曲は東京のラッパーPRISTを客演に招いた「BACK AGAIN」。サックスとハープを基調とした艶やかなメロディと、べースをはじめとした太いボトムの音のバランスが絶妙なビートはアルバム冒頭から聴き手を一気に惹き付ける。この音の配置の妙が素晴らしいビートを担当したのはJ.RICK。何ならこのビートだけで白飯が食える格好良さだ。
D.D.Sといえばハードなラップスタイルのイメージが強く『ONE HALF AMAZING』ではその持ち味が存分に活かされていたが、楽曲のタッチによって柔軟にそのトーンを変え自身のラップをその楽曲の持つ世界観に落とし込んでくる器用さも持ち合わせている。本楽曲でもその器用さは健在で、ビートに合わせたウィスパー気味のフローでしっとり心地良く聴かせてくれる。
だが心地良さという点では客演のPRISTも負けていない。跳ねるようなフローと怒涛の脚韻で産まれるグルーヴは聴いていてひたすら気持ちが良い。
彼らがスピットするのは大切にしてきたスタンスの話。先に述べた通りサウンド的には『ONE HALF AMAZING』と対照的な立ち上がりながら、一本気のその姿勢は変わらない。D.D.Sが同業者から広く支持されるのはそんなブレないアティチュードがあるからこそだろう。
続く#2 は盟友DAG FORCEを招いた楽曲「MICHI」。
遠くニューヨークに拠点を置くDAG FORCEとの客演曲を聴くことができるのも【ZIP CLOCK】ならでは。プロデュースは福岡のKLO-DO。クイーン・オブ・ソウルの名バラードを大胆にサンプリングしたエモーショナルなビートが2人のラップを盛り上げる。
ここで語られるのは決して単純では無い人との繋がり。D.D.Sが‘’お互いのカラーが混ざればいい/白黒混ざる色は後のグレー’’とスピットするのに対し、DAG FORCEは‘’君はイエローで俺はレッド/なら混ぜてオレンジってことじゃねぇ/混ぜたくねぇ でも大好き’’と歌う。同じトピックでも相反する視点が組み込まれ他者と分かり合うことの難しさが表現されながらも、人と人は共感し、寄り添う事が出来るというポジティブなメッセージが込められた慈愛に満ちたナンバーだ。
神奈川のレゲエDJ、Fortune Dとの #6 「LET THE FREEDOM RING」はレベルミュージックとしてのヒップホップとレゲエ、その真骨頂とも言える楽曲だ。プロデュースは【ZIP CLOCK】ではお馴染みのRuff410。重いベースが印象的なレゲエ調のビートはD.D.SとFortune Dの両者と相性バッチリで、改めてRuff410のメイクするビートの幅広さに驚かされる。
この楽曲の収録が行われた2020年8月30日のおよそ57年前、1963年8月28日のある出来事が本楽曲で歌われる。その出来事とはキング牧師による「I Have a Dream」の演説でも知られるワシントン大行進。その日あらゆる人種・階層・出身の人々がワシントンDCに集い自由と民主主義を求めて声を上げた。自由を求める意志は歴史や距離を越えて世界中に伝播し、極東の島国のアーティストにまで繋がった。
誰かがカテゴライズした肌の色や国境で生まれる争いや弾圧、不条理なシステム等の体制に真っ向から向き合い、’’Let the freedom ring:自由の鐘を鳴らせ’’と自由を求め反抗する強い意志が込められた楽曲だ。非常にコンシャスかつ今の世界を表すテーマ性にきっと聴いていてハッとさせられる事だろう。
そして個人的に最も楽しみにしていた楽曲がMACKA-CHINをプロデュースに迎えた#7 「SOME BODY OR NO BODY」。壮大なイントロから美しくもメランコリックな雰囲気が漂うループに続くビートは期待を遥かに超える素晴らしさ。
そこに乗るD.D.Sのラップはややレイドバック気味に、かつフレーズを細かく刻み間を空けることでビートを見事に引き立たせている。やはり器用なラッパーだなとここで改めて感心させられた。
この世界で自分がなりたい何者かになるか、それとも何者にもなれず死んでいくか。映画「アメリカン・ギャングスター」の一節を引用しつつ、自らの意思で切り開いていく未来とその生き様をドラマチックに語る。展開は非常にシンプルながら凄まじく格好良い。完全にクラシックの風格だ。
この作品を語る上で欠かせないのが句潤を招いた#8 「510」。
全てはここから始まった。【ZIP CLOCK】でメイクされた最初の楽曲で、もしこの曲が産まれなければ【ZIP CLOCK】もその場限りで終わっていたかもしれない。そう思うと楽曲の雰囲気と相まって不思議と感傷的な気持ちが押し寄せてくる。
