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TOKYO ISLANDHOOD with STARTUPS 採択企業インタビュー「FLOATBASE株式会社」

島ごとに異なる医療ニーズに寄り添い
誰もが必要な医療を受けられる環境づくりを


FLOATBASE株式会社  代表取締役 井川太介さん

物理的距離や人材不足から、必要な人が適切なタイミングで医療や投薬を受けられない「医療アクセス問題」は、日本でも社会課題として深刻さを増しています。特に島しょ地域では、地理的制約や人口規模といった状況から個々の医療に対する負担は大きい。そうした医療アクセスの課題解決をめざし、独自デバイスを使ったオンライン診療システムを開発しているFLOATBASE株式会社では、新島・式根島を皮切りに伊豆諸島での運用に取り組んでいます。代表の井川さんに、離島での医療アクセスへの思いについて伺いました。(インタビュアー:株式会社TIAM/伊藤奨)


――FLOATBASEさんは医療アクセスの課題解決に取り組んでおられますが、TOKYO ISLANDHOOD with STARTUPSに応募された理由は何だったのでしょうか?

井川:私たちが手がけているのは「医療ボックス」という独自のデバイスを医療アクセスが悪い場所に設置することで、遠隔で医療を提供する方法を作っていく事業です。前職で医療機器のR&D(研究開発)をしていたときに、マラリア予防のプロジェクトで東アフリカのマラウイという国へ行くことがあり、医療アクセスの課題に直面したのがはじまりでした。
マラウイでは医療従事者が極端に少なく、少ない医療従事者のもとに大量の患者が押し寄せるという状況がずっと続いていて、治療以前に解決しなければならないことがあると実感しました。必要な人が必要な医療を受けられない医療アクセスの悪さをどうにかできないだろうかと調べ始めたところ、日本でも医療アクセスが課題になっていて、便利なはずの都市部でも起きていることがわかってきたのです。
そうした医療アクセスの課題を解決するために力を尽くしたいという思いから、この事業が生まれました。石川県の郵便局や島根県の海士町など、いろいろな地域でのプロジェクトが進行するなか、同じ医療関係の方からTOKYO ISLANDHOODのことを紹介されたんです。離島の文脈で働いたことがなかったので、これは自分のやっていることが合うか合わないかも含めて、とても重要な機会になると思いアプライしました。


――10月に島へ行く前には、島に対してどのようなイメージを持っていましたか?また、行った後でイメージは変わりましたか?

井川:アクセスが難しいことや、予想外のハプニングが起きるのも珍しくないことは事前に聞いていましたが、実際に式根島へ行ったときに天候が悪くなって、船が出ないし飛行機にも乗れないという事態になりました。そのときに式根島の方が帰る方法を考えて手配してくれて、無事帰ってくることができたんです。これが島の現実かと肌で感じましたね。

これまで新島と式根島には2回ずつ訪問しましたが、診療所の先生や医療従事者の方々、村役場の方ともお話することができたことも大きかったです。自分たちの事業について、好意的な方がいれば「それは難しいんじゃないか」と率直なご意見をくださる方もいて、そういった意見に触れるということだけでも、やはり島に行って直接お話する機会があることは大事だなと感じました。

新島村役場の職員より村の医療事情についてヒアリング
医療ボックスについて説明する井川さん

――TOKYO ISLANDHOODではさまざまな事業化支援をさせていただきましたが、そのなかで「これはよかった」というものはありましたでしょうか?

井川:私たちのサービスは2022年11月に始まったばかりで、企業としては若いステージにいます。そんななかでメンターさんや事務局の方が島を訪問するときにずっと同行してくださり、いろんな視点で相談できたのは本当に助かりました。

私自身、アクセラレーションプログラムやインキュベーションプログラムといったものに参加した経験がなかったので、事業に関するアドバイスや、事業を発展させるための切り口を相談できたこともありがたかったですね。


――採択された他の5社とは交流はありましたか?

井川:エアロセンスさんや、アイランデクスさんとは他島でもご一緒したので、つながりができました。あとの方々は今後コラボレーションできる機会があれば、ぜひより深く関わりたいと思っています。今はそれぞれ自分の事業で必死だと思うのですが、企業同士がつながれるTOKYO ISLANDHOODのコミュニティはすごく貴重なので、今後もお互いの活動をキャッチアップできたり、新しい方が来られたときにサポートできたりする関係になれたらいいなと思います。

例えば定期的に集まって、お互いの活動を報告したり、事業での困りごとを相談しあえたりするような、「困ったときにはあそこへ行けばいい」という場所になったらいいなと思います。さらに島の事業者の方々ともつながって、相談しあえる環境になれたらいいですね。


――確かに僕たちのような島の人間にとっても、困りごとが出たときに相談できる場があれば、お互いにとっていいコミュニティができそうな気がしますね。

井川:式根島に行ったときに、偶然診療所の岩瀬先生が主催する「おせっかい会議」が開催され、参加させていただきました。島で困っていることについてみんなで話そうという会なんですが、議員さんやIターンの方とか、経験も立場も違う皆さんが参加されていて、思い思いの意見が沢山交わされていて、すごくいい場だなと思いました。会議に参加していない人も、困りごとはたくさんあるはず。これからもっと裾野を広げていけたらいいんじゃないでしょうか。


――それはいいアイデアですね。そういう機会も含めて、今後の島での事業展開について、どのようにお考えでしょうか?

井川:島の皆さんによりよく利用していただくための環境づくりを続けていきたいと思っています。

新島と式根島は同じ新島村ですし、距離もとても近いんですが、2島は医療に関する状況もニーズも価値観も全く違っていました。島によってこれだけ色が異なるのですから、島ごとのニーズに合った医療ボックスを設置する必要があるのではないかと思っています。非効率だと言われても、しっかり現地の方からお話を伺いながら、よい事業にしていきたいと思います。


――本日はありがとうございました。


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