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彼女の知らないいくつかのこと

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一日一本書き下ろし短編小説。
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帰り際に部長に呼び止められたせいでいつものバスに乗り遅れた彼女は歩くことにした。会社からマンションまでバスなら十五分、歩いても一時間はかからない。折しも満月が昇ったばかりで、散り始めた桜を眺めながらそぞろ歩くのも悪くはない。歩いて帰るのは随分と久しぶりだった。ランチに利用するいくつかの店も見えなくなったあたりで後続のバスが追い抜いていったが、彼女は気にしなかった。彼女が気に留めたのは、信用金庫の前

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