D.D.Sと句潤、’’剛’’と’’柔’’のように全くスタイルの違う2人だが、旧知の仲というだけあってその相性は抜群。どこか退廃的で真夜中の大都市を思わせるKSMNのビート上、パンデミックにより完全に姿を変えてしまった世界で藻掻きながらも前に進もうとする確固たる意思を感じる楽曲だ。プリプロからブラッシュアップされた今作を聴いて、改めてそれぞれのヴァースは勿論、HOOKに至るまでの凄まじい完成度に驚いた。遠隔・かつ公開収録という初めての挑戦に模索しながらもこの曲を完成させたこの2人の凄さが今改めて身に沁みる。
アウトロを除き本編最後の楽曲となるのが同郷かつ同年の友人、RITTOを客演曲に呼んだ #12 「HOOD IS GOOD」。穏やかなピアノの音色が心地良いビートは同じく同郷のDJ POMによるもの。
「HOOD IS GOOD」というタイトル通り、闘う場所が変われど変わらないフッドへの愛が言葉や音の節々から溢れ出る。互いに沖縄を代表するラッパーとなった昔からの友人が音の上で邂逅し、過去、現在そしてこれからの未来をスピットし合う。ヴァースの途中でD.D.SからRITTOへ襷へ繋ぐようにラップが切り替わる演出も合わさり、聴いていて堪らなく胸が熱くなる楽曲だ。
そうしてスタンスに始まったアルバムはフッドへの想いへ帰結する。実にHIP HOPらしい締めくくりだ。思えばこの流れは『ONE HALF AMAZING』とも類似しており、シンメトリックな作品の中にこういった共通点を忍ばせる辺りにD.D.Sの作家性を感じさせる。
『ONE HALF AMAZING』と『 SECOND SAGA』。それぞれが独立したアルバムでありながら、2作で【ZIP CLOCK】という1つの作品であると既に述べれている通り、続けて聴くと見事にカチッと繋がるので是非通しで聴いて貰いたい。SAGAと呼ぶに相応しい壮大な物語をきっとその中に感じ取れるはずだ。
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こうして1年にも及ぶ【ZIP CLOCK】プロジェクトは幕を閉じる。
これからSugar Kane Recordingsの歩む道が間違いないものであると決定付ける、見事な口上のような2作。
きっと自分が推奨するまでもなくこのアルバムは多くの人に伝わっていくだろう。そうでなければおかしい、そう言い切れるほどに素晴らしい作品だった。
今作をピリオドにD.D.Sはまた新たなステージへと向かう。
次はどんな動きで驚かせてくれるのだろう。
これからもその動向から目が離せない。
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ZIP CLOCK『SECOND SAGA』- D.D.S THE SUKE
レーベル名:Sugar Kane Recordings
発売日 : 2021.5.26
1.BACK AGAIN Feat.PRIST(Prod. by J.RICK)
2.MICHI Feat.DAG FORCE(Prod. by KLO-DO)
3.BREATH OUT Feat.Deey(Prod. by Cedar LAW$)
4.SEE YALL SOON feat.MuKuRo(Prod. by Ruff410)
5.GMW Feat.MION(Prod. by Young Beats Instrumental)
6.LET THE FREEDOM RING Feat.FORTUNE D(Prod. by Ruff410)
7.SOME BODY OR NO BODY(Prod. by MACKA-CHIN)
8.NEVER RAIN Feat.VENOM(Prod. by BGE)
9.510 Feat.句潤(Prod. by KSMN)
10.鍔唾 Feat.BES(Prod. by 呼煙魔)
11.NIGHT RHYDE Feat.MU-TON(Prod. by Cedar LAW$)
12.HOOD IS GOOD Feat.RITTO(Prod. by DJ POM)
13.OUTRAWS(by G800)
MIX by Bigo from Bigolabotory
MASTER by I-DeA for Flash Sound
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前作、『ONE HALF AMAZING』のアルバムレビューはこちら⬇︎